ダイジョーブじゃない手術を受けた俺176

 最後のバッターである楊から三振を奪い、そのままゲームセットとなったのだが、整列した両チームは対照的だった。
 勝った青道は笑みを浮かべ、負けた明川は涙を流している。
 たった1イニングだけの登板だったけど、彼らがどれだけ本気で俺たちと戦っていたかはよく分かっているつもりだ。
 本気じゃなかったら俺はあそこまで楽しいと思わなかったはずだから。

 楊と握手した時にはお互い何も話さなかったが、いずれは同じピッチャーとして腹を割って話してみたいもんだ。
 野球をやってればいずれそんな機会も来るだろう。
 同い年らしいから運が良ければ次は秋の大会でまた戦えるし、その時にはお互いに今よりも強くなっているはずなので、今から再戦が楽しみである。

「荷物持って移動するぞ。この後はスタンドで次の試合を観戦する。勝った方と戦うことになるから、全員しっかりと見ておけ」

 ベンチに戻るや監督からそう言われた。
 そういえばこの後すぐに市大三高が試合をするんだっけ。
 あそこには都大会で俺たちを苦しめた天久がいるから、監督の言う通りその試合だけは観ておいた方が良さそうだ。

 と、いうことで皆んなで観客席の方に移り試合を観戦することになった。

「南雲先輩、お荷物お持ちいたします!」

「お、あんがと沢村」

 俺の荷物は沢村が率先して運んでくれた。
 試合で投げた球数は多くないけど、中盤からブルペンで結構投げていて、今になって疲れがじわじわ出て来たところだったから有り難く持ってもらった。

 そして、空いている席に移動しようとしたらウチの部員たちが席を確保してくれていたらしく、良い席から試合を観戦出来ることになった。

「南雲先輩、確か市大三高っていえば前の春大でウチが負けたとこっスよね?」

「ああ、そこそこ。ついでに言えば西東京地区で稲実と同じくらい甲子園に行ってるチームで、ここ数年は毎年そのどっちかに夏の甲子園出場を阻まれて来た因縁の相手、らしい」

 去年は稲実、俺が入学する前の一昨年は市大三高に負けて青道は甲子園に行けなかったと聞いた。
 そろそろ両方倒して青道が甲子園に乗り込む番だ。
 市大三高には都大会で負けた借りもあることだし、その分まとめて返す必要がある。
 あれから少し経ってどれだけ成長してるか分からないけど、こっちも合宿を経て強くなっているからかなり良い勝負が出来そう。

 んで、そんな市大三高の相手は薬師高校ってところだった。

「あんまり聞かないけど薬師って強いの?」

「ここ数年で力を付けてきてる高校だな。監督が代わって攻撃重視の方針を採るようになってから、得点力が馬鹿みたいに高くなったらしい」

「しかも、これを見てみろよ」

「どれどれ……」

 3、4、5のクリーンナップが全員1年生となっている。
 上から順に秋葉、轟、三島。 得点力が高いってチームの中でいきなり重要な打順を任されるってことは、それだけ実力を兼ね備えたルーキー達なんだろうな。

「この1年生三人のこれまでの成績って分かるか?」

「ほら、これだ」

「さんきゅー」

 御幸から綺麗にまとめられたデータを受け取る。
 ざっと目を通して確認していくが、やはり薬師のメンバーの中でも打撃の成績はこの三人が頭ひとつ抜けてるな。
 バットを振り回してくるチームの中でも存在感を発揮しているなんて、よほどの打撃力があるってことだ。

 ……って、これマジか? 
 その三人の中でも一人だけ明らかに別格な記録を叩き出している奴がいるんだけど。

「おいおい、轟ってやつの成績ヤバくね? 前回の試合で4打席中3ホームランとか記録ミスか?」

「俺もミスかと思って聞いたんだけど、それで合ってるらしいぜ。他の試合でもホームランを量産してるし、間違いなく要注意人物の一人だよ」

 これが記録ミスじゃなく実力なら、相当凄いスラッガーだな。
 下手すりゃ哲さんレベルの。
 次の青道の相手は市大三高で決まりだと思っていたけど、これは思わぬ伏兵になるかもしれない。

「一人、ってことは他にもいんのか?」

「真田って2年だ。薬師のエースで、ムービングを武器にするタイプのピッチャー。基本的に薬師はどの試合でも点の取り合いになるが、こいつが投げるとほとんど点を取られていない。情報もあんまり出ていないし謎が多い選手だな。まぁ、それは薬師ってチーム全体に言えることだけど」

 ますます興味がそそられる。
 登板したイニングが少ないの気になるけど、それでも未だ1イニングしか投げてない俺みたいな奴もいるから、実際に試合をしてみないと何とも言えない。
 薬師はウチほど投手層に余裕があるわけでは無さそうなので、やはりスタミナに難があるのか、もしくは怪我の影響で連投出来ないかのどちらかの可能性が高そうか。

 ただ、少なくとも抑えの守護神としてはすこぶる優秀な選手である。
 ムービング使いの沢村はもちろん、降谷にとっても勉強になる相手だと思う。
 今日の楊なんかだとタイプが違いすぎてあまり二人の参考にはならなかっただろうし。

「沢村と同じムービングボーラーか。この真田って人、データを見る限りでは相当良いピッチャーだぞ。何か盗めるものがあるんじゃないか?」

「うす! いつでも行けるように準備しておきます!」

 ……うん、別に出番があるとは言ってないんだけどね。

 

   

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