轟を打ち取った後、次に控えていた二人にはそこまで苦戦することなく打ち取れた
あの二人も中々良いバッターだとは思うけど、フェンスギリギリまで運ばれてすっかりエンジンの掛かった俺を止められるほどではない。
轟と比べると少し霞んでしまうのも無理はなかった。
まぁとにかく、次は青道の攻撃だ。
「ヒャハハ、さっさと向こうのエースを引きずり出してやるぜ!」
「よく言った倉持ィ! ぶっ飛ばして来やがれ!」
倉持と伊佐敷先輩のモチベーションは天元突破している。
他の面子も気合い十分で、この回だけで試合を決めてやると言わんばかりに張り切っていた。
そして当然のように倉持、小湊ペアが出塁し、その状態で左中間を破るツーベースヒットを御幸が放ってランナーは全て生還。
相変わらずチャンスの時は頼もしい。
続く四番の哲さんは鋭い当たりを放つものの、運悪くサードを守る轟の真正面に飛んでしまい、残念ながらアウトとなった。
だが哲さんを打ち取って少し気が緩んだのか、次に打席に立った俺に対しての初球、甘く入ってきたまっすぐを思いっ切りぶっ叩いてスタンドにぶち込んでやった。
文句なしのツーランホームランだ。
去年はピッチングが調子良いとバッティングが悪くなるというジンクスみたいなものも有ったが、今となってはそれはすっかり過去のもの。
この調子で今年はバンバン二刀流で結果を残していきたいものである。
さらに青道の攻撃はそれで終わらない。
この試合から打順がひとつ繰り上がって六番バッターとなった伊佐敷先輩が、二者連続本塁打となるソロホームランを放ったのだ。
「しゃあ! 見たかオラァ!!」
先輩が咆えたことでチームの士気も一段と上がり、ベンチはかなり良いムードに包まれている。
ここから一気に試合を決める、と思ったのも束の間、その後はヒットは出たが得点するまでには至らず、結果この回の攻撃は5得点で終わってしまった。
とはいえ、これだけの点差があれば十分すぎるくらい余裕を持って投げられる。
あとは俺と御幸がしっかり抑えればいい。
そう意気込んで臨んだ次の回、薬師の攻撃で俺は四番を打たせて取り、五番と六番を三振で終わらせてやった。
轟との打席ではスタミナのことは考えず投げていたが、あいつ以外の打者には結構スタミナに気を使って投げる必要がある。
本当はこの回も全員打たせて取るピッチングをしたかったけど、少し気持ちが強く出すぎたのかボールが走ってしまい、無駄に三振を増やす結果となったのはちょっと誤算かな。
ま、このペースならスタミナに問題は無いだろうけど。
そして2回の裏、再び青道の攻撃が回って来たが……初回のような大量得点どころかこの回は惜しくも無得点に終わってしまった。
打球を身体で止めてアウトにするとか平気でやってくるガッツが薬師にあって、得点圏にランナーを進めるもホームベースを踏ませてもらえない。
相手も必死だ。
初回みたいなビッグイニングはもう来ないかもしれない。
ファインプレーでアウトにされた俺が言うんだから間違いない。
でもその後、3回の薬師の攻撃をまたもや三人で終わらせてやった。
ここまでパーフェクトピッチングを続けているが、スタミナの温存は継続中でまだまだ体力は有り余っている。
流石にこの時期だから汗が鬱陶しいけどね。
そして、その回の裏に突入してようやく薬師の真打ちが登場して来た。
『ピッチャー三野君に代わりまして、真田君。背番号1』
大方、これ以上離されるのはまずいと思って慌てて救援に来たってとこだろう。
5点差が付いてからようやく出て来るなんて、やっぱり向こうのエースには長イニングの登板に何かしら不安要素があるらしいな。
「今さら来ても手遅れだよ」
出てくるにしても遅すぎる。
誰が来てもこの試合の流れはもう変えられない。
もし仮にここから先の青道の攻撃を無失点で抑え続けれたとしても、逆転するには6点も俺から奪わないといけない計算になる。
真田がどれだけ頑張っても薬師が勝つ可能性は限りなくゼロに近いだろう。
ゼロと言い切ることが出来ないのは、向こうには一振りでピッチャーの心をへし折ってくる奴がいるからだ。
真田と轟、そして他の選手たち全員の力が上手く噛み合えばワンチャン……いや、ないな。
そもそも今日は俺が投げているんだから、心を折られることは勿論、薬師が逆転出来る可能性なんて最初から皆無だったわ。
「次の回は轟からだ。一応聞くけど、どうする?」
どうする? とは勝負するのか避けるのかと聞いているのだろう。
愚問だな。
あんなにも楽しい対決を俺が逃げる訳ないじゃないか。
そもそも6点もリードしているのに敬遠なんて普通あり得ないんだけど、御幸はもしかすると轟に俺がノックアウトされることを危惧しているのかもしれないな。
「そんなの言うまでもなく勝負だよ。むしろ敬遠とかあり得ないだろ」
「だよな。お前ならそう言うと思った」
「御幸は轟をどうブチのめすか考えといて。あいつの場合、まぐれでもバットに当てられると長打になりかねないからな」
なんてことを言っているうちに、遅れて登場した真田はテンポ良くウチの打線をアウトにしていった。
これまでとは違って投手の力で抑えている。
どうやら追加点はあまり期待出来そうにないらしい。
コールドゲームが遠のき、俺は不謹慎だと思いつつも心の中でガッツポーズした。