大筒木ハムラは十尾という化物が再び復活しないように、十尾の抜け殻である外道魔像を監視するべく、外道魔像が封印された月に一族を率いて移住した。
しかし何百年もの時間が経ち、ハムラの教えを巡って一族の間で争いが起きてしまう。
その争いによって分家は一人残らず死に、宗家も僅かな人数しか生き残ることが出来なかった。
ちなみにハムラの教えというのは、千年後に人が正しくチャクラを使えておらず、争いばかりしているなら滅ぼせだとか争いを止めろだとか、今では完全に失伝してしまっていて何が正しかったのか全くわからない。
そんな謎が多い大筒木一族の最後の末裔である少年の名前は大筒木カムイ。
彼は幼い頃から父親に虐待同然の訓練を施されたり、過酷な環境に追い込まれたりと割と不幸な少年だ。
実際、戦闘以外で父親と接することは一度も無かった。
そのおかげとは言いたくないだろうが、彼は年齢に不相応な高い戦闘力を有していた。
だが、そんな彼に一番の悲劇が襲う。
彼の父は自分の息子であるカムイに、大筒木の宝と呼ばれている転生眼を強引に移植したのだ。
転生眼というのは、かつて大筒木ハムラが開眼したと言われる強力な瞳術なのだが、大筒木の宝である転生眼は少し違う。
それは大筒木ハムラの転生眼を核にして千年という長い間、大筒木一族が自らの瞳を捧げることによって強化してきた、言わば最強の兵器だ。
カムイの父は一族が滅んでしまうため、その前に外道魔像を消滅させようと俺に転生眼を移植した。 確かに、転生眼を使えば外道魔像を完全に消滅させることは可能だろうし、現に無意識とはいえ消滅させている。
しかし、そんな物を移植されたカムイは深刻なダメージを受けてしまった。
そのダメージにより彼の精神は完全に死に、彼の身体――つまり器だけが残った。
ここからが本題なのだが、その空っぽの器に何故か俺の精神が入り込んでしまったみたいなんだ。
………………。
…………。
……。
「いや、なんでだよ! なんでよりにもよってNARUTOの世界なんだよぉぉーー!!!」
そう、信じられないが俺はどうやらNARUTOの世界に転生――いや、憑依してしまったらしい。
今の俺には2つの記憶がある状態で、1つは当然俺の前世の記憶だ。
普通の大学生だったが、通り魔に刃物で腹を刺されてしまった。
ちなみに誰かを庇って死んだとか、死ぬ直前に何かをしただとか、よくある転生ものの主人公みたいなことは一切していない。
そしてもう1つは大筒木カムイの記憶。
大筒木一族のことも転生眼を強引に移植されたことも、まるで自分のことのように覚えている。
正直、今の状態についていくら考えても仕方がない。
おそらく前世の俺は死んだんだろうし、この身体の持ち主だったカムイの精神は既に消滅している。
なら、俺が大筒木カムイとして生きるのが一番だと思う。
まぁ、カムイの精神が実は消滅していなくて、身体を返せと言われようが返すつもりは微塵も無いんだが。
それはそうだろう。誰だって死ぬのは嫌だ。
特に俺は死を一度経験しているから尚更そう思う。
しかし、この世界は俺の前世とは比較にならないくらいに危険が多い。
少しの油断で、そのままあの世行きというのも十分にあり得るからな。
いくら強力な力を持っていても、それを使うのが平和な世界で生きてきた俺では宝の持ち腐れになってしまう。
……今持っている力を完全に制御できるまで、月で修行した方が良さそうだな。
迂闊に地球に戻れば確実に面倒なことになるかもしれない。
俺は転生眼という爆弾を抱え込んでいるので、うっかり何処かの忍に捕まれば碌なことにならないだろうしな。
その点この月は、殺風景という欠点に目を瞑れば安全な場所だ。
ふと見上げれば、青く美しい地球が輝いている様に見えた。
俺がいた世界では、生身の人間が大気圏外に出ることなどまず不可能だった。
でもこの摩訶不思議世界ならば、こうして月で生活することだって出来る。
「俺はいったい、なんでこの世界に来てしまったんだろうか……」
俺はごく普通の大学生だったはず。
だが、この世界は俺を刺しやがった通り魔がかわいく見える程の暴力がうずまく世界。
生半可な覚悟では死ぬ――いや、死ぬよりも恐ろしい目に合うかもしれない。
なら俺は覚悟を決めようじゃないか。
あらゆる理不尽を跳ね除けるだけの力を手に入れてやる! 幸い、この身体の性能はすこぶる良いみたいだし、闘いの知識や経験はこの身体に宿っている。
あと必要なのは俺の覚悟だけだ。
これから先、頼れるのものは自分だけ。
自分の力で道を切り拓いていかなければならない。
「上等だ……! この理不尽極まりない世界を、思うがままに生き抜いてやるぜ!」
前世の俺はもう死んだ。
なら今から俺が大筒木カムイとして、この世界を生き抜いてやる!