ダイジョーブじゃない手術を受けた俺167

 まだ合宿の疲れが抜けきれないまま、気怠さを押し殺して学校に登校した……と、思ったら気付けば昼休みである。
 いつもながら高校生活を完全に棒に振っているが、野球と天秤に掛けた時にどちらが大事なのかは明らかなので当然と言えば当然だ。

「哲さんが抽選会から戻って来たぜ。これが今年の組み合わせ表だ」

 そう言って御幸が一枚の紙切れを持ってきた。
 それを受け取って内容を確認すると、パッと見た感じでは稲実とは決勝戦、そして市大三高とは準々決勝で当たることになりそうだった。
 青道が全国へ進む一番の障害になるのは恐らくその2校だろう。
 まずはどちらとも戦える組み合わせになったことを喜ぼうか。

 稲実と市大三高の他には仙泉高校がいるな。
 確か真木って2メートル近いピッチャーが居るとこだった筈だ。
 その長身を活かしたカーブが厄介な相手だけど、今の青道打線なら決して打ち崩せない相手ではない。
 もちろん油断は出来ないが、それでもやはり稲実と市大三高は特に気を付けないといけないだろう。

「あ、それってトーナメント表か? オレにも見せてくれよ」

「ほれ」

 一通り目を通した後にプリントを倉持に渡した。

「ふーん、組み合わせ的にはまぁまぁか? 決勝戦まで稲実と当たらないし、これで市大三高が反対のブロックにいれば言うこと無しだったんだけどな」

「どっちとも戦えるんだからいいじゃん。そっちの方がスッキリするだろ」

 俺がそう言うと倉持はニヤッと笑った。

「ヒャハハハ。違いねぇな」

 それと重要なのはどの試合でワンシーンをお披露目するか、だ。
 わざわざこの前の練習試合では出さずに取っておいたんだから、生半可な相手に出すよりも、強豪校との試合で初めて投げた方が良い。
 その為にここまで取っておいたんだしね。

 ただ、実戦経験が浅い球種をぶっつけ本番で試すのも結構リスキーではある。
 失投すれば一発もあり得るし、それが決勝点にならないとは限らないのだ。
 実際に試合で経験を積まないと直球も変化球も成長しないのだから、どこで試すかは悩みどころだな。

「そこんとこ御幸はどう思う?」

「何がだよ……と、言いたいところだけど、どうせワンシームのことだろ。それなら仙泉か市大三高で良いんじゃね。完成度次第では稲実戦でも良いとは思うけどな」

 そう言う御幸は少し呆れた表情を浮かべていた。
 一体どうしてだろうか? 

 まぁそれはともかく、トーナメントが始まる前に背番号の発表と受け渡しがある。
 ベンチ入りメンバーの発表とはまた違った緊張感だ。
 俺はエース番号を貰えるのか少しだけ不安だし、御幸とクリス先輩は正捕手がどちらになるのか今もドキドキしていることだろう。

 俺にもどっちが正捕手になるのか伝えられていないので、今回の発表でポジション争いが決着することになる。
 これまでずっと御幸とバッテリーを組んできた俺からすると御幸に勝って欲しい気持ちもあるが、クリス先輩にもたくさん世話になっているのでどっちか片方を応援するのも憚られた。
 俺に出来たのは二人の練習に付き合うくらいだな。

 クリス先輩は全ての球を問題なく捕球出来るようになったし、御幸もどんどんキャッチング技術が上手くなっている。
 どっちが選ばれても俺と組めば最高のバッテリーになるのは間違いないだろう。

 ◆◆◆

 ベンチ入りが決まっているメンバー、そしてベンチに入れなかったメンバー、青道野球部の全員が集められた。
 今から背番号の受け渡しが始める。
 これで今回の大会中のレギュラーが決まるのだ。

 みんな緊張した様子で監督の言葉を待っていた。
 かく言う俺もその一人である。
 最近の丹波先輩はメキメキと実力を上げて本気でエースの座を奪うと息巻いていたから、もしかしてエースナンバーを奪われるんじゃないかと密かにビビっている。
 ちょっとだけだけどね。

「それでは呼ばれた者から背番号を取りに来い。まずは背番号1番──南雲 太陽!」

「はい!」

 ほっ、よかった。
 ちゃんと俺の名前が呼ばれたな。
 そして今年も俺の元へとやってきたこの番号は相変わらずずっしりと重さを感じた。
 嬉しい重さだ。
 降谷、沢村、そして丹波先輩から熱烈な視線を背中に刺さっているような気がするが、部活を引退するまでは手放すつもりはない。

 ふははは、諦めるがよい小僧ども! 
 お前たちにこの番号はまだ早い。
 俺が引退するまでずっと悔しがっているが良いさ! 

「今年も頼んだぞ。青道のエースはお前だ、南雲」

「任せてください、監督。俺を選んでくれたことは絶対に後悔させませんから」

 目指す先はひとつ。
 去年は悔いしか残らないままに終わってしまったから、今度こそ夏の大会で稲実を倒し、甲子園で全国優勝を掴み取る。
 まだ始まってすらないのにやる気が溢れてきて困るな。
 今すぐにでも投げたい気分だ。

 そして、エースの次は正捕手の番である。
 御幸かクリス先輩か……もしくはダークホースとして宮内先輩という可能性もまだ捨てきれない。
 これまで着実に実績を積み上げてきた御幸、怪我以前の実力を取り戻して更に成長しているクリス先輩、今まで控えの捕手としてチームを支えてきた宮内先輩。
 誰が選ばれてもおかしくはない。
 下手すると監督はエースを決めるよりも悩んだんじゃないだろうか。

 ……なんか俺まで緊張してきたな。

 さぁ、監督は誰を正捕手に選んだんだ? 
 部員一度が固唾を飲んで見守る中、監督は静かに口を開く。

「次、背番号2番──」

 

 

 

 

「御幸 一也」

 

   

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