ダイジョーブじゃない手術を受けた俺6

 うぅ……落ち着け、俺。
 御幸の言う通り、ここは気を取り直して遠投に集中した方がずっと賢い選択だ。
 この怒りをパワーに変えてやればいつも以上の力を出せるはずだし、何よりも一軍昇格がより近いものになる。
 平常心……平常心だぞ、南雲 太陽。

「――よし、次は南雲。お前だ!」

 すーはーすーはー、と深呼吸しながら心を落ち着けていると、不意に俺の名前が呼ばれた。
 ようやく俺の順番が回ってきたか。
 テストの監督者からボールを一球だけ受け取り、その感触を指で確かめながら投球地点に移動する。

「これまでの最高記録ってどのくらいですか?」

「95メートルだ。麻生って名前の外野手志望の一年がその記録を出したぞ」

 ふーん、これまでの最高記録は95メートルなのか。
 それくらいなら案外余裕でトップに立てそうだな。
 ちなみに、後から聞いたが俺よりも先に投げていた倉持の遠投の結果は中の下くらいで、内野手にしてはそこそこといった感じだったようだ。

「南雲 太陽、いきまーす!」

 遠投に助走は必要ない。
 その代わり、投手らしくその場でワインドアップモーションを取って、腕をゆっくり振り上げる。
 そして湧き上がってくる感情を……倉持のニヤケ面に対する怒りを、すべて右の指先に込めた。

「ふんっ!」

 俺の指から放たれた白球はギュイーーンっと、我ながら凄まじい勢いで飛距離が伸びていく。
 目測で大体120メートルってところか?
 すると、俺のそんな遠投を見ていた一年からざわめきが聞こえてきた。

「お、おい。あれは一体何メートル飛んで行ったんだ?」

「100メートルは軽く超えてんだろ……。しかも、ほとんどライナーに近い軌道だったぜ」

「南雲ってあれだろ、シニアの大会で全国優勝したMVP投手。あの時よりもさらに成長しているんじゃないか? 俺たちの代のエースはあいつで決まりだな。ピッチャー志望の選手からしたら絶望だろうよ」

 ふっふっふ、周りから聞こえてくる声が心地いい。
 全力で投げたら苛立ちもスッキリしたし、さっき倉持に50メートル走で負けた分、ダントツの記録を叩き出したから尚更気持ちいいぜ!

「……記録は125メートルだ。流石はシニアのナンバーワン投手だな」

「どうもっす。でもまぁ、できればマウンドの上の投球を見て欲しいですけどね」

 どうせ驚くならマウンドでの投球を見て欲しいかな。
 外野でも守らない限り、遠投なんてあんまり意味はないし。
 気分が良いのは間違いないんだけどさ。

 そして遠投の後はバッティングのテスト……と思いきや、なんでも人数が多いからという理由で、ピッチャー志望の選手はこれを受けさせてもらえなかった。

 だから結果だけパパッと紹介しよう。
 御幸は打率も飛距離もいい感じで、思い切りの良いバッティングをしていた。
 倉持は飛距離はともかく打率は良かったかな。
 全体で見てもこの二人は結構良い成績だったと思われる。

 あと、丸坊主で関西弁を話す男が一番飛距離を飛ばしていたが、大振りのスイング過ぎて打率はちょっと残念な結果だった。
 まぁ実は俺のスイングも、ホームランか三振かって感じのバッティングだから、あんまり人のことは言えないんだけどね。

「――結局、俺が倉持に負けたのは50メートル走だけだったな。うんうん、俺は投手だしそこまで悔しくないもんね。むしろ、俺に全敗するとか心配になるくらいだし? それくらいやってもらわないと困るよな、うん」

「……お前、そんなに悔しかったのかよ」

「だから悔しくないっての。それよりも早く行くぞ、御幸。投手と捕手は向こうのブルペンでテストするんだから。あと倉持、お前は残りのテストをミスって台無しにするんじゃねぇぞ?」

「ヒャハ! 大丈夫だって。そっちも頑張れよ」

 そうして倉持はノックを受けるためにグラウンドへ、俺と御幸はセットでブルペンへと移動する。

 ようやく投球テストが始まったな。
 ピッチャー志望である俺にとっては、むしろここからの投球が本番だ。
 今までのテストには一度も顔を見せなかった監督も見に来ているし、ここで俺の実力をしっかり見せて、他の一年よりも一足先に一軍へと上がらせてもらうとしよう。

「御幸、気合い入れろよ。俺は本当に今年の夏からエース番号を掻っ攫うつもりだからよ。お前がモタモタしてると、あっという間に置いてっちまうぞ?」

「はははっ、俺だってそのつもりだよ。クリス先輩からマスクを奪うためにこうして青道に来てんだ。心配しなくても、お前に置いていかれるつもりはねぇ」

 うんうん、そっちも気合い十分って感じだな。
 これなら俺も遠慮せずに本気で投げられるってもんだ。
 高島さんから世代ナンバーワンキャッチャーだと認められる実力、しっかりと見せてもらうぜ?

「南雲、御幸、お前たちは最後だ。それまで向こうで肩を温めておけ」

 監督の言葉に、俺と御幸は『はい!』と声を揃えて返事をした。

「そういえば、まだ南雲の持ち球を聞いてなかったな。何を投げられるんだ?」

 御幸がキャッチャー用の防具を着けながらそう尋ねてくる。

「聞いて驚け。フォーシームとツーシーム、それからスライダーにカットボールとチェンジアップだ」

「へぇ、中々豪華なラインナップじゃん。こっちとしてもリードのしがいがあるな。それで球速は?」

「145キロ」

「……速ぇな。一年でその球速と変化球の数かよ。三年になる頃にはどれだけのバケモンになっているのかね。やっぱりお前とは長い付き合いになりそうだ」

 驚いてる驚いてる。
 でも、それだけで俺の持ち味をわかった気になられても困るぜ?
 元相棒曰く、俺の直球は天性の才能があるらしいからな!

「ふっふっふ、安心してくれ。初めから俺が投げる球を捕れなくても、それが普通だからさ。何なら初めは手加減してやっても良いんだぜ?」

「――へぇ? そりゃ面白い。遠慮はいらないから全力で投げろ」

 いいねいいね。
 そういう燃える展開、俺も大好きだぜ?
 俺の球を受け止められるのは、今のところシニア時代の元相棒とクリス先輩の二人だけ。
 そこに御幸が加わるのかどうかはお前の実力次第だ。
 高島さんがあれだけ推すぐらいだし、期待しても良いんだよな?

 さっきの遠投の時にしっかりと肩を作っていたとはいえ、全ての力を出し切る為にも、もう一度念入りに肩の調子を整える。
 これが俺なりの故障防止のルーティンみたいなものだ。
 その効果なのかはわからないけど、どれだけ投げても今まで故障とか怪我をしたことが無いんだよね。

「うっし、もう良いぞ。次からはお望み通り全力で行くからな」

 さてさてさーて。
 御幸、お前は俺の球を受け止めることができるかね?

 

   

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