ダイジョーブじゃない手術を受けた俺170

 降谷は3イニング、沢村は2イニングを投げ抜き試合は5回コールドで幕を閉じた。
 もちろん勝者は俺たち青道だ。
 一年生の投手二人を先発とリリーフに起用した片岡監督の采配がズバリ的中し、ヒットやフォアボールで出塁は許したものの失点は無し。
 いくつか課題は残るもののデビュー戦にしては上出来の結果だろう。

 降谷の次に登板した沢村もちゃんと自分のピッチングを貫き、米門打線をポンポン打ち取って行った。
 一年生ながらよく投げたと思う。
 技量はまだまだだけどマウンド度胸だけは既に一丁前だな。

 それから今日の試合は打線も上手く繋がった。
 最終的なスコアは18得点と野球では珍しいくらい大量の点差がついた試合で、俺も4打点1ホームランの好成績を収めている。
 チームとしてもかなり勢いがついた筈だ。
 この調子でトーナメントをガンガン勝ち抜いて、俺が登板する試合が早く来て欲しいものである。

 そして、初戦を突破したことで浮かれているような奴は一人もおらず、学校に戻ってくるなりいつも通り練習を開始している。
 ……降谷と沢村以外は、ね。

「これが公式戦で初登板とはいえ、お前ら二人とも力みすぎだ。沢村はフォアボールが多いし、降谷は高めに浮きすぎる。これじゃあこの先はすぐに通用しなくなるぞ」

 グラウンドの端っこでクリス先輩から長めのお叱りを受けている二人。
 一応、無失点で試合を終えたからまさか自分たちが怒られるとは思っていなかったんだろうな。
 さっきまでは明らかに浮かれている様子だったし、呼び出された時はむしろ褒められると思っていたかもしれない。

 正直、今日の相手は勝って当たり前の相手だから、ある程度内容を求められるのも無理はない気もする。
 厳しくされるということはそれだけ戦力として見られているってことだし、そこまで悲観しなくても良いとは思うけどね。

 ま、何事も経験だ。
 悪いところがあったのは確かだけど、良かったところだっていっぱいあったんだ。
 あの二人はこれからだろう。

「あ、そういえばあいつらってテスト大丈夫だったのか? いや、今日の試合に出てたんだから大丈夫だったんだろうけどさ」

 今更ながら少し気になった。
 テスト前に金丸が沢村の勉強を見てくれていたから安心して忘れていたが、どれくらいの成績だったんだ? 
 今日の試合に出て来れたってことはそこまで悪い訳じゃないと思うが……。

「沢村はギリギリ赤点回避したみたいだぜ。小湊はむしろ良い結果だってよ」

 御幸が答えた。
 けど、そうかギリギリかぁ。
 これがギリギリでも合格できたのは間違いなく金丸が勉強を見てやってたおかげだろう。
 面倒見が良い同期がいて良かったな、沢村は。

 小湊に関してはさほど心配していなかった。
 何でもそつなくこなしそうなタイプだし、赤点なんて取るようなおバカキャラではない。
 今日の試合も代打できっちり結果を残していたな。
 俺の記憶が間違っていなければ今のところ小湊の公式戦での打率は十割だと思う。
 亮さんの野球センスが確実に弟にも受け継がれているようで何よりだ。

「降谷は?」

「一つだけ赤点だったらしい。まぁ、もう追試をやって合格したみたいだから心配いらないみたいだけど」

 おいおい、マジかよ。
 追試が多ければマジで大会に出れないみたいな事になってたかもしれないんだぞ? 
 そういう時の片岡監督はかなり厳しいから、仮に学校側から優遇措置とかの提案をされても出場出来るかは怪しいところ。

「ヒャハハハ、今年の一年は馬鹿ばっかだな!」

「……今回はお前もギリギリだったじゃねーか」

 倉持は俺が勉強見てやったおかげで今回もテストを突破できたと言っても過言ではない。
 物理と英語なんてあと数点低ければ追試だったくらいだ。
 まぁ、全員無事に大会に出れるのなら別にいいんだけどさ。

 とりあえず次からは俺が沢村と降谷の勉強を見てやるか。
 金丸に毎回頼むのも気が引けるし、沢村と降谷まとめて見てやれば赤点くらいは回避できるだろう。
 どうせ倉持の勉強を手伝うんだから大した手間でもないし。

「南雲、俺たちも練習に戻ろうぜ。いつまでもここで駄弁ってると、次は俺たちがクリス先輩にお説教食らっちまう」

「そだな」

 怒られて小さくなっている二人から視線を外して、短く返事を返しながら俺たちは再びグラウンドへと向かった。

 

 ◆◆◆

 

 それから更に数日が経過して迎えた3回戦。

 俺たちは村田東高校と戦い、初戦と同じく5回コールドで勝利した。
 先発として登板した丹波先輩はこの試合を一人で全て投げ抜き、参考記録ながら無失点完封勝利投手となった一方で、今回も外野手として出場した俺。
 こうもマウンドから離れていると流石にそろそろ肩が疼いてくる。

 あまりにも試合で投げていないと感覚が鈍ってしまいそうだし、とりあえず次の試合で投げられるように交渉でもしようかな、と密かに思っていたりする。

 ちなみに次の試合の相手は明川学園ってとこで、そこのエースは精密機械と呼ばれるほどのコントロールを持っているピッチャーだ。

 名前は楊 舜臣。
 確か台湾からの留学生なんだとか。
 試合を見た限りでは中々面白い投手のように感じたから、試合の展開次第ては俺が登板できる可能性もあるだろう。
 というか1イニングくらいはそろそろ投げておきたい。

 さて、明川戦は俺の出番あるのだろうか……。

 

   

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