鬼神と死の支配者167

 ブレインに参加の意思を確認し、大量の料理を平らげた二人と一匹は一様に満足げな顔を浮かべていた。
 ブレインとコンスケは腹が満たされたこと、そしてオロチは自分の望み通りの結果なったことに対するものだ。

 人間がどこまで強くなれるのか、どこまで自分たちの強さに近付けるのか、そして――ナザリックの脅威となり得るのか。

 それらを知る為にはブレインという男は非常に重要だった。
 クレマンティーヌを通してある程度調べが付いているとはいえ、参考資料は多いに越したことはない。
 その上、ブレインは並みの人間とは比較にならないほどの向上心があるからだ。

 ちなみにクレマンティーヌに関して言えば、ナザリックの脅威となるレベルまで強くなる可能性は限りなくゼロに近いと思われる。
 というのも、レベルの上がり方が非常に緩やかなのだ。
 前回のビーストマンとの戦いでクレマンティーヌは確かに成長しているが、劇的なレベルアップをしているとは言い難い。

 もちろん技術面ではオロチやプレアデスたち数人との訓練で上がってはいる。
 しかし、圧倒的なレベル差の前ではいくら技術を磨いた所で意味がない。
 人間がどれほど剣術を極めようとも、高位レベルモンスターに攻撃されれば一瞬で潰されてしまうのが関の山。
 この世界の人間はそもそも、ナザリックの異形達と同じ土俵にすら立てていないのが現状である。

 故に、ブレインという存在は人間の脅威度を正確に測る上で最適に近い男だった。
 もっとも、クレマンティーヌがナザリックの階層守護者並みに強くなる方法もいくつかあるが、言い出せばキリがないのでそれらは置いておく。

「まぁとにかく、お前の意思が確かなようで何よりだ。それじゃあそろそろ出るか。さっき言った修行場所について話さないといけないしな」

「あ、すいません師匠。実はもう依頼を受けてしまっていて、このあと数時間くらい掛かってしまいそうなのですが……」

「ふーん、ならパパッと行って早く終わらせてこい。それが終われば俺の屋敷で詳しい話をしてやるよ」

「わっかりました! 昼飯、ごちそうさまでした。全速力で終わらせてきますので、これで失礼します!」

 そうして、これから冒険者としての依頼があるというブレインと別れ、満面の笑みを浮かべる店員に見送られながら店を後にする。

 一方、オロチが向かった先は自らが所有する屋敷だった。
 いわゆる貴族街と呼ばれる通りに連なっており、先ほどの飯屋から十分ほど歩けば到着する距離にあるナザリックの活動拠点。
 今日はそこで過ごすつもりだ。
 なんとなく歩きながら周囲を見渡してみると、ここだけ時間が緩やかに流れているような平和な空気が感じられる。

「この辺りは金持ちそうな家ばっかだなぁ。余裕で盗みに入れそうな家が並んでいるけど、防犯的な対策は何かあるのかね。少なくとも俺たちなら根こそぎパクれそうだ」

「きゅい?」

「いや、冗談だ。流石にやらないから」

 やっちゃう? と若干目を輝かせるコンスケにオロチは苦笑した。
 コンスケとしては軽い悪戯程度の認識だったのだろうが、それを実行すれば少なからずこの街は混乱に陥ってしまう。
 理由もなく悪行を積み上げるのは愚か者のする事だ。
 無論、それは些細なことでも理由さえあれば実行するという意味でもあるのだが。

(リ・エスティーゼ王国が敵対すれば、そういう攻撃手段も選択肢の一つではあるな。敵の力を削ぎつつ資金調達も出来る。まさに一石二鳥。ちょっと楽しそうだし。……コンスケの前ではとてもじゃないが言えないがな)

 リ・エスティーゼ王国の貴族や金持ちからすれば悪夢のような想像をしながら、オロチは街の中を歩いていく。

 すると、ようやく目的地であるあまり見慣れていない屋敷が視界に入ってきた。
 エ・ランテルの街はリ・エスティーゼ王国の中でも比較的規模の大きい都市であるが、冒険者組合長であるプルトンから譲られたこの屋敷は庭を含めてかなり立派なものだ。
 普通に購入しようと思っても、例え貴族だろうが二の足を踏むような額が必要になってくるだろう。
 そんな屋敷は今、ナザリックの活動拠点のひとつとして活用されていた。

 そして門の前までやってくると、オロチたちが訪問すると聞いて待機していたナザリックのメイドの一人が、オロチとコンスケを笑顔で出迎える。

「オロチ様、コンスケ様、お待ちしておりました」

「おう、ご苦労さん。今日もよろしく頼む。俺たちが居ても変に気を張らなくて良いから、楽にしててくれ」

「きゅい!」

「かしこまりました」

 メイドに誘導されるまま敷地内に入ると、以前に見た記憶通り綺麗な見た目のまま管理されていた。
 前回来た時から何年も経過しているわけではないとはいえ、これは彼女達の努力の賜物だろう。

「見事な仕事ぶりだな。大変だとは思うが、これからも頼む。他のメイドたちにもそう言っておいてくれ」

「は、はいっ。伝えておきます」

 そして特にする事もないので、メイドに一声掛けた後はそのまま庭でコンスケの毛繕いをすることにした。
 流石にコンスケの本来の姿は巨大過ぎる為に出来ないが、今のぬいぐるみサイズの状態であればお互いに満足するまでブラッシングが出来る。
 アイテムストレージからコンスケ専用のブラシを取り出し、膝の上に寝かせたコンスケの毛を丁寧に撫でていく。

「気持ちいいか?」

「きゅい……」

 先ほどから続いている空腹感もあってか、早くもコンスケはウトウトし始めていた。
 この安心しきっている顔からは、コンスケがレベル100の強力なモンスターだとは誰も思わないだろう。
 二十分ほどがそんな時間が経過した頃、最初に出迎えてくれたメイドがなるべく音を立てないように近付いてくる。

「失礼致します、オロチ様。冒険者組合長のプルトン様が訪ねていらっしゃいました。如何なさいますか?」

「プルトンが?」

 到着してからそれほど時間が経っていないというのに耳が早いものだと、オロチは感心した。
 冒険者組合には明日、ブレインと共に顔を出す予定だったのだが、向こうからやって来てくれるのであれば好都合。
 会わない理由はない。

「わかった。応接室にでも通して、適当にもてなしておいてくれ。俺もすぐに行くから」

「かしこまりました」

 

   

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