ダイジョーブじゃない手術を受けた俺38

 マネージャーさん達が実は大変な仕事をしていると聞いて感謝した翌日、有り難いことに今日も他校との練習試合が組まれていたので、午前中はそれをこなしていた。
 抑えとしての登板だったということ以外は満足できる試合内容で、さっそく新しいフォーシームを試したり、コントロールの感覚を確かめたりと、かなり色々なことの経験値を積めた筈だ。

 やっぱり実戦じゃないと成長できない部分はあるし、俺の場合たぶんそれが人よりも多くの割合を占めていると思う。
 決して試合に出たいからそう言っている訳じゃなくて、割と本気で。

「んー! 試合が終わった後の飯は美味いな! いくらでも食べられるぜ。おかわりよそってこよっと」

 そして、今は寮の食堂で昼飯を食べている。
 いつもは大体御幸と倉持の三人で食べているんだけど、どうやら倉持は二軍の練習試合が長引いているらしく、まだ食堂に帰ってきていなかった。

「お前それ何杯目だよ。よくそんなに食えるな?」

「腹減ってたのもあるけど、今の俺にはコイツがあるからな」

 そう言って俺は脇に置いてあった瓶を御幸の前に差し出す。

「ん? ……ふりかけ?」

「ただのふりかけじゃないぜ? これは藤原先輩おすすめのふりかけ――『白米ノ友』だ。なんと店舗販売限定の商品で、わざわざ足を運ばなければ購入できないという幻の一品。焼肉味、すき焼き味、そしてカレイの煮付け定食味の三種類を楽しめる商品となっております」

 追加でもう二つの瓶も取り出した。
 この3つのふりかけはどれも美味しいが、俺のお気に入りはこのカレイの煮付け定食味だ。
 これさえあれば無限にご飯を食べられる気さえする。

「ふーん、ちょっと使ってもいいか?」

「いいぞ。気に入りすぎて大量に買ったから、好きなだけ使ってくれ」

「サンキュー。なら俺はすき焼き味にするか」

 すき焼き味瓶から中身をご飯の上に落とし、パクッと一口。

「どうだ?」

「……おっ、確かに美味いな。これがあれば俺も余裕でどんぶり飯3杯のノルマを達成できそうだ。もっとくれ」

「うんうん、どんどん使ってくれたまえ」

 ふっ、これで御幸もこのふりかけの虜になったか。
 実はこのふりかけを売っている店の店主に、もしも売れ行きが好評なら別の味も作るから宣伝してくれと言われてしまったのだ。
 だからこうして布教活動をしている。
 めちゃくちゃサービスもしてもらったしね。

「おっ、中々美味そうなふりかけだな。俺も使ってみて良いか?」

 俺と御幸のやりとりを聞いていたようで、クマさんが自分も使いたいと言ってきた。

「ええ、どうぞどうぞ。あ、皆さんも欲しかったら使っても良いですよ。まだまだ在庫はあるんで」

 すると、先輩たちから『うおぉぉおぉぉおおおお!!』という野太い歓声が上がり、我先にとふりかけをご飯にかけていくという非常にシュールな絵が展開された。
 よほど気になっていたんだね。
 チラチラ俺の方を見てアピールしてたし。

「……俺も使っておいて言うのはなんだが、良いのか? いくらたくさんあると言っても、元はお前の金だろう?」

「ああ、それは大丈夫です。実はそんなにお金は出してないんですよね。店の人に宣伝料込みってことでサービスしてもらったんで、遠慮なく使ってください」

 既に何回か店に買いに行っていて、その時に店主やその奥さんと仲良くなったんだよね。
 夫婦揃って高校野球のファンで、俺が青道の野球部だと言ったらすごく話が弾んだのを覚えている。
 俺が関東大会で投げていた投手だと話したらすごく喜んでくれて、こちらが遠慮するほどのサービスをしてくれたんだ。

「そうか。なら有り難く頂こう。あとでその店を教えてくれ。自分でも買いに行きたいからな」

「もちろんですとも」

 意外と学校から近いからパパッと買いに行ける。
 ちゃんと先輩たちにも店の場所を教えて、客として自分で買いに行ってもらわないとね。
 そうすればこのふりかけシリーズの新商品が店頭に並ぶらしいから。
 ファンとしては是非とも食べてみたい。

 

 ◆◆◆

 

 昼食を食べ終わって食堂で一休みしている俺と御幸。
 俺たちみたいに何人かは食堂に残っているが、ほとんどの人は自主練をしにもう出て行っている。

「そういえば倉持はまだ来ないな。二軍の練習試合が長引いているのかね?」

「ああ、多分そうだ。観に行ってみるか?」

「んー、やめとく。流石にそろそろ終わる頃だし、今はお腹が一杯で動きたくない」

「食い過ぎだ」

 美味しかったんだから仕方ないじゃん。
 それに、どうせ動いてたら勝手に消化されてくし。

「ていうかさ、なんか最近先輩たちピリピリしてないか? 特に二軍の人たちがいつもの三割増しくらいで怖いんだけど」

「それはもうすぐ最後の一軍メンバーが発表されるからだろうな。一軍に上がれる枠は残り2枠。そこに入れなければ、今年の合宿……そして夏の大会は一軍選手のサポートをする事になる。それが嫌だからみんな必死になっている筈だ」

「あぁ、どうりで」

 だからあんなに張り詰めた空気だったのか。
 なるほど。
 そりゃあ必死にもなるわ。

「御幸は倉持が一軍に上がれると思うか?」

「あいつが上がれる可能性は五分五分って感じかな」

「おいおい、そこは倉持なら大丈夫とかって言う場面じゃ……」

「俺は現実主義なんだよ。実際、南雲はともかく俺だってクリス先輩の怪我が無かったら一軍には上がれていないだろうし。それくらい青道はレベルが高い。そんなチームで上がれる可能性があるだけ凄いことだよ」

 ……それは遠回しに褒めてるんだよな?
 まったく、素直じゃないやつだ。

「おっ、噂をすれば倉持がようやく帰って来たぞ」

 二軍の人たちが試合を終えて続々と食堂に入って来た。
 その中には、現状一年生の中でたった一人の二軍選手である倉持もいる。

「あー、腹減った。試合が長引いちまって大変だったぜ」

 倉持は料理を乗せたトレイを持って、俺の横にドカッと腰を下ろした。

「倉持、二軍の試合はどんな感じだったんだ?」

「こっちは特に珍しいことは起こってねぇよ。誰かさんみたいにパーフェクトやったり、特大ホームランをぶっ放したり、そんな派手なことは一切無かった。強いて挙げるとすれば、俺が盗塁しまくったってことだな」

「へぇ、そんなに活躍したのなら、もしかすると合宿前に一軍に昇格出来るかもな」

「そ、そうか?」

 流石にショートを守っている三年の山口先輩からレギュラーを奪うのは厳しいだろうけど、倉持には誰にも負けていない足がある。
 ほぼ確実に盗塁を成功させるようなその走力があれば、代走要員として一軍に上がれても不思議じゃない。
 一人でもそういう選手がいると、戦術の幅がグッと広がってくるし。

 だから、頑張ってくれたまえ。

 ちなみに倉持にもふりかけを勧めておいた。
 もちろん、こやつもあっという間に虜になったよ。
 新商品の登場は近いな。

 

   

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