ダイジョーブじゃない手術を受けた俺23

「――私と付き合ってください!」

 関東大会準決勝の翌日で決勝の前日、試合が無いので普通に学校に登校していた日の昼休み。
 場所は人気が少ない校舎裏。
 そこで俺は……同じ一年の女子生徒から告白されていた。

 まずは事の顛末でも話そうか。
 いつも通り寮から教室に登校して自分の席に座ると、机の中に見慣れないピンク色の手紙が入っていたんだ。
 内容は確かこんな感じだった。

『突然のお手紙ごめんなさい。今日のお昼休み、校舎裏で南雲くんを待っています。お時間があれば来てください。 1年C組 田中 モブ子』

 うん、これは完全にラブレターってやつだね。
 手紙に書いてあった通り昼休みに校舎裏へとやってくると、そこには手紙の差出人である田中さんらしき女子生徒がいた。
 それで彼女に告白された、という訳だ。

 ただ、ねぇ。
 少なくとも今は野球以外のことに時間を割くつもりはないし、恋人を作ってデートするとかいうこと自体にあまり興味が湧かない。
 そんな状態で付き合うも何もないだろう。
 せっかく告白してくれて可哀想な気もするけど、ここはスッパリと断ってあげた方が彼女の為にもなるかな。

「あー、ごめんね。田中さんの気持ちはすごく嬉しいんだけど、今は野球以外に興味がないんだ。だから誰かと付き合うつもりはない。悪いね」

「……そっか。私こそ急にごめんね。野球、頑張って。これからも応援してるから。それじゃあ、私はこれで……」

 田中さんは涙をグッと堪えるようにして走り去っていった。
 さらばだ、モブ子ちゃん。
 告白してくれたのは嬉しかったけど、今は野球に集中したいんだ。
 きっと俺はメールの返事すらまともに返さないだろうから、他にもっと良い人を見つけると良いよ。

「おっと、早く昼飯食いに行かないと食いっぱぐれるな。さっさと戻るか」

 1時間近くある昼休みとはいえ、こんな所でボケっとしていれば昼飯を食う前に終わってしまう。
 お腹も空いたし早く食堂へ行って飯を食べよう。
 そうして回れ右で校舎へ戻っていくと、途中で草むらの方からガサガサという音が聞こえてきた。

 おやおや、あそこに誰かいるのか?
 でもこんな人気のない所で……はっ、もしや不審者が学校の敷地内に侵入しているのでは!?
 もしそうなら俺がその不届き者を成敗してやらねばなるまい。
 安心してくれ。
 相手が俺よりも強そうな大男だったら一目散に逃げるから!

「そこにいるのは誰だ! 出て来い!」

 ちょうど良い機会なので、言ってみたい台詞ランキングで俺的上位に入っている台詞を言ってみた。
 これで何も無かったらめっちゃ恥ずかしいよね。
 あ、でもこれでカップルとかが出てきたら最悪かも……。

 そんなことを考えながら数秒その場で固まっていると、見覚えのある二人の女子生徒が草むらから出て来た。
 一人は片目が髪で隠れている女子生徒で、もう一人は長い黒髪の美人さん。
 我らが青道高校野球部が誇る美人マネージャーである、夏川さんと藤原先輩だった。

「あれ? 夏川さんと藤原先輩じゃないですか。こんなところで、かくれんぼですか?」

 俺がそう声を掛けると、二人はビクッと反応してばつが悪そうな表情を浮かべた。

「あ、あはは……奇遇だね」

「そうねっ、こんなところで会うなんて奇遇ね」

 完全に目が泳いでいる。
 これがさっきの俺の台詞に引いているんじゃないんなら、十中八九モブ子ちゃんの告白を覗き見していたんだろう。
 そういえば、さっきここに来る途中で二人をチラッと見かけた気がする。
 ジッと二人の目を見つめてみると、彼女たちはそっと目を逸らした。

「もしかして二人とも、さっきの見てた?」

『……ごめんなさい』

 どうやら二人に事情を聞いたところ、監督から俺宛てに伝言があったらしく、それを伝える為に後を追って来たら偶然あの場に居合わせてしまったのだとか。
 それで空気的に邪魔をしてはいけないと咄嗟の判断で草むらに隠れ、そこでずっと息を潜めていたみたい。
 悪気は無かったがごめんなさいと謝ってくれた。

「ま、そういうことなら別に良いけどね。減るもんでもないし。でも、自分の告白を人に見られてたなんて嫌だろうから、さっきのは誰にも話しちゃ駄目だよ? 二人なら広めたりしないだろうけどさ」

 この二人なら他言する事はないだろうけど、一応はきちんと言っておかないとね。
 俺はあんまり気にしないけど、女の子であるモブ子ちゃんは気にするだろうからさ。

「それはもちろん大丈夫だよ。しっかりと胸に内にしまっておくから!」

「私もよ。同じ女性として、誰かに言うつもりなんて無いわ」

 ならばよし。

「藤原先輩、それで監督からの伝言って何ですか?」

「あ、そうだったわね。ごほん、では監督からの伝言を伝えます。心して聞くように」

「ゴクリ」

「『明日の決勝戦の先発は南雲でいく。だから今日の練習は疲れを残さないように軽めにしておけ』だって。初めての先発、頑張ってね」

「えっ!? マジっすか!?」

「うん、マジだよ」

 よっしゃあああ!!
 遂に俺が先発の試合が決まったか!
 もしかしたらその可能性もあるかと考えてはいたけど、まさか本当に俺が先発できるとは思わなかった。
 いやー、監督も俺のことを上げて落とすのが上手いな。
 すっかり騙されてしまったよ。

「あの……南雲君? そろそろ離してくれる?」

「あはは……ちょっと恥ずかしいかな」

 おっと、興奮のあまりいつのまにか藤原先輩と夏川さんの手を握っていた。
 ……わざとじゃないよ?

「これは失礼しました」

 何とも言えない気まずい空気が流れてしまったが、それ以上に今の俺のテンションは最高潮なので、変わらずに笑顔のままだった。

 

   

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