鬼神と死の支配者3

 アインズさんから聞いていた村の座標に、シャルティアと一緒に転移した。

 初めに目に飛び込んできたのは、震えながら抱き合っている二人の少女と今にも斬りかからんとする兵士の姿だった。

 二人は姉妹なのか、姉が妹を兵士たちから庇っているようにも見える。とりあえず村を救いに来たんだし、兵士を殺しておくか。……あれ、俺はこんなにも自然に人を殺す選択を取れる人間だったっけ?

 ……まぁいいか、兵士の数は二人。見た感じでは取るに足らない雑魚なのだが、ここは全力でいく。

 強力すぎるがゆえに今まで使ってこなかった刀、夜叉丸童子に手をかける。そして俺が出せる全力の速度で斬りかかった。

 まずは小手調べだ。スキルも魔法も使わずに攻撃を仕掛け、相手の対応を見ることで大体の実力がわかる。最悪、村を諦めてシャルティアと離脱することも考えないとな。

 ……そう思っていたのだが。

「おいおい、いくらなんでも弱すぎやしないか?」

 二人の兵士はスキルも使っていない俺の斬撃に、反応することすらできずに斬られてしまった。俺を油断させる罠なのかと警戒していたのだが、一瞬遅れて兵士二人の首が落ち、血が噴水のように噴き出している。

 確実に死んだ。というか俺が殺したんだが、特に何も感じないな。

 外見だけではなく、精神まで人間とは変化しているということなのか。もっとこう、精神的にきついと思っていたから助かった。

「惚れぼれする太刀筋、さすがはオロチ様でありんす。……おや、残っている二匹のゴミはわたしに残しておいてくれたのでありんすか?」

「まてまてシャルティア、こいつらはおそらく襲われていた村の住人だろう。殺戮対象ではなく保護対象だ」

 本気で殺そうとしていたシャルティアを慌てて止める。

 兵士があれだけ貧弱だったんだ。そいつらに殺されそうになっていた少女たちでは、軽く小突いただけでも死んでしまうかもしれない。ましてや、シャルティアが装備している神話級の武器『スポイトランス』ならば即死してしまうだろう。

「も、申し訳ありませんでした! この罰はいかようにも……」

 多少強く言ってしまったからか、普段の花魁言葉を使うことも忘れてすぐさま謝罪してくる。シャルティアが人間に対して過激な思想を抱いているのは知っていたし、これくらいで罰なんて与えるはずがないんだが。

「気にするな、誰しも失敗や間違いはあるんだから」

 シャルティアの短絡的な思考はいずれ治してもらいたいが、今すぐどうにかなるものではないので仕方ない。

 そもそもナザリックにいるほとんどの者が人間を見下し、家畜かそれ以下にしか思っていないというのが現状だ。別にそれ自体が悪いわけじゃない。ただ、人間を侮っているといずれ手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないので、早めに対策を取りたいところだな。

 俺は兵士に襲われていた少女たちに視線を向ける。すると「ひっ!」と二人が怯えてしまった。あれ? 今の俺の姿は完全に人間と同じはずなんだが、どうしてここまで怯えているんだ?

「……私はどうなっても構いません。ですが妹は、この子だけは見逃してもらえないでしょうか」

「お姉ちゃん、そんなのダメ!」

 俺たちは助けに来たんだが……。しかも、勘違いしているこの子たちをシャルティアがまた殺そうとするし……。

 あー、良く考えれば自分たちを襲っていた相手を瞬殺したのだから怯えるのも当然か。シャルティアをなだめて、二人のうち比較的落ち着いてる姉の方に話しかける。

「俺たちはお前たちの敵ではない。だから……うん? 怪我をしているのか。ならこれを飲むといい、回復薬だ」

 そう言って、怪我をしている少女に回復薬を差し出した。受け取るか迷っていたようだが、なぜか覚悟を決めた顔を浮かべて受け取った。

 もう一人の小さな子供は心配そうにポーションを見ている。もしかしてこの世界にはポーションは存在しないのか? もしくは、まったく別の見た目をしているとか。

「す、凄い! あっという間に傷が治っちゃった……」

 俺がそんなことを考えているうちに、ポーションを飲んでくれたようだ。大した傷ではなかったから低級のポーションを使ったが、しっかり治ったようで安心した。治らなかったから追加を渡すなんて恥ずかしいからな。

「少しは信用してもらえたか? 俺たちは村を救いに来たんだ。だから、お前たちはしばらく隠れているといい」

 アイテムストレージから『百鬼夜行絵巻』を取り出して手渡した。

「この巻物を広げれば妖怪、いや魔物がお前を助けてくれる。さっきの兵士くらいなら、何人来ようとも問題なく倒せるはずだ」

 実はこのアイテム、大層な名前が付いている割には微妙なアイテムなんだよな。呼び出される妖怪は完全なランダムだし、そこまで強い奴が来ることは中々ない。

 これを使うくらいなら、俺のスキルで呼び出した方がずっと効率的だ。

 俺がずっとこいつを所持していたのは、百鬼夜行絵巻なんていかにも強そうな名前だったので、いずれアップデートによって上方修正されることを願い、大量に確保してストレージの肥やしにしていたからだ。結局、最後までこいつが活躍することは無かったけども。

 それに強い奴が来ないと言っても、最弱の妖怪だとしても先ほどの兵士が百人いたって敵わないからちょうどいい。

「そんな貴重なアイテムまで……。あの、貴方のお名前は?」

 名前か、そういえばこの世界に来て自分から名乗ったことは無かったな。ユグドラシルのサービスが終了したあの瞬間、人間だった俺は死んだ。今の俺はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』所属のプレイヤーにしてユグドラシル最強の妖怪――

 “オロチ”

 

 ◆◆◆

 

 敵の数は20くらい。

 どいつもこいつも、さっき殺した兵士と大差ない。俺が斬りかかれば反応することすら出来ずに死んでいく。逃げようとしている者もいるが無駄だ。決して逃しはしない。

 泣き叫ぼうが命乞いしようが一切の慈悲なく殺していく。いや、痛みなく一瞬で死ねることこそ最大の慈悲とも言えるな。

「ば、化け物が! おいお前ら、金ならいくらでもくれてやる! あいつをこぐぇぇ!」

 一人喚いていた指揮官らしき男の首を刎ね飛ばす。これで残っているのは5人くらいだ。一番のネックだった村人たちは、一ヶ所に集められていたようなのでずいぶんと楽に戦えた。

「聞け、兵士たちよ。生き残っている幸運なお前たちには仕事をやる。お前たちの飼い主に、この村周辺で騒ぎを起こせば国に血の雨が降ると、そう伝えろ」

 兵士たちにスキルを使った威圧を与えてやると、生き残った数名は顔面蒼白で我先にと逃げていった。

「よろしいのですか? 兵士を逃してしまっても」

「構わないさ。兵士たちが大軍で押し寄せてくるよりも、この周辺を少人数でうろちょろされる方が鬱陶しい。兵士が誰一人として戻らなければ、捜索隊が出される可能性が高いからな」

 この戦いだけで断言するのは危険だが、この世界の戦闘レベルは高くないと思っている。戦闘のプロである軍隊があの強さなのだからな。

 もしかしたら、異世界ではお決まりの冒険者なんて者たちがいるのかもしれないが、だとしても弱すぎる。モモンガさん……いや、アインズさんの超位魔法なら本当に国を滅ぼせるんじゃないか?

 あ、その前に兵士から助けた姉妹を呼んでやらないとな。

「シャルティア、ここに来るまでに助けた二人を呼んできてくれないか?」

「かしこまりました。ただちにあの二匹を連れてくるでありんす」

 さて、俺はこれからこの村の人たちと交渉しないといけないんだけど、こういうのはアインズさんの役割なんだよな。俺は基本的に戦闘以外のことはアインズさんや、ギルドメンバーのぷにっと萌えさんに任せていた。

 アインズさんは否定するかもしれないけど、その二人はアインズ・ウール・ゴウンの頭脳だったから、そっち方面に関しては頼りっぱなしだったんだ。

「あ、あの……私はこのカルネ村で村長をしている者ですが、あなた方は一体何者なのでしょうか?」

「俺の名はオロチ。とある目的で世界中を旅していたんだが、魔法が暴走してしまってな。気がつけばまったく知らない場所に倒れていたんだ。そして、なにやら物騒な連中がお前たちを襲っていたので助けた、というわけだ」

 老人は恐る恐るといった感じで俺に話しかけてきたんだが、俺たちの対応について決めかねているようだ。

「村長さん、さっきも言ったが俺たちはこの場所がどこなのかもわからない。だから、助けた代わりと言ってはなんだが、多少の金銭とこの辺りの情報をくれないか?」

 ぷにっと萌えさんが以前言っていた。見ず知らずの相手からの無償の行為というものは、変に裏があるんじゃないかと勘ぐられ、スムーズに話を進めることができないと。そういう場合には、しっかりと何かを要求することが重要で、相手もそちらの方が信用できるのだという。

 なるほど。確かにぷにっと萌えさんのいう通りだ。

 どこか得体の知れない相手を見る目だった村長や村人たちは、俺が要求を伝えると若干警戒心が薄れたようにも感じる。

「そうでしたか。我々を助けて頂き、ありがとうございます。お渡しできるものはそう多くありませんが、精一杯のおもてなしをさせて頂きます」

 ふぅ、なんとか情報を聞き出せそうだな。……ただ、俺がこの村に来たのは失敗だったかもしれん。

 相手に不審がられない程度により多くの情報を引き出すなんて高度な真似、俺には荷が重すぎるからな。

 単体での戦闘力が高く、ある程度柔軟な対応ができる者ということで俺が選ばれたのだろうが、実際に遭遇した敵は雑魚だけだったので、戦闘力よりも交渉が得意な者を派遣した方が良かった。

 ……いや、これは結果論でしかないか。本音を言ってしまえば、単純に俺が苦手なことをしたくないというだけだし。

 戦闘特化の俺がどの程度こなせるかはわからないが、ナザリックのためにも頑張ってみようかな。

 

   

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