ダイジョーブじゃない手術を受けた俺18

 いよいよ関東大会の初戦の日がやってきた。
 クリス先輩が離脱してからのここ数日、変化球を中心に球数を調整しながら毎日御幸と投げ込みをしてきたので、高速スライダー以外はちゃんと捕球できるようになっている。
 あれは我ながらおかしい変化球だから仕方ない。
 焦らず、おいおい捕れるようになってくれれば良いさ。

 ただ、とりあえず今日の試合はストレート中心のピッチングでいくつもりだ。
 これは御幸と話し合って決めた。
 俺が一番自信がある球はストレートだから、やっぱりそれを中心に組み立てていく方がテンポ良く三振を奪えるからね。
 後逸する心配をしなくてもいいし、俺も思い切り安心して投げられる。

 あ、それから当然だけど今日はクリス先輩はベンチにも居ないよ。
 元プロ野球選手のお父さんであるアニマルさんって人と一緒に、日本でもトップクラスの医者に肩を見せてくると言っていた。
 完治まで半年掛かると言われていたけど、最新の治療法を含めて検討してくるらしい。

 てか、クリスさんの父親がプロ野球選手だったとか初めて知ったんだけど。
 しかもそのアニマルさんは結構有名な人みたいだね。
 俺はプロの選手とかあんまり知らないから御幸に聞いたよ。
 プロなら是非とも、個人的に俺のバッティングについてアドバイスして欲しいところだ。

「いやー、それにしてもまさか御幸がクリス先輩の怪我にあそこまで落ち込むとは思わなかった」

 クリス先輩の離脱でダメージを受けていたのは、二、三年の人たちだけではなく御幸もその一人だった。
 御幸はクリス先輩をシニアの時から目標にしていたらしく、それで青道への入学を決めたほど心酔していたのだから、ある意味では誰よりも衝撃は大きかったかもしれない。

「仕方ねぇだろ。あの人は俺がずっと目標にしてきた人なんだからな。それが急に居なくなっちまって、ポジションを奪い取るつもりだったのにこれじゃあ不完全燃焼だ。ま、もう切り替えてるから心配無用だけどな」

 まぁ、結局は自力で立ち直ったみたいだけどね。
 変にやる気を失くされても困るし、キャッチャーがいないピッチャーなんて全くの無意味だから、すんなり気持ちの整理をつけてくれたのは有難い。
 何だかんだで、御幸も俺と同じくらい前向きな性格をしているから助かった。

「御幸って見た目よりずっと図太い性格してるよな」

「お前だけには言われたくないんだけど……」

 何故か呆れた顔で言い返されてしまった。
 まったくおかしなやつだな、御幸は。

 そして以前から言われていたように、今日の試合の先発は俺ではない。
 俺は監督から出番が来るまで待機を命じられているので、試合が始まるのをベンチで御幸と一緒にグラウンドを眺めながら待っていた。

 1 ライト 広瀬 三年
 2 セカンド 小湊 二年
 3 レフト 田島 三年
 4 サード 東 三年
 5 ファースト 結城 二年
 6 ショート 山口 三年
 7 センター 伊佐敷 二年
 8 キャッチャー 宮内 二年
 9 ピッチャー 丹波 二年

 これが今日のオーダー表である。
 穴が空くほど見返したが、何度見ても先発投手には俺ではなく別の名前が記入されていた……。

「あーあ、でも結局ベンチスタートか。先発で投げさせてくれたら、相手がどんなチームでも完封してやんのにな……」

「おいおい、まだグズってんのか。いい加減諦めろよ。ここで結果を出せばそのうち先発でも使ってもらえるだろうし、途中登板でも十分じゃねぇか。むしろスタミナの心配をせずに全力投球が出来るんだから、この方が思う存分楽しめるだろ?」

「先発完投はロマンだ」

「今の時代は先発、中継ぎ、抑えで分業するのが当たり前だ。よっぽどの理由が無ければやらせてもらえないんじゃないか? それで潰れるピッチャーも多いし」

「なんだと……!?」

 先発完投は時代遅れだとでも言うのか?
 確かに肩への負担はあるだろうけどさ、全球全力投球なんてしなけりゃ大丈夫だと俺は思う。
 完投するには完投なりのピッチングがあるんだよ。
 ……まだ9イニングに慣れていないから、それが出来るかはわからんけど。

「じゃあ駄目じゃん」

 うるしゃい。
 高校に上がってからまだ登板した事がないんだからしょうがないだろ。
 でも俺なら出来る!……はず。

 まぁそれはともかく、今日の試合で先発で登板するピッチャーは二年の丹波っていう人だ。
 長身で鋭いカーブが持ち味の投手なんだけど、佐藤先輩とは違ってノミの心臓の持ち主なのだとか。
 あの人と比べるのは色んな意味でダメな気はするが、それでもピンチに弱いってのは投手として致命的によろしくない。

 極端な話をすれば、たとえどれだけ打たれたとしても、点さえ入れられなければ負ける事はないんだからね。
 まぁ、だからと言って佐藤先輩のピッチングは心臓に悪いからやめて欲しいけど。

 ちなみにキャッチャーをしているのは二年の宮内先輩で、御幸やクリス先輩の次に俺の球を上手く捕れる捕手だ。
 宮内先輩とはよく筋トレについての会話をする事が多く、先輩の中では結構仲が良かったりする。
 そんな二人が今、マウンドで投球練習を始めていた。

「念のために南雲もブルペンで軽く投げておくか? ……あんまり大きい声じゃ言えねぇけど、丹波さんが炎上したら出番が早まるかもしれないぜ」

 あ、なるほど。
 確かにそれはあり得るかもしれない。
 予定では6回からの登板と言われているが、それでも丹波さんが大炎上してしまえば俺の出番が早める可能性は十分にある。

 マウンドに上がる以上は、どんな状況でも万全の状態でなければならない。
 流石にチームメイトである丹波さんが炎上するのを期待する訳にはいかないけど、もしもの時の為に備えておくのは別に悪くないだろう。

「そだな。ちょっとだけ身体を動かしておこう」

「ただ、あくまでも軽くだぞ。ブルペンで飛ばし過ぎてマウンドでバテるとか、マジで笑い話にもならないからな」

「……そんくらいわかっとるわい」

 この男は一体俺のことを何だと思っているんだ?
 いくら俺でもブルペンで全力投球し続ける訳なかろうが。

 そうして俺はブルペンで軽く投げ込みを始めたんだが……俺がマウンドに上がることになったのは4回表のことだった。

 

   

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