ダイジョーブじゃない手術を受けた俺157

「──ゲームセット!」

 主審の声がグラウンドに響く。
 一軍の試合はコールドゲームでサクッと終わった。
 最後まで降谷の球が捉えられる事はなく、反対にこちらの打線が爆発して最短で試合が終了してしまったのだ。

 ただでさえ都大会で負けてから気合いが入りまくりの状態な上に、そこに降谷の好投が合わさってすっかりワンサイドゲームと化していたから、ある意味当然の結果かもしれない。
 持ち球が直球だけなのに相手打線を抑えた降谷は大したものだ。

「お疲れさん。ナイスピッチングだったぜ、降谷」

「ありがとうございます」

 少し肩で息をしている降谷にタオルとドリンクを渡してやった。
 試合が終わった今でさえ闘志だけは全く衰えていないが、この消耗具合から察するにあと1イニングでも長引いていたらスタミナ切れで交代させられてたんじゃないかな。
 後半は制球力が乱れて無駄なボール球をかなり投げていたから、今後も一軍で活躍する為にはそこを改善する必要がありそうだ。

 でもまぁ、初出場にしては上出来である。
 課題はいくつかあるけど、一応最後までひとりで投げ切ったことには変わらない。
 今日の試合での経験は必ず今後に活きてくるだろう。

「御幸もお疲れ。降谷の球はどうだった?」

 手慣れた様子で防具を外している御幸にそう尋ねると、俺が思っていたよりも難しい顔を浮かべていた。

「まだまだ駄目だな。高めに浮くボールが多すぎる。今日は相手が手を出してくれたから良かったけど、次からはもっと低めに入れれるようになれなきゃ話にならない」

「……結構厳しいな」

 結果的に無失点で5イニングを投げ切ったんだからもう少し褒め言葉が出てくると思ったけど、御幸は褒めて伸ばすということを知らないらしい。
 厳しい言葉だけじゃ人は成長出来ないんだぞ。
 もっと飴と鞭を使い分けろー。

「俺も降谷が二番手投手で満足するならここまで言わねーよ。でも、こいつはそんなところで満足するような奴じゃない。そうだろ?」

「もちろんです」

 未だに吐く息が少し荒いが、やる気だけはあるみたいだ。
 まったく、今年の一年には気合いが入っている奴が多くて楽しいね。
 こっちまで燃えてくる。

 いい感じに気持ちが上がってきたところでさっそく練習、と行きたいところだけどこの時間ならまだ二軍の試合がやっている筈だ。
 沢村のどういうピッチングをするのか見てみたいし、ゾノ達の応援もしたいので、今からは練習ではなくそっちに行くつもりだ。

「俺はこれから二軍の試合を見に行ってくるよ。今ならまだ沢村が投げるところを見れるかもしれないし」

「んじゃ俺も一緒に行こうかな。降谷、お前はどうする?」

「僕は……いや、僕も行きます」

 へぇ、意外だな。
 降谷のことだから自分以外が投げている試合になんて興味ないと思っていた。
 俺もどちらかと言えばそういうタイプだから別に悪いとは言わないけど。

 そのあと倉持も誘ってみたが伊佐敷先輩と筋トレをする約束をしているからと断られ、俺たち三人は一軍が試合をしていた第1グラウンドから第2グラウンドに移動した。
 すると今は6回の裏、青道の攻撃が行われているところだった。

 バッターボックスに立っているのは……おっ、ちょうどゾノじゃないか。
 打席に入るといつもより顔の迫力が増すんだよな、あいつ。
 正直、今はバッティングの実力よりも顔の方が全然怖い。

「あー……ショートフライか。ゾノのやつ完全に力み過ぎたな」

「誰よりもパワーはあるんだからもっと素直にバットを振れば良いのにね」

 豪快なスイングだったが飛んだ場所はショートの遥か上空で、相手チームのショートが落球することなくアウトにし、そのアウトによってチェンジとなってしまった。
 点差は僅かに青道側が1点のリードをしているものの、スコアボードを見る限り結構な乱打戦になっているので、残り3イニングで逆転されてしまう可能性も十分にありそうだ。

 こういう場面でしっかり抑えてくれる投手がいるとかなりチームとしてはかなり有り難い。
 ウチではノリがその役割を果たしてくれることが多いかな。
 ノリはリリーフとして試合に出場してきた経験が豊富で見ている方も安心出来るから、早いとこスランプから抜け出してまた活躍して欲しい。

「お、沢村が出てくるみたいだぜ。何かやらかさなけりゃ良いんだけど」

 ここで沢村を投入するのか。
 確かいま二軍の指揮を取っているのは落合コーチだった筈だ。
 落合コーチってあんまり沢村みたいなタイプの投手は好きそうじゃないと思うだけど、こんな場面で使うってことはそれなりに期待してるのかな? 
 技術はともかく気持ちは強いし。

「ガンガン打たせていくんで、バックの皆さんよろしくお願いします!」

 マウンドに上がった沢村はバックの守備陣に向かって何やら叫んでいる。
 いつでもどこでも元気な奴だ。
 チームの士気を上げるにはこれ以上ないくらいにうってつけだろう。

 俺は心の中でエールを送りながら沢村の第一球を見守った。

 

   

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