大筒木一族の最後の末裔2

 俺が大筒木カムイに憑依してから一ヶ月ほどが経過した。まぁ、ここは月なので正確な日数はイマイチ分からないが。

「しっかし、この身体のスペックハンパねぇな。頭で考えた無茶な動きでも難なくこなせちまう」

 俺は憑依してからの毎日、この身体に慣れるために修行のようなものを行なっていたが、想像以上に優秀な性能を秘めていた。
 俺が憑依する以前に覚えていた忍術は少し練習すればすぐに使えるようになったし、転生眼でさえ身体に馴染むのが早かった。

 ちなみに修行というのは、原作と同じように影分身を使った方法だ。
 さすがに以前のカムイではせいぜい2、3体が限界だったが、転生眼を宿した今の俺ならば数十体の影分身でも苦にはならない。
 この短期間でここまでの成果を上げることができたのも、影分身を大量に呼び出すことができたからだろう。

 しかし少しだけ問題が発生した。
 どうやらこの身体と転生眼の相性が良すぎて、転生眼を使用すればするほど身体に変化が生じるようだ。
 変化と言っても別に悪いものではなく、ただでさえ高かった身体能力が向上したり、チャクラの総量が増えたりと良いことばかりだ。

 ただデメリットを挙げるとすれば、転生眼を長い時間発動し続けると額に二本の黒い鬼のようなツノが出現するということかな。
 でも、これに関してはそこまで気にしていない。
 そもそも転生眼を使用しなければ出現することもないし、ツノが生えたとしても身体に不調は無いみたいだしな。

 おそらく転生眼の力が強すぎて肉体が引っ張られているんだと思うが、詳しいことは不明だ。
 この世界で大きな助けになるだろう転生眼を使わないという選択肢なんてないし、完璧に制御できるように日々精進あるのみだな。

 転生眼は任意で発動できて、映画で大筒木トネリが使っていた技は全て再現できた。
 ついでに白眼で出来ることは転生眼でも出来るという感じだ。
 後は任意の場所に瞬間移動する、というぶっ壊れ機能も持っている。

 飛雷神の術とは違ってマーキングする必要がないから、使い勝手はこっちの方が圧倒的に良い。
 白眼の能力と合わせれば何処へだって行ける。

 他にも能力とは少し違うがチャクラの供給源にすることも可能で、これのおかげで影分身を大幅に増やすことが出来た。

 そしてこれはあまり関係ないが、転生眼を発動していない状態の俺の瞳は銀色だ。

「あとは実戦でどれだけやれるかだけど、それは実際に戦ってみないと分からないしな」

 月でやるべきことは一通り終わったかな。だから、そろそろ地球へ降りようと思っているんだけど、地球に行く前に決めておかないダメなことがある。

 この世界で何を目的にするか、ということだ。

 俺はカムイに憑依した日に大筒木カムイとして思うがままに生きると心に決めたが、この際だから具体的にどうするかも決めておこうと思っている。
 ……でも何も決まってないんだよなぁ。

 NARUTOの主人公は確か、里の長である火影になることを目標にしていたっけ。
 俺は里どころか一族すらも滅んでるし、そもそも里の長に全く興味がないからこれは無理だ。

 一方で、主人公のライバルは一族の復興だったか? おぼろげな記憶だが、うちは一族の生き残りとして一族の復興を目指していた気がする。
  ……これは俺にも当てはまるんじゃないか? 大筒木一族には何の思い入れも無いが、滅亡した一族を復興させるというのは心惹かれるものがある。

 ハーレムを目指すと言えば頭が悪く聞こえるが、一族の再興と言えば一気にかっこよくなるから不思議なもんだよ。

「よし! 俺はハーレム……いや、大筒木一族の再興を目指す!」

 そうと決まればこんな殺風景な場所に用は無い。
 最低限の荷物をささっと鞄に詰め込み、転生眼の力を使って地球に移動した。

 ◆◆◆

「ふぅ、やっと地球に来ることが出来た」

 この一ヶ月ほどは修行であっという間に過ぎていったが、それだけの期間を誰とも接することが無かったのは前世を含めても初めてだったので中々に苦痛だった。
 そんな事を言いつつも派手な術をぶっ放したり、転生眼の訓練をしたりと割と充実していたんだけどさ。

 それは置いといて、とりあえず木ノ葉隠れの里に飛んだが……あれはいったいなんだ?

 俺の視線の先には一人の少年。
 周りの子供たちがワイワイと仲良く遊んでいる中、その少年だけポツンとひとりでブランコに乗っている。

 周りにいる子供の親らしき人たちは、ブランコに乗っている少年を見てヒソヒソと陰口を叩いているようだ。

「なるほど……。あれが主人公のうずまきナルト、か」

 よく見たら三本のヒゲのような痣もあるし髪も金髪だ。
 それにあまりよく覚えていないけど、回想シーンで出てきた過去の主人公があんな容姿だったはず。

 九尾の人柱力だからという理由で、里の人間に迫害を受けていたんだっけ……。
 実は命がけで里を救った4代目火影の息子なのに、謂れのない迫害を受けている。
 ナルトには罪なんて無いし、あんな扱いされるべきでは無いのに。

 正直言って見ていられない。

 俺は別に良い人ぶるつもりはないけど、でもあれは違うだろう。
 里の人間もどこか負の感情の捌け口が必要だという事は分かる。
 しかし――

「……あんな顔、子供がして良い表情じゃねぇよ」

 子供ってのは馬鹿みたいにニコニコしているもんだろ。
 大人からすればくだらない事でも、何が可笑しいのか大笑いするもんだろ。
 俺が平和な日本で過ごしてきたからそういう風に考えるのかもしれないが、それでも子供があんな顔しているのは駄目だと思う。

 ハーレムだなんだって、浮かれていた俺に冷や水をぶっ掛けられた気分だ。

 俺は少年――いや、ナルトの元へと歩いていき声を掛けた。

「なぁ、俺は今ひとりで寂しいんだ。だから俺と一緒に遊んでくんね?」

「……え?」

 未来の英雄はポカンとした顔でそう呟いた。

 

   

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