玉狛支部には強化人間がいるらしい。16

 現在のポイントは六道隊が1ポイント、二階堂隊が2ポイント、田中隊が0ポイント、佐藤隊が0ポイントという状態だ。
 先ほど朧が撃破したのは佐藤隊の隊員である。

 そしてその隊員の救援に来ようとした佐藤隊のメンバー達だったが、その前に既に合流を果たしていた二階堂隊と運悪く遭遇してしまい総崩れ。
 結果的にスナイパーからの支援を欠いていた佐藤隊は、開始早々にそのままあっさりと全滅してしまった。

 彼らの敗因を挙げるとするなら、最初のスナイパーが朧に執着し過ぎたことだろう。
 もしもどうにかして生き延びていれば、また違った結果になったかもしれない。
 とはいえ戦いにたらればの話をしても意味が無く、そもそも朧から逃げ切るのは至難の業なので、最初に撃破されてしまったスナイパーを責めるのは酷というものだ。
 佐藤隊は運が悪かったと言うしかない。

 そうしてスナイパーを撃破した後、朧はすぐに彼がいたビルから離れ、再びバッグワームを使って民家に身を潜めていた。
 住宅街の中のひとつ。
 そこで一息つき、自らの司令塔でもあるユリに連絡を取る。

「さっきのビルからは結構離れたけど、まだ近くに敵はいるか?」

『いま隠れている民家の周辺で、二階堂隊が朧くんを血眼になって捜索しているわ。ウチと二階堂隊の今のポイント差はこのランク戦も合わせて4ポイント。このまま朧くんを倒せば、まだ逆転の芽がある。だから執拗に狙われてるのよ』

「田中隊は?」

『そっちは味方の合流を優先しているみたいだね。多分だけど、朧くんと二階堂隊が戦っている最中に乱入してくるつもりなんだと思う。きっとお互いにダメージが蓄積したところで漁夫の利を……って感じよ。賢い手ね』

 六道隊の状況としてはあまり良くはないだろう。
 だが、それはいつものことだ。
 戦闘員が朧一人の六道隊は、こういう不利な戦いを強いられることがほとんどなのだから。
 今さら自分が標的にされているからと言って縮こまるなど、それこそあり得ない。

 むしろ状況が分かりやすくてちょうど良いとさえ思う。

「いいね。向こうから探してくれるなんて、探す手間が省ける」

『フフフ、やっぱり戦闘の時の朧くんは活き活きしているね。それで、作戦は決めてるの?』

「片っ端から全員倒す……と言いたいところだけど、ユリはどうすれば良いと思う?」

 戦闘によって普段よりも感情が昂ぶっているが、それでも朧は冷静だった。
 今すぐ飛び出して真正面から敵全てをねじ伏せたいという気持ちもある。
 しかし、それ以上に朧はこのランク戦を絶対に勝ち抜きたいのだ。
 他でもないユリと共に。

 もちろん、正面からぶつかっても勝ち切る自信はあるが、それよりも確実な道があるのならそちらを選択したいと思っていた。
 いつも相手をしている玉狛支部のメンバーと比較すれば、いま戦っているB級隊員たちでは数段質が落ちるとはいえ、勝負に絶対という言葉は存在しない。

 故に自分よりも立案能力がはるかに高いユリに、何か案がないかと尋ねたのである。

『そうねぇ、私は――という作戦が良いと思うわ』

「……よく咄嗟にそんな作戦を思いつくね。でも、凄く面白い。その作戦で行こう」

 ユリの提案した作戦を聞くと、朧は呆れたような声を出したが、そのあとすぐにそれを肯定した。
 自分が手当たり次第に敵を撃破していくより、確実に勝利できると判断したのだ。

「それじゃあ俺はどうすれば良い?」

『まずはα地点まで移動して。それも派手にね。二階堂隊に居場所を教えてあげるくらいにわかりやすくいきましょう。なんなら、コッチが被弾しない程度に交戦してもいいわ。撃破できるのならしても構わないわよ』

 戦闘しても良い、それは朧好みのオーダーだった。
 下手に戦闘を禁止するよりも、そちらの方が伸び伸び作戦を遂行できる。
 なのでそれについて口を挟む余地はまったく無かった。

「了解。行動を開始する」

 朧は早速、身を潜めていた民家から飛び出した。
 そしてユリの指示通りα地点――大きな橋がある場所に向かって一直線で走り始める。
 派手にと言われているので、移動に邪魔な障害物は全てハンドガンで破壊して進んでいた。

 盛大に音を立て、バッグワームを解除して、隠れる素振りなく堂々と姿をさらしている。
 当然、隠れようという気もないその行動によって、朧は二階堂隊の索敵に引っかかってしまう。

「おい、こっちにいたぞ! 六道隊だ!」

 すると朧の姿を見るや、アサルトライフル型のトリガーをいきなり撃ち込まれた。

 連続して発射される銃弾の嵐。
 威力自体はそこまで高くはないが、それでもこの弾幕能力は脅威である。
 それに、ここで戦えばすぐに敵の増援が来てしまい、最悪3対1という状況になる恐れがあった。

 なので今はまともに相手をする必要は、ない。
 朧は牽制として数発撃ち返したあと、周囲にある建物で射線を遮りながら再びα地点へと向かい始める。

 一瞬でも朧の姿を見失ってしまえば、そこから朧のスピードに追いつくのは難しい。

「クソっ! おい、待て! 逃げんじゃねぇ!」

 そんな声が背後から聞こえてくるが、足を止める事なくそのままノールックで後方に発砲する。
 撃破を狙った訳ではない。
 ただ、煩い。
 そういう意味で黙らせるために発砲した。

「なっ!?」

 しかし思いのほか相手の意表を突くことが出来たのか、その一発は運良く相手の左腕を吹き飛ばすことに成功する。
 そこでこのまま倒し切ることが脳裏によぎるが……朧が足を止めることはなかった。

「……別に逃げる訳じゃない」

 朧の口から少しだけムッとした様子でポツリとそんな呟きが漏れた。
 もしもこれがチーム戦でなければ今からでも戦いに行っていたかもしれない。
 案外子供っぽい部分もあるようだ。

 そして、その呟きをしっかりと拾っていたユリは思わず苦笑したのだった。

 

   

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