ダイジョーブじゃない手術を受けた俺43

 青道高校は毎年六月に一軍選手を中心とした合宿が行われている。
 これは夏の大会に向けて戦力を大幅に底上げする為のものであり、一軍に選ばれなかった選手たちは全員そのサポートに回るのだ。
 当然、それは今年が最後の三年生であっても例外ではない。

「ふぅ……久しぶりに球拾いなんてやったけど、これも結構疲れるな。練習に参加出来ないことがこんなにもストレスなのは初めてだ」

「そう愚痴を言うなって。今は一軍連中の練習があるからバットやボールには触れないけど、自主練の時間は別だ。その時にでもこのストレスを発散しようぜ」

「大会に出れないのにまだ練習するつもりかよ?」

「今までずっとやってきたんだ。今更その習慣は変えられねぇよ。俺は大学でも野球を続けるつもりだしな。それに、サポートとはいえ俺はあいつらと一緒に戦ってるつもりだ。そう考えれば、この球拾いにだって意味があると思えるだろ?」

「……それもそうだな。よしお前ら、気合い入れて球拾うぞ!」

 ただ、選ばれなかった悔しい気持ちは未だに残っているのだろうが、それでも徐々にその悔しさを応援やサポートという形へと変えようとしていた。
 選ばれた彼らなら自分たちの分まで暴れてくれる、そう信じているのだ。
 とはいえ、これほど早く気持ちを切り替える気になれたのは、とある選手の影響による所が大きかもしれない。

「あはは……おい、見てみろよ。南雲のやつ、さっきまで外野ノックと遠投してたのにめちゃくちゃ元気そうだぞ」

 球拾いをしていた一人の三年生が、マウンドに立っている一年生を見てそう言った。
 その声に釣られて何人かの視線が移動する。
 そして皆が呆れたような羨望のような、そんな表情を浮かべた。

 才能の差。
 南雲と自分たちを比べると、これ以上なくそれを実感してしまう。
 今マウンドに立っている彼はピッチャーではあるが、野手としても十分に一軍で活躍出来る素質を秘めており、全てにおいて勝てないと多くの選手が自覚させられていた。
 その名の通り、太陽のごとく眩しい存在である。

 これで練習をサボっている、試合で結果が出せない、そんな欠点があればまた違ったかもしれない。
 だが、南雲 太陽は紛れもなく怪物だった。
 見ての通り練習は誰よりも気合いを入れて取り組んでいるし、試合で緊張するなどという可愛気は一切ない。

 圧倒的な実力で相手チームを捩じ伏せる姿はまるで――マウンドの皇帝のようである。

 もしも彼が居なければ自分が一軍だったかもしれないと、そう思わなかったと言えば嘘になるだろう。
 しかし、嫉妬すら湧かないほどに実力差があれば踏ん切りもつくというものだった。

「あのチームなら行けるかもしれない。今年こそ、甲子園に……!」

「ああ、あいつらならやってくれるさ」

「というか、俺は南雲が点を取られてるのが想像出来ないぞ。強豪相手でもサラッと完全試合とかやりそうだし。少なくとも、俺なら全打席三振する自信がある」

 この場にいた全員がその言葉に同意した。

 

 ◆◆◆

 

 合宿初日がもうすぐ終わりそうだ。
 上を見上げてみれば、空が茜色に染まって綺麗な夕焼け模様となっている。

「うまっ! 夏川、梅本、これめっちゃ美味いよ!」

 マネージャーさん達が用意してくれたおにぎりやバナナを食べ、俺はちょうど近くにいた二人にそう言った。
 激しく動き回っているから、こうして間食を取らないと体重がどんどん落ちていってしまうんだ。
 それにちょうどお腹も空いていたから本当に有難い。

「そんなに喜んでもらえると、私たちも使った甲斐があるわ。あ、南雲君、良かったらこれも食べてあげてよ。唯が南雲君に食べてもらおうと気持ちを込めて作ってたからさ」

「ちょ、何言ってるのよさっちゃん!」

「お、それじゃあ貰うな。……うん、美味い! サンキュー、夏川」

「う、うん」

 うまうま。
 疲れた身体にちょうど良い塩加減で本当に美味しい。
 ついつい、みんなの分まで食べ過ぎてしまいそうだ。
 何はともあれこれで体力は回復したから、いくらでも練習が続けられそうだ。

 ただ、結構期待していた合宿はいつもの練習とそこまで違いは無かったな。
 強いて言うなら一軍だけがグラウンドを使っている状態だから、普段よりも広々と使えて多少走る量が増えたような気がする程度だ。
 こんなこと言ったらあれだけど、拍子抜け感は否めない。
 と、クマさんにそう言ったらなぜか含みのある笑みを返された。

「フッ。南雲、心配しなくても合宿で本当にキツいのはここからだぞ。合宿中は日が落ちても練習は続くし、そこからは俺たち三年生でもしんどくなるからな」

「おぉ、それは楽しみですね。今の俺のスタミナでどこまでやれるのか、確かめておきたいと思ってたんですよ。御幸、聞いたか? ここからがキツいんだってさ。楽しみだな」

「楽しみとか意味がわからん。つーか、あんだけ走らされてたのに何でお前が一番元気なんだよ」

「そりゃこうして飯を食ってるからだろ。昼もちゃんと食べてるし」

「……そうだよな、お前はそういうやつだったよな」

 ははは、何を疲れた顔をしているんだ御幸。
 合宿はまだまだこれかららしいぞ。
 ほら、お前も食えよ。
 かなり美味いから俺じゃなくても食えば元気になるって。

「え、良いんすか純さん? こういうのって先輩たちに譲った方が良いんじゃ……」

「そんなもん気にすんな! 食え食え、好きなだけ食え。ガッハッハ!」

「あざす!」

 俺たちの近くから同じく一年生組である倉持と、二年の先輩である伊佐敷さんのそんな声が聞こえてきた。
 ふむ、俺と同じくらい食べているのは倉持くらいか。
 先輩たちだってお腹は減っている筈なのにあまり手をつけていない。
 食堂で何杯もご飯をおかわりしている増子先輩も、今は食べるのを控えめにして抑えているような感じだ。

 ……なんかおかしくね?
 俺はそう疑問に思いながらも、小腹満たす為にもう一つおにぎりに手を伸ばしたのだった。

 

   

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