鬼神と死の支配者149

 都市の建造が進められているヘルヘイムに襲来したガイアドラゴン。
 そして、それを捕食しようと現れた大型の鳥系モンスターであるガルーダを撃破したオロチは、その二体のモンスターをアイテムストレージにしまい込んだ。

「さて、予想外の獲物まで手に入れられたし、さっさと街に戻るか。――おい」

「はっ」

 オロチが声を掛けると、何処からともなくナザリック配下の高位デーモンが現れる。
 ヘルヘイム周辺には警備として彼らが多数配置されており、もしもオロチが居なければ、ガイアドラゴンの排除には彼らが当たっていたはずだった。

「当初の報告では、さっきみたいな大型モンスターの活動域はもっと山奥だったよな? どうなっている?」

「恐らく生存競争に敗れた個体が山を降りて来たのでしょう。ただ、可能性としては強い個体が現れ、モンスターたちに勢力図が変化したかもしれません。もう一度ヘルヘイム周辺の生態系を調べますか?」

「頼む。それからこの件は一応ナーベラルにも報告して、街がモンスターに襲われないよう注意しろと言っておいてくれ」

「御意」

 ヘルヘイムには多くの金持ちを連れてくる予定なので、まず第一に安全を確保しなくてはならない。
 モンスターが頻繁に現れる街など誰も近づきたがらないからだ。
 なので周辺の生態系のついては徹底的に調べ上げ、危険性のあるモンスターについては事前に刈り取っておく必要があった。

 やっていることは完全に環境破壊だが、だからと言って止めるつもりはない。
 むしろ生命を脅かす存在のモンスターを倒すことは推奨されているので、オロチが行おうとしている間引きも誰からも文句が出てくることはないだろう。

(まぁ、流石にやり過ぎてもどうかと思うから、間引くにしても色々と考える必要があるがな)

 南東方面に広がる雄大な山脈に視線を向け、まだまだやることは多くあるのだと再確認した。
 これでもオロチは王という地位に就いており、意外にも多くの仕事を抱えている。
 そのほとんどをドラウディロンに押し付けているとはいえ、だ、

 だが、今もナザリックで日夜奮闘しているアインズは、舞い込んでくる仕事を毎日ほぼ休むことなく処理している。
 それは前世での社畜時代よりも遥かに激務だろう。
 眠る必要がない種族とはいえ、かなりのハードワークなのは間違いない。
 自分にはとても真似できないと、オロチは改めて彼に感謝した。

 そして、これ以上この場所に留まっている必要もないので、すぐに着物を翻してヘルヘイムへと戻り始める。
 たまには友への労いとして、何らかの餞別でも送ろうかと考えながら来た道をそのまま帰っていくと、壊れ掛けの城門の上から厳つい大男たちが大きく手を振っているのが見えた。

「陛下ー!」

 オロチが腕を振り上げてやれば、『うぉぉぉぉおおおおお!!!』と野太い雄叫びが上がる。
 こういう暑苦しい男たちというのも嫌いじゃない。
 現実離れした容姿をしているオロチの表情にも笑みが浮かんだ。

(見た目は山賊でも中身は気の良い連中だ。よく働くし)

 そして門をくぐって街の中に入ると、そこにはまるで山賊と見間違ってしまうような身形の男たちがズラリと並んでいた。
 そんな集団の中から、一人の男が歩み出てくる。

「無事に戻って来られたってことは、ドラゴンを仕留めたんですかい?」

 聞いてきたのはこの場にいる大工たちのまとめ役である男だった。
 オロチは無言のまま、アイテムストレージの中から先ほど仕留めたガイアドラゴンを取り出すと、当然大工たちからどよめきが起こる。

「こ、こりゃすげぇ……。ドラゴンなんて産まれて初めて見やしたぜ。こんなデケェ化け物を、陛下は倒されたんですね……」

「コイツだけじゃなかったぞ?」

「へ? そりゃ一体どういう――うぉ!?」

 ガイアドラゴンに続けてガルーダの死体を外に出してやると、その近くにいた親方が大きく仰け反って尻餅をついた。
 いくら強面の大男でも、生物としての格が違うモンスターには肝を冷やすらしい。
 周りにいた男たちも同様に驚いている。

「はっはっは、大丈夫か? 流石の親方でもコイツらにビビってしまうらしいな」

「ビビるも何も、下手すりゃこのままチビっちまいそうですよ……」

「それは悪いことをした。許してくれ」

 オロチは悪戯が成功した悪ガキのような笑みを浮かべながら、驚いて尻餅をついている親方に手を差し出して起き上がらせる。

「死んでいるってわかっていても、俺のカカァよりおっかねぇや。この恐ろしい鳥型のモンスターも陛下が倒されたんで?」

「ああ。ガイアドラゴンとの戦闘中に、このデカい鳥……ガルーダが乱入してきたんだ。せっかくだからついでに狩ってきた。一匹増えたところで、大して手間でもないしな」

「これがついで、ですかい。はははっ! 相変わらず剛毅なお方だ。俺が女なら惚れてるところでさぁ」

 冗談でも厳つい男に惚れているなどと言われたオロチは、思わず眉を顰めた。

「俺に男色の趣味はないぞ? 気持ち悪いことを言うんじゃない。その言葉は来世以降、美女に生まれ変わってから言ってくれ」

「ガハハハ! 違ぇねぇ!」

 親方につられて周囲の男たちにも笑いが広がっていく。
 ただ、その笑っている大工たちの中に肩を落としている者がいるのは一体どういうことなのか。
 オロチは深く考えないようにした。

「今日はキリの良いところまで作業が終わったやつから上がっていいぞ。王都から料理人を引っ張ってくるから、ここで大宴会といこうぜ? もちろん、酒も飯も全部タダだ。どうだ、やるか?」

『うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!』

 オロチが無事に生還した時よりも大きな歓声が上がった。

 

   

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