鬼神と死の支配者130

 ナザリックの執務室、そこでアインズとデミウルゴスがお互いに真剣な表情で向き合っていた。
 この場には二人以外に誰もいない。

「デミウルゴスよ、それでは今回の報告を頼む」

「かしこまりました。ではまず、此度の作戦でナザリックが得たものについてのご報告からいたします」

「聞こう」

「今回我々が得たものは、大きく分けて4つございます。まず――」

 一つ目が資金。
 これは王都の倉庫区画から強奪したものだ。
 そこから得られた財は莫大であり、これでしばらくの間は活動資金に困ることはない筈だ。
 アインズ悩みの種がまたひとつ解消された。

 二つ目が犯罪組織の壊滅。
 オロチと別行動していたクレマンティーヌ、そしてセバスたちは八本指という犯罪組織を壊滅させている。
 幹部たちの身柄を生かしたまま捕らえているので、そのまま組織をナザリックが乗っ取る事もできるだろう。
 色々と有効的な使い道ができる筈だ。

 三つ目が人間。
 炎の壁の内側にいた人間たちは全てナザリックに連れ去っていた。
 アインズの行なっている研究の実験体やモンスターの餌など、その使い道は多岐にわたる。
 無論、捕まった人間たちには明るい未来などありはしないが。

 最後に、四つ目がオロチの名声だ。
 今までオロチが地道に積み上げてきたものに加えて、今回の活躍で冒険者としての地位が不動のものとなった。
 オロチの英雄譚は今後も多くの人に語り継がれていくだろう。
 冒険者として、これ以上ない名声を獲得できたと言える。

 それら四点が、デミウルゴスの作戦で得られたものだった。

「流石はデミウルゴス、素晴らしい戦果だ。それでは報告を続けてくれ」

「はい。では次に、ナザリックが被った被害をご報告いたします。無限湧きの配下が数体倒され、それからアインズ様から頂いたアイテムを数点使用しました。その二つが今回発生したナザリックの損害でございます」

「ふむ……驚くほどに少ないな」

 デミウルゴスの報告を聞き、アインズは少し驚いた表情を見せた。

 得られた物と失った物が明らかに釣り合っていない。
 当然、前者の方が大きいという意味である。
 無限湧きの配下は時間をかければナザリック内でリポップするし、アイテムも山のようにある内のひとつなので、どちらも実質的な損害と呼べるものではない。

「はい。今回はオロチ様に協力して頂きましたので、かなり被害を抑えることができました。なので私は、今回の功績は全てオロチ様にあると進言いたします」

 デミウルゴスは一切の躊躇なくそう告げた。

「もちろんオロチさんの活躍も大きいだろう。だが、だからと言ってお前の功績が無いという訳ではあるまい。ただ一つだけ気になることがある。デミウルゴスよ。お前、《デッドリー・アドベント》を使用したのか?」

「はい。ユグドラシルでも最強との呼び声が高いオロチ様であれば、時間稼ぎは難なくこなせると判断いたしました」

 アインズは当時のオロチの心境を察して苦笑した。
 ユグドラシルプレイヤーにとって、ワールドエネミーとは最強の象徴なのだ。
 ワールドエネミーを前にしてさぞかし焦っていたことだろう。
 ポーカーフェイスを保ったままに、内心で動揺しまくっているオロチの姿が容易に想像できた。

「たしかにオロチさんの戦闘力は私も頼りにしているが……あまり驚かせては駄目だぞ? オロチさんだって驚くことはある。そしてミスをすることだってあるのだからな?」

 以前から配下たちの妄信具合には一抹の不安を抱いていたが、それをもろに受けたのが今回のオロチだろう。
 ほとんどソロでワールドエネミーを相手にするなど、アインズからしたらブチギレ案件である。

「そう、ですね。オロチ様の力を盲信するあまり、私の迂闊な判断で危険に晒してしまいました。この罰は如何様にでも……」

「あとでオロチさんに謝罪を。それで今回は不問とする」

 

 ◆◆◆

 

 オロチの姿はナザリック第六階層、大森林エリアにあった。
 この大森林エリアは昼には疑似的な太陽が昇り、夜は満点の星空が眺められる。
 ナザリック地下大墳墓でも特に力を入れて作成されたエリアであり、オロチとコンスケお気に入りの昼寝スポットだ。

 そんな場所でオロチは、コンスケと共に日向ぼっこをして寛いでいた。

「それにしても大変だったよなぁ。まさか急にワールドエネミーと戦うことになるとは思わなかった。ああなると分かっていれば、絶対にコンスケを連れて行ったんだが……お前も一緒に戦いたかっただろ?」

「きゅい! きゅいきゅいっ」

「ははっ、もちろんだ。もし次があれば必ず教えるよ。俺だって全力で戦えるならともかく、制限されたままじゃ全然楽しめなかったんだからな? だから抜け駆けにはならねぇよ」

「きゅい? きゅい!」

 見ての通り、オロチとコンスケはしっかりと言葉のキャッチボールを行なっている。
 もちろんこれは偶然ではない。
 実は休暇としてナザリックに留まっていたこの数日間、オロチはハムスケからコンスケが話す言葉の意味を教わっていたのだ。
 その成果が先ほどの会話である。

 元々ある程度の意思疎通は出来ていたので、習得するまで思っていたほどの時間は掛からなかった。
 オロチとコンスケが同じ妖怪という種族だと言うのもあるだろう。
 あっという間に会話ができるようになり、コンスケが『拙者の唯一の存在意義が……』と溢してしまうほどの短期間であった。

 ともかく、こうして通訳を通さずに相棒であるコンスケと言葉を交わせるのは、オロチにとってもコンスケにとっても嬉しいことである。
 コンスケの9本の尻尾がいつもより多く振られているのは、決して気のせいではない筈だ。

「きゅいきゅい?」

「ん、次か? そうだな……しばらくはナザリックの外に出るつもりはないが、そろそろ竜王国の件に手を付け初めてもいい頃合いかもしれない。お前も手伝ってくれるんだろう?」

「きゅい!」

 コンスケは『もちろん!』という意味を込めてひと鳴きしたのだった。

 

   

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