ダイジョーブじゃない手術を受けた俺192

 4回の裏、仙泉高校の攻撃を丹波は無失点で切り抜けた。
 魂を燃やしているかのような熱いピッチングで、真っ向から仙泉打線をねじ伏せたのだ。
 そんな彼に影響された青道ナインも追加点を奪ってやると意気込み、チームの士気が一段階引き上げられた様子である。
 ここまでの投球でそれなりに消耗してしまった丹波だったが、活気に満ちたベンチの状態を見てまだまだ投げられると奮起した。

 そして、試合が進むにつれその点差は広がっていった。

 9回の表、青道のラストイニングが終わった時点で点差は5-1。
 先ほどの仙泉高校の攻撃で遂に丹波が失点してしまったが、そこから三年生としての意地を見せ、1点のみの失点で攻撃を終わらせたのだ。
 青道打線も力投を続ける丹波を援護する為に追加点を奪っており、着実に勝利へと駒を進めていた。

「丹波、大丈夫か?」

「あぁ……大丈夫だ」

 汗を拭いながら答える丹波の表情はとてもじゃないが大丈夫そうには見えなかった。
 ただでさえ長イニングの登板による疲労が蓄積している上、序盤からスタミナを考慮しない投球を続けていたのだ。
 ここまで投げられただけでも十分な頑張りだろう。

 とはいえ、これ以上の登板は負担が大きすぎる。
 交代の時が来たのは誰の目から見ても明らかだった。

「よくやってくれたな、丹波。あとは他の選手に任せて休め」

「……はい」

 本能的にまだいける、と口に出そうだったところを何とか堪えた。
 自分でも限界が来ているのは自覚している。
 今までの試合でも8イニングもの長時間を投げたことはなく、これ以上は相手打線を抑えられるかどうも分からない。
 無理にマウンドに残ってもチームの足を引っ張るだけだと考え、丹波は大人しく身を引いた。

「降谷、いけるな?」

「いけます」

 そして、ここで片岡が選んだのは一年生の降谷だった。
 川上はもちろん、沢村もいつでも試合に出られるようにずっと準備していたが、片岡は経験の多い川上ではなく降谷というあらゆる可能性を秘めた選手を選んだようだ。

 ただ、こういう場面で常に任されて来ていた川上は名前を呼ばれずに人知れずショックを受けていた。
 リリーフという起用に一番慣れているのは他ならぬ彼であり、今日もこの瞬間のために黙々と調整を続けていたのである。
 どういう言葉で言い繕っても選ばれなかったという結果は変えられない。
 川上は悔しさで拳を握り締め、それでも先輩として降谷に声を掛けた。

「──頑張れよ、降谷!」

 そう言って背中をポン、と押してやる。
 ここで素直に応援してやれない自分が少し嫌になる川上だったが、本気で野球と向き合っているからこそ役割を奪われて悔しく思うのは当然だろう。
 そんな彼の思いを汲んだのかどうかは分からないが、降谷は真っ直ぐ川上の目を見てコクリと頷いてマウンドへと向かって行った。

「ノリ」

 一人落ち込む川上に声を掛けたのは南雲だ。
 同じ投手として彼の気持ちが痛いほど分かるが故に、降谷の背中を押したところを見てその心の強さに尊敬の念を密かに抱いていたのである。

「大丈夫。お前の力はこの先絶対に必要になる。俺はまだまだ弱いみたいだからさ。俺がピンチになった時、ノリが助けてくれよ」

 驚いた様子を見せる川上。
 丹波と共に南雲からエースの座を奪うことを誓った川上だが、チームの誰もが認める男からそう言われて嬉しくない筈がなかった。
 同時に、普段から隙を見せない南雲が自分を頼ってくれるような発言をしたことに驚いたのだ。

「南雲……。あぁ、任せてくれ!」

 当然まだ悔しい気持ちは残っている。
 一年生に自分の役割を奪われてしまったのだから、そう簡単にそれが晴れることはない。
 だが、それとは別に降谷の能力や才能を川上は認めている。
 だから悔しさはあっても不満はない。
 もっと力を付けて次の出番に備える、川上はそう自分を納得させて前を向くことにした。

 そして、降谷が自身の持ち味である豪速球によって次々とストライクを奪っていき、最後のバッターをしっかり三振に打ち取ると、この試合は青道の勝利で幕を閉じたのだった。

 

   

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