決勝戦をなんとか一人で投げきった俺は、ベンチに下がるまで周りに疲れを悟らせないように気力を振り絞って帰還した。
ただ、ベンチに戻った瞬間に力尽きてしまい、十分くらい歩けないほどに疲労困憊な状態になってしまったよ。
疲れ過ぎて足が震えるなんて久しぶりだ。
今までの人生の中で一番体力を消費した時間だったかもしれない。
そして、そんな状態だった俺は当然病院へと連行されることになった。
「ふむ……骨に異常は見当たらん。筋肉は少し炎症を起こしているようだが、これは安静にしていれば数日くらいですぐに良くなるだろう。というか、むしろ健康過ぎて不気味なくらいだ。ピッチャーなんてやってれば、肘や肩に大なり小なりダメージが蓄積している筈なのに、この小僧にはそれがほとんど見られない。お前、ホントに人間か?」
失礼な。
どこからどう見ても少し顔が良いだけの普通の人間でしょうが。
いくらお医者さんだからって、言って良い事と悪い事があるんだからね!
「昔から怪我とは無縁の丈夫な身体なんです。ケアとかもしっかりしてますし、たぶん人よりもそういうのに耐性があるのかも?」
身長も同学年……いや、高校生の中でも結構デカい方だしね。
このままいけば、190センチに届くか届かないかくらいまで伸びると思う(願望)。
「頑丈という言葉で済ませて良い事でもないが……まぁ、そういうことだ。鉄心、この小僧があまり無茶をしないようにしっかり見張っておけよ。今回がたまたま運が良かっただけで、無理を続ければいずれ潰れるんだからな?」
「……はい。ありがとうございました、矢吹先生」
後ろで一緒に診察結果を聞いていた片岡監督が、頭を下げながらそう言った。
その隣にいる高島先生も同様にあからさまにホッとしているし、俺は心配ないと言ったがよほど俺の言葉に信用がなかったらしい。
無理をして投げていたのは事実だから仕方ないんだけどさ。
ただ、俺は多少の無理をしなくては成長することが出来ないと思っている。
これからも無茶はしないが無理はすると思うな。
まぁ、自分の身体のことは結構わかっているつもりだから、ヤバいラインはちゃんと越えないようにしているよ。
「南雲君、色々言いたいことはあるんだけど……とりあえずお疲れ様。味方にまで疲労を隠し通したこと以外は見事なピッチングだったわよ」
「ふ、含みのある言い方っすね高島先生。俺だって相手打線を抑えられると思ったから、あの時マウンド降りなかったんです。もちろん、肩や肘にも違和感はありませんでしたし」
「そうだとしても、教育者としては小言を言いたくなるのよ。散々心配を掛けたんだからこれくらい我慢しなさい」
「ははは……わかりました。次はもっとスタミナを付けて、余裕で完投できるように仕上げておきますよ。監督、高島先生、ご心配をお掛けしました」
俺の力不足で心配を掛けたんだから、こういうのはしっかり謝っておかないとね。
監督に怒られる前に謝っておいた方が良いだろうという打算もあるけど。
「――南雲、しばらく投球は禁止だ。ボールを持つことも許さん」
ありゃ、結構怒ってらっしゃる?
グラサン越しに見える眼光がいつもより七割り増しくらいで怖い。
でもまぁ、今後はスタミナ強化を重点的にやろうと思っていたし、ちょうど良いと言えばちょうど良いか。
フッ、今の俺はアドレナリンでぶっ飛んでいるから、監督の怖い顔にも全然怯まないぜ!
「了解です。というか、元からそのつもりでした。ランニングでスタミナを強化しておきますね」
俺がそう言うと、監督は少し意外そうな表情を浮かべる。
「……まさかすんなり受け入れるとはな。お前のことだから、必ず投げさせろと言ってくると思っていたが」
「今の俺に一番必要なものはスタミナですから。それが今日の試合でハッキリしました。俺にはまだまだ足りないものが一杯ありますけど、まずはスタミナの問題を片付けますよ」
球速だってまだ160キロに届いていないし、変化球も改良の余地があるし、コントロールも決して満足できるレベルじゃない。
課題は山積みだ。
俺には止まっている暇なんて無い。
確かに走り回っているよりもピッチング練習の方が好きだけど、試合の途中で投げられなくなるくらいならさっさとスタミナを付けておいた方が全然良いよ。
……それに、ここでもっと投げさせろなんて言ったら確実に雷が落ちるよね?
「少しでも文句を言えば三軍に落とすつもりだったんだがな」
ほらね。
「うげっ、それは流石に勘弁してください。今日だって試合で張り切り過ぎて少し疲れちゃっただけですよ?」
「まともに歩くことすら出来ない状態を少しとは言わん」
うぐっ、それを言われると何も言えん。
身体に異常が無いと言っても、スタミナ切れの状態で投げていれば当然怪我をしてしまうリスクは大きくなる。
それは間違いなく事実だからな。
でも、今さら三軍は厳しすぎないですか?
「南雲君も反省はしているようですし、今回はこのくらいにしておきませんか? それよりも、今日は早く帰って休ませた方が良いと思います」
「……そうだな。では矢吹先生、これで失礼します」
「ああ、精々気を付けるこった」
ナイスフォローだよ高島先生!
今日から先生のことを女神と呼ぼうかしら?
何はともあれ、彼女のお陰で俺はお咎めなしということになった。
「あ、そうだ矢吹先生。レントゲン撮ったついでに聞きますけど、俺の身長ってまだ伸びますか? 確かレントゲンを撮るとそういうのもわかるんですよね?」
帰り際に俺がそう尋ねると、先生は張り出されている俺の骨の写真をじっくりと観察し始める。
「ふむ、そうだな……骨端線もまだ閉じていないし、あと数センチくらいは伸びると思うぞ。絶対とは言わんがな」
おっ、それは有り難い。
お医者さんのお墨付きがあれば、身長に関してそこまで心配する必要は無さそうだ。
病院に来たのも決して無駄ではなかったらしい。
ただ、身体に異常が無いと言われた時よりも喜んでいる俺を見て、この場にいる大人たち三人は呆れていた。
こ、高校生にとって身長はすっごく大事なんだからね!?
南雲 太陽 (関東大会終了時)
球速151キロ
コントロールB
スタミナC
フォーシーム、ツーシーム、スライダー3、高速スライダー3、カットボール1、チェンジアップ3
弾道4 ミートD パワーB 走力C 肩A 守備C 捕球B
怪童、怪物球威、ド根性、キレ○、緩急○、打たれ強さ○、奪三振、勝ち運、闘志、パワーヒッター、人気者