ナザリックでしばらくの間休養を取っていたオロチだったが、そんな日々も今日で終わりを迎えた。
ついに竜王国へと向かう日がやって来たのだ。
オロチと共に任務に就くのは、ナーベラルとクレマンティーヌ、そしてプレアデスのシズ・デルタである。
さらにコンスケはもちろんのこと、オマケとしてハムスケも同行することになっていた。
そして、集まったその三人と二匹の顔を見渡してからオロチは口を開く。
「よく集まってくれた。事前に通達してある通り、お前たちはこれから俺と一緒に竜王国の統治の為に動いてもらう事になる。当面の目標としては、リ・エスティーゼ王国くらいの国力にまで成長させることだな。そうすれば将来的にナザリックの利益にも繋がるはずだから。何か質問はあるか?」
「はいはいっ、はーい! 質問がありまーすっ!」
元気よく手を挙げたのは身軽そうな装備で身を包んだ女――クレマンティーヌだ。
久しぶりにオロチと共に行動できるとあって、彼女は屈託のない純粋な笑みを浮かべている。
この場にシャルティアみたく、有無を言わさず殺気を飛ばしてくる存在がいないというのも、彼女活き活きしている理由のひとつだろう。
「なんだクレマンティーヌ?」
「竜王国でお仕事をするっていうのは聞いているけど、私たちは具体的に何をすれば良いの?」
「とりあえず、クレマンティーヌにはイリーガルな手段で動いてもらう事になる。いまの竜王国は急激な速度で国力を回復している途中だ。そうなると、犯罪組織の連中も力を付けていく事になるだろう。そういう連中は早めに叩く……もとい早めに首輪を付けておくに限る。表にできない仕事はお前の得意分野だろう?」
「フフフ、なるほどねー。任せてっ、絶対にご主人様の役に立ってみせるから!」
クレマンティーヌはそう言って自身の胸をポンと叩いた。
彼女はオロチと出会う前、様々な組織を転々としていたという過去がある。
さらにナザリックに合流した後は、リ・エスティーゼ王国に巣食っていた犯罪組織を一掃するのにも尽力していたことを考えれば、クレマンティーヌに相応しい役割だと言えるだろう。
ちなみに、その犯罪組織の幹部たちはいま、〝恐怖公〟と呼ばれる配下によって教育中である。
「ああ、頼りにしているぞ。念のためにサポートととしてシズを付けるから、彼女と協力してことに当たってくれ。シズ、そっちは任せた」
「……お任せください」
表情のない顔でそう言ったのは『CZ2Ⅰ28・Δ』――またの名をシズ・デルタ。
人間の少女にも見えるが、こう見えても彼女の種族は『オートマトン』と呼ばれるゴーレムの一種であり、戦闘力はクレマンティーヌを凌駕している強者である。
銃火器といった世界観ぶち壊しの武装を多数装備しているというのも、シズの特徴だ。
シズの言葉に頷き、オロチは話を続ける。
「それからナーベラルは俺の補佐をしてもらう。コンスケとハムスケのペアは……俺たちと一緒に来い。お前らは目立ち過ぎるから、俺と一緒にいた方が良いだろう」
「かしこまりました」
「きゅいっ」
「わかったでござるよ、殿」
オロチたちは表から、クレマンティーヌたちは裏から竜王国を支配、成長させていく。
秘密裏にナザリックからの支援も予定されているので、人外の者たちに国を支配されるということを除けば、竜王国に住む者にとってもそれほど悪い話ではない。
無論、これが他国に知られれば敵国認定される危険を孕んでいるのだが。
「他に質問はないか? んじゃ、そろそろ行くとしよう。各自くれぐれも油断しないようにな」
そう締めくくり、オロチたちは竜王国へと転移した。
◆◆◆
彼らが転移した先は竜王国の王都にある小さな一軒家だ。
この場所はオロチが事前に配下に用意させた活動拠点で、些か手狭ではあるものの、主にクレマンティーヌが使うことを想定して用意した家なので問題はない。
彼女に任された役割の性質上、あまり目立つ行動は出来ないのでこのくらいの家がちょうど良いのである。
「これから王城の方に行って女王さんと会うんだが、ひとまずシズはここで留守番していてくれ。冒険者チームとして謁見することになっているから、向こうが知らないやつがいるのはあまり良くはないんだ。だからすまないが、少し待機しててもらうことになる」
「……わかりました」
シズはゴーレムということもあってか、ナーベラル以上に感情を読み取るのが至難の技だ。
プレアデスたち姉妹からすれば一目瞭然らしいが、残念ながらオロチは未だその域には達してはいない。
だが何となく、本当に何となくだが少しだけ眉が下がっているような気がした。
(うーん、ここで気の利いた台詞を言えれば一番なんだろうけど、何も浮かんでこない……。とりあえずここは――)
オロチはアイテムストレージの中から、コンスケの人形を取り出した。
「アルベドにいくつか作ってもらったんだ。その一つをシズにやるよ。大切にな?」
「………………ありがとうございます、オロチ様」
(む、難しい。たぶん喜んでいる……よな?)
コンスケ人形を大事そうに抱きかかえているので、少なくとも嫌がってはいないはずだ。
チラッとナーベラルの方に視線を向ければ、コクリと頷きが返ってきた。
オロチの対応は間違っていなかったらしい。