鬼神と死の支配者152

 時刻はすっかり深夜に差し掛かった頃、オロチの姿は王都のとある屋敷の前にあった。
 その後ろには二つの影。
 絶賛世間を騒がせている謎の狂信者――クレマンティーヌとシズが控えている。

「ここが例の……何とかっていう組織が根城にしている場所なのか?」

「そうだよー。私たちが色々と調べ回って、ちゃんと裏付けも取ったから心配しないで」

「もちろん心配なんてしていない。ただ、犯罪者が使っている場所にしてはずいぶん豪華で派手な隠れ家だなと思ってな。王都でも上位に来るくらい立派な屋敷だろ、これ」

 周りにも屋敷はあるが、その中でも此処は一際目立っている。
 しっかりと手入れが行き届いている庭に、汚れ一つない大きな家屋、そして侵入者を拒む頑丈な門がそびえ立つ。
 犯罪者ではなく、大商人や貴族が住んでいると言われた方がしっくりくるほどだった。

 こんな場所を拠点にしているのが、竜王国内でかなりあくどい行為を繰り返して金儲けをしている組織だという。
 犯罪者たちの組織は、どちらかといえばスラムのような場所のアジトを構えるというイメージだったので、オロチにはあまりここがその拠点だと想像が出来なかった。

(まぁ、それだけ金と力があるってことか。あくどい商売ってのは、いつの時代でもどの世界でも馬鹿みたいに儲かるからな。しかし悪人は国王として裁かねばならん。もちろん、殺した後で金目の物はしっかり回収させてもらうとしよう)

 悪人を退治し、蓄えていた財を回収する。
 まさに一石二鳥だ。
 敵の多くは精々ゴブリンに毛が生えた程度の強さしかないので、この場にいる三人からすれば落ちている金を拾うのと同じくらい簡単なことだった。
 無論、手間であることに違いはないのだが。

「……オロチ様。この程度の連中に、御身自ら起こし頂かなくても良かったのでは?」

「確かにシズの言う通りだ。今日来たのはただの気まぐれでな。竜王国で一番力の強い組織って話だし、何か面白そう物があるかもしれないと思って来たんだ。それにあまり期待はしていないが、そこそこ見どころがある奴がいたらという気持ちもある」

 本来ならばクレマンティーヌとシズの二人だけで十分制圧できるのだが、今回はオロチが参戦することになっている。
 理由は面白そうだったから。
 この組織のトップやその幹部たちは竜王国の中でもそれなりに腕が立つらしく、誰も手が出せずにやりたい放題やっているとの報告を受けたのだ。

 ただでさえクレマンティーヌとシズに標的にされれば高確率で死が待っているというのに、これに加えてオロチまで出張ってくるとなれば、もはや犯罪者たちが生存する可能性は皆無である。
 面白そうという理由が原因で彼らは死ぬことになるのだが、ある意味犯罪者には相応しい末路と言えるかもしれない。

「まぁとにかく、事前の打ち合わせ通り派手な事は無しだぞ? もしも屋敷内に一般人らしき奴が混じっていれば、可能な限り殺さずに放置すること。もちろん顔は見られるな。見られたら殺せ」

「はーい」

「かしこまりました」

 強者との殺し合いならともかく、意味の無い虐殺を好んでいる訳ではない。
 ましてや自国の国民を進んで殺すつもりはなかった。
 うろちょろと動き回り国力を落とす犯罪組織は一掃するが、ただの一般人を殺すなど無駄でしかないだろう。
 その点だけ見れば、オロチにはそこそこ支配者としての資質がある。

「折角だし、何かゲームでもするか?」

「ゲーム?」

「ああ。競わせた方がやる気が出る思ってさ。そうだな……勝った方には俺が何かプレゼントでも贈ろう。どうだ、やるか?」

「やるっ! やりますやりまーす!」

「……私も、やる」

 思い付きで提案したところ、想像以上に二人が食い付いてくる。
 自分も参加したいところではあったが、それだと恐らくまともな勝負にはならず微妙な結果になってしまうだろうからと、今回は審判に徹することにした。
 そして、出来るだけ良い勝負になるようなルールを考える。

「組織の構成員の死体一つで1ポイント、幹部クラスは5ポイント、ボスはボーナスで10ポイントだ。死体はこの袋に入れろ。当然終わった時点で合計ポイントが多かった方の勝ち。戦闘はこのナイフで行なってもらうが、もしヤバイ相手がいれば形振り構わず全力で戦え。それと、騒ぎが大きくなれば無条件でそいつは負けだ。とりあえずルールはこんなもんか。何か質問は?」

 ふるふると首を横に振る二人。
 了承を得られたところで、この勝負で武器となるナイフと簡易的なアイテムストレージである袋を二人に渡した。

 各々が持つ武器だとシズの装備が圧倒的に優れているため、サンプルとして確保していたこの世界のナイフを使うことにしたのである。
 これは特別な物ではなく、どこでも売っているようなありふれた物で、雑に扱えば直ぐにでも折れてしまう可能性がある粗悪品だ。
 使用者の技量が試される代物であり、こういう勝負にはもってこいだろう。

「用意はいいか? それじゃあゲームスタート!……って、もう行きやがったな」

 オロチが開始を宣言すると、クレマンティーヌとシズは我先にとナイフを片手に駆け出して行った。
 音を一切立てずに塀を駆け登り、屋敷内へと侵入するその手腕は流石と言える。
 元々隠密行動を得意としている二人だが、オロチからのプレゼントという商品が掛かっていることでより一層気合が入っているらしい。

「俺も一応行くか。討ち漏らしがあると面倒だし、念のため確認しておいた方が確実だ」

 ゆっくりと動き出し、3メートル以上はあるであろう塀を軽く飛び越える。
 そして、足音を立てないように二人が侵入していった屋敷内へオロチも入り、勝者へ贈る商品を考えながらスニーキングミッションを開始したのだった。

 

   

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