ダイジョーブじゃない手術を受けた俺47

 白龍との練習試合も終わり、俺は風呂から上がって髪の毛を乾かしていた。
 未だに余韻が残っている試合の感想としては……楽しかった!
 その言葉に尽きるな。
 全部で5イニング投げてヒットは三本打たれてしまったんだけど、評判通り塁に出ると隙あらば盗塁を狙って来るというスタイルで、クイックの良い練習にもなったと思う。

 それと少し前に発覚したストレートの時に口角が上がってしまう癖の改善として、常に笑いながらプレーするという案があったが、それを今日の試合で実践したところ――。

『笑うっていうか、アレは完全に冷笑だったけどな。でも良い感じに相手チームへのプレッシャーになるから、是非今後も続けてくれ』

 と、御幸に言われた。
 ……いやいや、冷笑ってなんやねん。
 俺としてはスポーツマンらしく、爽やかな笑顔のつもりだったんだけどなぁ。

 そんな御幸の感想には一言物申したいが、終わった後に白龍の選手達からすこぶる睨まれてしまったので、強ちその指摘も間違ってもいないかもしれない。
 甚だ遺憾ではあるが。

 そして御幸は続いて、『一身にヘイトを集める事になるだろうけど、南雲なら大丈夫だろ? にっしっし』と笑っていやがったが、まぁその通りではある。
 今日調子良く投げられたから、今後もそのプレイングを止めるつもりはないからね。
 これの方が楽だったし。

 一方で御幸はバッティングでかなり存在感をアピールしていた。
 4打席3安打、2打点1ホームランと少々出来過ぎな成績である。
 本人的にもこれには満足できる内容だったようで、試合が終わったあといつもより上機嫌になっていたな。

 倉持の出番は残念ながら無かったけど、試合は明日もあるからきっとそっちで出るんだと思う。
 もしかしたら俺も代打とかで出れるかもしれない。
 ただ、流石に時期が時期だし、ピッチャーとしてマウンドに立つつもりはないよ。
 そもそも俺が出たいと言った所で、監督が出してはくれないだろうしね。

「おっと、そろそろ時間だな。早く食堂に行かないと」

 風呂場の脱衣所にある時計で時間を確認し、予定の時刻まであまり余裕が無かったのでパパッと部屋着に着替えて移動する。
 今から今日の試合の録画を観ながら、クリス先輩たちと反省会をする事になっているんだ。
 こういうのは出来るだけその日のうちにした方がわかりやすいから、疲れているからと言って疎かには出来ない。

 風呂上がりのまま食堂に行くと、既にクリス先輩と御幸、そして何故か倉持の姿まであった。

「なんで倉持が居るんだ? いや、別に悪い意味じゃなくてさ」

「俺はクリス先輩に誘ってもらったんだよ。先輩の解説はわかりやすくて勉強になるし、野手の俺でも聞いておいて損は無いからな」

「ふーん、まぁ多い方が賑やかで良いけど。あれ、でも丹波さんが居なくないか? 同じ試合で登板したんだし、一緒にやった方が効率的なんじゃ……」

 俺はてっきり一緒にするもんだと思っていたんだけど、今日リリーフとしてマウンドに上がった丹波さんが居なかった。
 あの人は来ないのか?
 倉持が言ったようにクリス先輩の解説は為になるから、投手としては絶対に聞いておいた方が良いと思うんだけど。

「あー、丹波は、な。これとは別に後で俺がやっておく。ほら、どうやら御幸との相性は最悪のようだから。あいつの性格的にも、今はあまり波風立てたくないんだ」

 クリス先輩は少し言いずらそうにそう言った。
 御幸と丹波先輩、ねぇ。
 そういえば、一軍の投手と捕手だから接する機会は多い筈なのに、この二人が仲良く話している所は見たことないな。

「あ、もしかして試合中にマウンドで話し込んでた時、実は揉めてたり……?」

 俺が御幸の方に視線を向けると、御幸がスッと目を逸らした。
 ビンゴかよ。
 おいおい、先輩を相手にして揉め事を起こすんじゃない。
 それも試合中とか、監督にブチギレられて即交代させられていてもおかしくなかったぞ。

「ヒャハハ! やっぱり御幸はそうじゃなきゃな。見ている分には面白いからもっとやってくれ」

 倉持が笑いながらバシバシ御幸の肩を叩くと、御幸はあからさまに嫌そうな顔を浮かべた。
 まぁ、意見のぶつかり合いなんて珍しいことでもないから、俺的にはどんどんやっても良いとは思うけどね。
 試合中は論外だけどさ。

「……それだけじゃないんだがな」

「え? クリス先輩、何か言いました?」

「いや、なんでもない。それよりも話は変わるが、そろそろ期末試験があるぞ。そこで赤点なんて取れば追試が受かるまで練習に参加できないし、下手をすれば大会にも出られん。毎年何人かは危ない奴がいるんだが、お前たちは大丈夫か?」

 あー、テストか。
 忘れてた。
 マジで面倒だな。

 でも俺は中学の頃の貯金で何とか出来そうだから問題は無さそう。
 というか、前日にサラッと教科書でも読み直せばそれなりの点数が取れると思う。
 偶に起きて聞いている授業も、そこまで難解なものじゃなかったし。

「んー、俺は大丈夫そうっすね。どの教科もたぶん八十点くらいは取れると思います」

「俺も赤点の心配は無いです。あんまり勉強とかは出来てないけど、それでも平均よりは良い点が取れると思いますよ。南雲みたいに高得点とはいかないですけど」

「そうか、なら良い。倉持はどうだ?」

 俺と御幸が淀みなくそう答える中、倉持はスッと視線を落とした。
 うん、こいつは見た目通り頭の中までヤンキーだからな。
 推薦が無かったら青道に入れなかったと断言できるくらいには頭が悪く、たしか中間テストではクラスでワーストスリーに入っていた筈だ。
 これは悪い意味で見た目通りと言える。

「……たぶん大丈夫です」

「クリス先輩クリス先輩、実はこいつ全然大丈夫じゃないですよ。ほぼ間違いなく追試決定です」

「あっ、南雲テメェ! 余計なこと言うんじゃねぇよ!」

 どうやら倉持にとって最大の壁は期末テストのようだった。
 赤点で大会に出られませんとか、笑い話にもならないぜ?
 そうなったらめっちゃ笑ってやるけどさ。

 

   

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