ダイジョーブじゃない手術を受けた俺159

 沢村のピッチングに新しい可能性を感じた俺は、その日から試行錯誤しつつ、自分のフォームの改造に精を出していた。
 利き腕のタメ時間を少し長くし、ギリギリまでリリースポイントを体で隠すような投球フォーム。
 130キロほどの沢村の球ですら相手が振り遅れてしまうくらいなので、俺の球速と掛け合わせればフォーシームを含めた俺の持ち玉全てがさらに進化するだろう。

 ただ、あいつのは天性の柔軟さを利用して投げているだけなので、そのままコピーしても俺には真似出来るものじゃなかった。
 一度軽くやってみたけどまともに投げられたもんじゃないぞ。
 肩が外れるかと思った。
 沢村の異常さがよく分かったよ。
 だから完全なコピーではなく俺に合うように自分で調整しなければならず、そこがちょっと難しかったな。

 でも手応えは上々だ。
 というか、ほぼ完成したと言ってもいいだろう。

 俺はワインドアップではなくセットポジションの構えを取る。
 ワインドアップだと上手く体重移動できないのか球威とコントロールが安定せず、しかも投げ難くてストレスを感じたので、逆に開き直って常にセットポジションで投げる事にしたのだ。
 プロ、特にメジャーとかだとそういう投手も増えてきているようなので別におかしくは無い。
 高校野球だとちょっと珍しいけどね。
 何となく球威が落ちるイメージがあったけど、慣れたら別にそんなことは無かったし。

 グローブで壁を作り、左足をホームベースへと真っ直ぐに踏み込ませて、意識的に右腕をタメてからボールを解き放つ。

 ドスンッッ!!!と、我ながら良いボールがミットに突き刺さった。
 球威自体に変化は無い。
 だが、これまでと一味違うのは打席に立てば一目瞭然だろう。
 現に御幸の後ろにあるネット裏から見ていた監督と落合コーチは驚いた表情を浮かべているのだから。

「……最近何かやっているとは思ったが、これか」

「監督から見てどうですか? 沢村のを参考にして自分なりに手を加えてみたんですけど、個人的にはかなり手応えがあったんですよね」

 監督は考えるように目を閉じた後、フッと笑った。

「明後日、他校との練習試合が組まれている。そこで打者に対してどこまでやれるか確かめてみろ」

「はい!」

 これは監督も新しいフォームを認めたってことだよな? 
 早く試合で試したいと思っていたから、その機会を早速作ってもらえるとは幸運だ。
 期待に沿えるように頑張らないとな。

「お前これを沢村のピッチングを見て完成させたのか?」

「そうですよ、落合コーチ。練習試合で見た時から動き始めて、そこから色々試してたら上手くいきました。沢村にもちょっと協力してもらいましたけど」

 沢村には近くでピッチングを見せてもらったり、力の入れ具合とかを教えてもらったりした。
 これだけ早くフォームの改造が出来たのも見本が身近に居てくれたおかげだろう。
 とりあえずお礼としてプロテインを一袋渡しておいた。
 ただ、あいつはピッチングに関して深く考えている訳ではないらしく、何か聞いても抽象的な答えしか返ってこなかったから教師役には向いていないと思われる。

「あんな滅茶苦茶な投げ方を短期間でここまで完成させるとはな。球威とかコントロールに悪影響は無いんだろ?」

 落合コーチも心なしかいつもより目が輝いている気が……いや、いつも通り死んだ魚の目だな。

「今のところは無いっすね。スピードガンで測ってみても球速は変わらなかったし、コントロールだって別に悪くはなってないかと」

 俺の言葉に同意するように御幸が頷く。

「自分も問題無いと思いますよ。心配なのはフォームが変わったことで肩や肘に負担が掛かることですが、見たところむしろ今までよりも負担は少なそうですし」

 うん、身体への負担はかなり少ないと思う。
 今までのフォームで投げていた時よりも余計な力が抜けて、上手い具合に力がボールに集まるようになったんだよな。
 スマホで撮影したもらった自分のピッチング動画を見せてもらったけど、傍から見れば少し手を抜いているような投げ方に見えたくらいだ。
 身体への負担が大きければすぐにでも元のフォームに戻すつもりだったが、まさか軽くなるとは良い意味で想定外だった。

「御幸、今の南雲の球を受けてみてどうだ?」

「……今のフォームになってさらに1段階、難易度が上がった気がします。当面の間は俺とクリス先輩以外のキャッチャーとは組ませない方がいいでしょう。俺たちでも稀に芯を外すことはありますから」

 御幸は本当によくやってくれている。
 沢村、クリス先輩、そして御幸の協力があったからこそ俺はこうして更に強くなれたのだから。

 あ、ちなみにバッティングに関してもちゃんと練習は怠っていないよ。
 ピッチング練習の時間を全てフォームの改造に費やしただけだから、打撃練習の時間自体はしっかり確保してある。
 課題だったミート力も毎週のようにある練習試合を通して確実に上達している実感があった。
 今なら天久や成宮みたいな全国クラスのピッチャーが相手でも、無安打で終わる無様は晒さない自信がある。

 そしてその日から二日後、試合に登板した俺はほぼフォーシーム一本で相手チームをねじ伏せ、新しいフォームを完全に自分のものにしたのだった。

 

   

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