ダイジョーブじゃない手術を受けた俺42

 さて、ストレートを投げる時だけ僅かに笑ってしまうという何とも言えない俺の弱点が発覚したが、それをどうにかして直さないと他校との試合で配球を読まれる可能性がある。
 もしも公式戦でその癖を逆手に取られたら最悪だ。
 だからこれは早めに矯正しないといけない。
 いけないんだけど……正直、自分が意識していない部分だからどうやって改善すれば良いのかさっぱりだった。

「――で、どうすればいいと思う?」

 少し考えた結果、バッテリーを組んでいる御幸の意見を聞いてみることにする。

「んー、顔の表情は無意識のうちに表に出てしまいやすい場所だからなぁ。というか、変に意識すればピッチングに影響がありそうで怖い。あ、どうせならずっと同じ表情で投げれば良いんじゃないか?」

「……ずっと同じって、それが出来ていないからどうにか直そうとしているんだけど?」

「違う違う。笑わないようにするんじゃなく、いっそのことずっと笑って投げろってことだ。別にピッチングの中でストレートだけが好きって訳じゃないんだから、それをあえて表に出して投げるんだよ。そうすりゃ良い感じに紛れるだろ」

 つまり毎回笑顔で投げろってことか。
 うん、それなら大丈夫かも。
 難しい事を考えずにひたすらピッチングを楽しめば良いだけだから、これはこれ以上なく俺に合っている解決方法だろう。
 でもま、こればっかりは実際に試合で確かめてみないと意味がないな。
 表情の練習なんて今どれだけやっても試合で出来なきゃ同じだし。

 おっと、ひとまず協力してくれた先輩にお礼を言っておかないと。

「藤原先輩、ありがとうございます。先輩のおかげで俺はもっと強くなれそうだ」

「役に立てたのなら良かったわ。それに、二人の成長を間近で見られるのは、私も楽しいしね」

 そう言って微笑む藤原先輩の顔はとても綺麗だった。

 

 ◆◆◆

 

「――ナイスボール。藤原先輩がいてくれるお陰か、マジでいつもより球が走ってる気がする。その調子でどんどん投げてくれ」

「おう、任せとけ! 今なら160キロくらい余裕で出せそうだ。なんてったって、今の俺には藤原先輩が付いているからな!」

「もう……」

 南雲君だけじゃなくて、御幸君まで私にそんな事を言ってきた。
 距離を置かれるよりはこっちの方が良いんだけど、いくらマネージャーとはいえもう少し先輩として敬って欲しい。
 これでも他の部員のみんなからは結構頼りにされているんだけどなぁ。

 でも、不思議と彼らの言動は不快には感じられない。
 それはきっと、南雲君が裏表の無い性格をしているからだと思う。
 純粋な野球小僧と言えば良いのかな?
 少し性格に難があるような気もする御幸君だって、南雲君と同じくらい野球に真摯に打ち込んでいる。
 だからたぶん怒るに怒れないのかも。

 そんな事を考えている間も、南雲君はバシン!とボールがミットに収まる小気味好い音を響かせる。
 私はこの音が好きだ。
 まるで心に直接響いてくるような力強さがある。
 青道にはたくさんの凄いピッチャーがいるけど、その中でも彼の音は格別に良い音だと思う。

「よし、このくらいでいいだろう。そろそろ撮影した動画を確認しよう。先輩、見せてもらっても良いですか?」

「わかったわ。ちょっと待ってね」

 私はスマホの画面の停止ボタンをタップして録画を止める。
 そして南雲君と御幸君が集まってきて、さっきまで録画していた動画を三人で確認することになった。

「へぇー、俺の投球フォームって横から見るとこんな感じだったんだ。結構俺の理想通りのフォームかも」

 南雲君の投球フォームは私から見てもとても綺麗だ。
 なんと言うか、優雅……と言えば良いのかな。
 気が付けば自然と目で追ってしまうような、そんな芸術作品みたいな力強い魅力がある。
 マネージャーの仕事の手が空いた時、彼のピッチングを見ることが私の密かな楽しみになっているほど。

「御幸、お前はなにかわかったか? ちなみに俺はまったくわからん」

「んー、俺もわかんねー。腕の振りも腰の動きも気持ち悪いくらいに一緒だし、違いなんてないように見える。クリス先輩が言うんだから何かあるんだろうけど……」

 それにしても南雲君は本当に楽しそうに野球をしている。
 スマホ越しに映っている彼は真剣な表情を浮かべて投球を続けているけど、私にはその奥にある感情が透けて見えるような気がしていた。
 だって、涼しい顔をしている割に抑えきれないくらいの気迫を全身から出していたんだもの。
 すぐにわかる。

 試合中も練習中も、南雲君は変わらずにこんな感じだ。
 今も……あら?
 私はスマホの画面に映っている南雲君の顔を見て違和感を覚えた。

 笑っている。
 それもいつもの投球時に浮かべている真剣な感じではなく、感情が溢れてきてしまったかのような純粋な笑みだ。

 その後もそこに注視して見ていると、その笑みが変化球を投げる時には表れていないことがわかった。
 うん……やっぱり間違いない。
 二人にそれを伝えると、一瞬驚いた顔を見せたがやがて納得してそれを改善する話し合いへと変わる。

「それにしても、よくこんなの気が付きましたね? サインを出してる俺ですら気付いていなかったのに、俺たちとは見ているところが違ってたんですか?」

「え、ああ、うん。たまたま、ね」

「にしし。たまたま、ね」

 ……本当に偶然だから、御幸君。
 その意地の悪い笑いはやめなさい。

 

   

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