宰相と別れた後、オロチとドラウディロンはヘルヘイムの中心に位置する城へと転移した。
そしてその城の最上階、一番見晴らしの良いバルコニーから、ほとんど完成している街の様子を見渡す。
上から見下ろしたヘルヘイムの街並みは、初期の段階から設計していた甲斐あって建物の配置に無駄が無い。
景観を重視しつつも、これ以上ない効率的且つ合理的な並びとなっている。
それらを改めて見たオロチは満足気に頷いた。
「最初の廃墟だった頃と比べると、ここもずいぶんと綺麗な街並みが見られるようになったな。まぁ、綺麗と言っても歓楽街みたいな雰囲気になっているが」
既にこの街に建設……というよりも設置してある建物はかなりの数となっており、各国の主要都市にも劣らない外観となっている。
規模こそそれほど大きくはないものの、一般市民が生活する為の都市ではないのでこの程度の大きさで十分だ。
ただ、出来るだけ賑やかな景観にしようと工夫した結果、街全体が上品な歓楽街のようになってしまったのは流石に誤算だった。
もう少し派手さを抑えようとも考えたが、これはこれで非日常感があって良いかと思ったので、敢えてこのままで行くことにしたのである。
そして、そんな街を取り囲むようにそびえ立っている城壁もかなり立派なものだ。
この部分に関しては職人達に一任していたが、モンスターの襲撃に耐えられそうな堅牢な仕上がりになっている。
あの城壁を突破するのは常人では中々困難だろう。
以前のガイアドラゴンの襲撃からさらに警備が強化されているのもあってか、ヘルヘイムの近辺にはゴブリン一匹たりとも存在しない平和な土地へと変わっているので、あの城壁が突破されることはまず無いと思われる。
(配下達がしっかり働いてくれるおかげで、俺は面倒な雑魚の処理をしなくて済む。素晴らしいな)
東の方角にある山へ行けばそれなりのモンスターが住んでいるが、それも配下を使って適度に管理しているので、人里に下りてくることはない。
もし仮に下りて来たとしても、ヘルヘイムに常駐しているナザリックの兵士がすぐに討伐する為、安全性には全く問題はない。
オロチが見てきた人間のどの都市よりも厳重な警備体制だった。
「だ、旦那様、ちょっと凄すぎないか？ この城もだけど、ここから見える建物が全部王都にあるものよりずっと綺麗なんだが……」
オロチの隣にいるドラウディロンが、半ば圧倒されたようにそう言った。
「外観は、な。中身はまだ手を付けていないのがほとんどだぞ。向こうにある闘技場とカジノ施設、それからいくつかの宿泊施設くらいしか見た目ほどの価値は無い。まぁ、客が順調に入ってくれれば、そこから順次解放していくという感じだ」
「だとしても、これは凄いぞ。街の見学だけで金を取れるレベルだ。……ただ、これほど立派な建物を短期間で建てられるとなると、その職種の者達は大変だろうな」
「棟梁にも言ったが、その心配は必要ない。この街にある物はちょっとした裏技を使って建てたんだが、そう何度も使えるようなものではないんだ。だから多分、この街以外では使わないだろう。職人たちの仕事を奪ってしまうことを考えれば、長期的にはデメリットの方が大きいしな。金はもっと別の所で巻き上げるさ」
「闘技場とカジノというやつでか？」
オロチは頷き、その二つの施設について説明していく。
「まず闘技場だが、これは竜王国にもあるからある程度知っているだろ。人対人、人対モンスター、もしくはモンスター対モンスターで戦い、どっちが勝つかを予想して金を賭けるってやつだ」
「ああ、もちろん知っている。今は稼働していないが、数年前まではウチでもかなりの収益があったからな」
竜王国の闘技場は国営施設だ。
侵略を受けていたので長らく稼働していないが、ビーストマンが攻めて来るまでは多くの収益をあげていた。
なのでドラウディロンも闘技場に関してはある程度の知識がある。
あるのだが……その闘技場は些か立派過ぎはしないだろうか？
彼女記憶にあるのはもっと小さく、それでいて簡素な造りの闘技場であり、あんな建物そのものが芸術品のようなものでは決してない。
もっとも、これはナザリック内にある闘技場の試作型で、それよりも一回り小さいものが設置されているとは知らない方が良いだろう。
「そして、それよりも稼げるのがカジノだ。上手くいけば闘技場の何倍もの利益を生み出すような、正に打ち出の小槌みたいな存在になる。あくまでも上手くいけば、だけど」
「数倍……それは凄い」
オロチの元の世界でもカジノは莫大な利益を生んでいた。
貧富の差が修正不可能な所まで広がっていた前世において、一般人にとっては関係の無い場所ではあるが、金持ち達からすればカジノとは熱狂してしまう者が多い娯楽である。
故に金持ち達から金を巻き上げるカジノ側は、それ相応の巨万の富を築いていたのだ。
オロチはそれと同じようにこの世界でもそういった仕組みを作ろうとしているのだった。
「カジノの説明は……実際に遊んでみた方が早いだろう。カードゲームだけじゃなく、ルーレットとかダイスを使ったギャンブルを楽しめる。是非、お前の感想を聞かせてくれ。きっと楽しいぞ」
「うむ、楽しみだ！」
オロチの言葉に笑顔でそう返すドラウディロン。
確かにカジノとは娯楽施設だ。
しかし、それと同時に嵌れば抜け出せなくなってしまう蟻地獄のような場所でもある。
もっとも、金を吸い上げるのは金持ち……もっと言えば他国の金持ちなので、少なくともオロチの味方である彼女には何ら害は無いのだろうが。