ダイジョーブじゃない手術を受けた俺138

「南雲先輩!」

 試合が終わってベンチから自分の荷物を運び出していると、不意にそんな声が聞こえてきた。
 振り返ればそこには沢村がいて、何やら急いで走って来たようで息を切らしている。

「おいおい、どうしたよ。そんなに慌てて」

「どうしたじゃないッスよ! 南雲先輩、あんなに凄いピッチングするなんて知りませんでした! どうやったら先輩を超えられますか!?」

「は?」

 俺は沢村のその言葉にポカンとしてしまう。
 一目散に向かって来たから一体何があったのかと思えば、まさかのアドバイスを求めに来たとは。
 しかもその内容が俺を超える方法を教えてくれ、だからね。

 確かに今日の試合で自分の実力を示そうという気持ちもあったが、まさかここまでの効果があるとは思わなかった。
 他の一年は流石に沢村ほど単純な訳ではないだろうけど。

「……それを俺に聞くのか?」

「はいっ! 本人に直接聞くのが一番手っ取り早いと思いまして!」

「普通はもっと遠回しに聞くとか、誰か別の人にアドバイスを求めるのが普通だと思うんだけど」

「他に聞けるような先輩は居ません!  あ、お荷物お持ちします」

「このくらい自分で持つから大丈夫。あと、元気いっぱいでそんなこと言うなよ。聞いてるこっちが悲しくなるわ」

 まぁ、沢村の性格を考えれば今のランニングメニューから卒業さえすれば、すぐにチームへ溶け込めるとは思う。
 中々コミュ力が高そうだし、こいつ。
 気付けば周りの部員はさっさと移動しており、この場に残っているのは俺と沢村だけになっていた。

 御幸と倉持の二人、俺を置いていきやがったな?

「それで、どうやったら俺を超えられるか、だったっけ?」

「はい!」

 これまたド直球な質問だ。
 そもそもの話、そんなことを考えたこともないんだから答えられる筈がないだろうに。
 投球に関してのアドバイスなら色々と教えられるかもしれないけど、質問の内容が大雑把過ぎて答えようがないよ。
 別に意地悪とかではなく、本当に知らない。
 適当に誤魔化しても良いんだが、沢村の愚直さを損なうような真似はしたくはなかった。

 二軍どころか現状では三軍の練習にも参加できていないみたいだし、今の沢村がやれることは限られている。
 とはいえ、折角やる気になっている後輩を突き放すのもな。
 沢村からは面白そうな香りがプンプンするし。

「今のお前に言えることは、しっかり走って体力を付けろ。そうすれば自然と下半身が鍛えられて良い球が投げられると思う」

 俺から言えるのはこのくらいか。
 後は沢村自身が自分の力を認められて、二軍や一軍に上がってからの話だろう。
 むしろ大変なのはそこからだ。
 青道には俺だけではなく、他にも優秀なピッチャーはいくらでもいるのだから。

「もしお前が二軍に上がったら、もっと具体的なことも教えてやれる。今は焦らずに地道にやるこったな。俺を超える云々はお前次第だよ、沢村」

「は、はい! ありがとうございます!」

「満足したならさっさとバスに戻るぞ。このままゆっくりしていると置いてかれちまう」

「うす!」

 流石に俺が置いて行かれることはないと思うけど、応援組のバスに乗ってきた沢村はワンチャン置いて行かれる。
 だから急ごうと思ったんだが……途中で見知ったやつの顔を見つけてしまった。
 俺の記憶にある表情よりも少し大人びていて、あいつも色々と成長したみたいだ。

 気付かないフリをしてこのまま立ち去っても良いんだけど、何となくそれは違う気がした俺は足を止めた。

「沢村」

「はい、なんスか?」

「やっぱり俺の鞄も運んでおいて。バスの前にちょっとトイレに行ってくるからさ。お前は先に行ってていいぞ」

「了解しました、兄貴!」

「……お前の兄貴になった覚えはないんだけど」

 そんな俺の声を聞く前に沢村はダッシュでバスへ向かっていった。
 元気だけなら既に一流だな、ありゃ。
 それが試合でも出せるようになれば、味方に良いリズムを作り出すピッチャーになれるかもしれない。
 あんまり言うと調子に乗りそうだから言わないけど。

 でも、沢村が素直に信じてくれて助かった。
 向こうはどうやら俺を待っているみたいだし。

「さて、久しぶりだな――成宮」

 稲城実業のエース、成宮 鳴がそこにいた。

 

   

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