ダイジョーブじゃない手術を受けた俺75

 ズバンッッッ!と、強烈な捕球音が響く。
 懐かしくも心地良い音。
 これを聞くと不思議と身体の底から力が溢れてくる。
 こうしてピッチングをするのは久しぶりだというのに、俺の右肩は驚くほど軽くてかなり気持ち良く投げられていた。

「ナイスボール。球威もコントロールも問題なさそうだ。これなら試合に出ても余裕で抑えられんだろ。完全復活、だな」

 御幸はそう言って座ったままボールを返球してくる。
 マスクの下で笑っているのが何となくわかった。

「にしし。当たり前よ。次の大会でしっかりと稲実に借りを返さないといけないし、いつまでも燻っている訳にはいかない。俺が登板する予定の練習試合もきっちり完封してやるさ」

「それでこそ南雲だ」

 お互いにこの時間が楽しくて仕方がないという感じだな。
 実際に俺は早くピッチングがしたいと毎日思っていたし、この瞬間を待ち望んでいたのは御幸だって同じことだろう。
 ま、こいつの場合は他の投手陣からも受けていたから、俺ほど待ちわびていた訳じゃないかもしれないけど。

「ほぉ……これは凄い。試合の映像を観たが、実際に直接目にしてみるとそれの数倍の迫力がある。あのレベルのストレートを投げられるのはプロにもそう多くはない。まさに天性の才能だな」

「そう言ってもらえると俺も嬉しいっすね。どうです、何かアドバイスとかありますか?」

「アドバイス、か。ふむ、じゃあ変化球も一通り投げてみてくれ」

「うっす、了解です。御幸、次は変化球だ。久しぶりだからって取りこぼすんじゃねーぞ?」

「任せとけ」

 落合さんからの要望があったので、まずは普通のスライダーから投げ、そのあとカットボール、チェンジアップと続けて投げるが、御幸は見事にミットの芯でボールを捉えてみせた。
 ブランクがあったから多少は手こずると思っていたけど、そんな心配はまったく必要なかったみたいだな。
 ミットの良い音が響いて調子が上がってくるような感じがする。

 でも、果たして次のこいつはどうかな?

「次は同じお待ちかねの高速スライダーだ。張り切るのは良いけど、怪我だけはすんなよ?」

「はは、余計な心配してないで早く投げろ。俺だって今日までずっと我慢してきたんだからな。死んでも捕ってみせるさ」

 その意気や良し。
 俺も手加減なんて無粋なことはせずに全力で応えよう。
 指先の感覚、肘の振り、肩の柔軟性、今のところその全てが良好だ。
 あとはイメージ通りの球を解き放つだけ。

 頭の中では何度もイメージトレーニングをしてきたんだから、今はただそれをなぞるようにすればボールは自然と曲がっていく。
 この高速スライダーはヒットどころか未だにバットに当てられたことすら無い、正真正銘の俺の決め球。
 今日は俺の球を初めて見る落合さんも居ることだし、度肝を抜くような最高の一球を見せてやるぜ。

「さっきのスライダーとは違うのか?」

 俺たちがずいぶんと勿体ぶっていたからか、落合さんが興味深そうに尋ねてきた。

「違いますよ。腕の振りは同じですけど、少しだけ握り方を変えているんです。そうしたら普通に投げるよりもかなり球速のあるスライダーが投げられまして。ほとんど直球と同じくらいの速度が出せるんですよ」

「それが本当なら驚きだが……」

 どうやら話だけでは半信半疑みたいだな。
 ふっふっふ、落合さんの驚く顔が今から楽しみだよ。

「まぁ見ててください。言葉で説明するよりも実際に見て貰った方が早い」

 俺はそう言ってグローブの中でボールの握りがしっくりくる位置を探し、今までの投球と同じように大きく振りかぶってモーションに入る。
 誰も捕れない球なんてどれだけ凄かろうと意味が無い。
 鋭い……いや、鋭すぎる変化だからこそ、並みのキャッチャーではこのスライダーを捕球することは中々難しいだろう。

 だが御幸なら捕る。
 理由なんて特にないが、なぜか今は御幸が取りこぼす光景がまったく湧いてこなかった。

 左足で地面を思いっきり踏みしめ、身体の体重移動を意識しながら指先のボール解き放つ。
 そのボールはフォーシームの軌道で力強い直球のように唸りながら突き進んで行き、そしてそれがちょうどバッターの手元でカクンッ、と鋭く曲がった。

「ほぅ……!」

 理不尽なほどの変化球。
 この球は負担が大きいので多投は出来ないとはいえ、こんなものを投げられたバッターは打てる気がしないんじゃないだろうか。
 少なくとも俺は打てないと思う。

 打てるとすれば、それはこの球を誰よりも間近で見てきた御幸くらいだろう。

「――へへへ、見たかよ。こっちは毎日イメージトレーニングして万全の状態にしてたんだよ。何球投げられたって完璧に捌いてやるぜ」

 そう言って笑う御幸のミットの中には、しっかりと俺が投げたボールが収まっていたのだった。

 

 ◆◆◆

 

 南雲 太陽 (復帰後)

 球速152キロ
 コントロールB
 スタミナA

 フォーシーム、ツーシーム、スライダー3、高速スライダー3、カットボール2、チェンジアップ3

 弾道4 ミートD パワーB 走力C 肩A 守備C 捕球B

 怪童、怪物球威、変幻自在、ドクターK、ド根性、鉄人、キレ◎、打たれ強さ○、勝ち運、闘志、パワーヒッター、人気者

 

   

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