ダイジョーブじゃない手術を受けた俺48

 机の上に広がる数枚の紙切れ。
 今日、全てのテストの結果が返って来たんだが、上から下までビッシリ解答欄が埋まっているそれらには全て、俺の名前と大量の赤丸が書かれている。

 89、92、85、88……。
 
 当然、俺は想定通りの点数を取ることが出来ていて、赤点なんて余裕で回避している。
 それどころか、パッと見た限りでは周りのクラスメイトの中で俺以上の点数の奴はいないし、もしかすると学年の順位もそこそこ良かったりするのかもしれない。
 この調子なら次回のテストも問題なく突破できるかな。

「すっげぇ。なんだよ、その答案用紙。気持ちいいぐらい丸ばっかで、こんなテスト見たことないぞ?」

 すると、俺の答案用紙を見た倉持が驚いたようにそう言ってきた。

「んー? まぁ、テストなんてこんなもんだろ。暗記さえすれば、満点はともかく高得点は余裕で取れる内容だったし」

「俺も言ってみたい、そんな言葉……」

 今回のテストは全体的に応用問題が比較的少なかった。
 だから、教科書とかを記憶していればかなりの高得点が取れるような内容だったのだ。
 生徒に優しいテストとも言える。
 そして、これなら倉持でも案外良い点数を取ったりするんじゃないかと思っていた。

 思って、いた。

「……うわぁ。こんなギリギリの点数、狙って出来るもんじゃないぞ?」

「おい、勝手に見んな!」

 倉持が持っていた答案用紙を掠め取って見てみると、一応赤点は無いみたいだが、まあひどい結果だった。
 ウチの高校は平均点の半分以下の点数が赤点とされていて、そして倉持の点数はそのギリギリのラインを狙い澄ましたかのように潜り抜けている。
 中にはあと一点低ければ赤点のテストもあり、運が良いと言えばいいのか、あまりにも馬鹿過ぎると貶せばいいのか微妙なところだ。

「交換してあげたくなるくらい残念なテストだ。よしっ、倉持にはこれをやろう」

 あまりにも平均点が低すぎて可哀想になったので、俺の中で一番点数が高いやつを倉持に渡してやった。

「いらんって、この英語のテスト満点じゃねぇか!? 一体いつ勉強してたんだよ、この裏切り者めー!」

「そりゃあ高島先生の授業だけ毎回ちゃんと起きてたからな。満点くらい取れんだろ」

「……お前は今、全国の高校生を敵に回したぞ。まずは俺が天誅を下してやる!」

 倉持はなぜか一人で怒り始め、俺にプロレス技をかけようと掴みかかってきた。
 しかし、残念ながら柔軟性と強靭さを兼ね備えた俺の体にはそんなチンケな攻撃を効かない。
 人が親切で交換してあげたのに、まったく失礼な奴だ。

 ま、こんな紙切れを交換したところでお互いの成績が入れ替わることもないんだけどね。
 倉持の攻撃を軽くあしらいながら御幸の方に視線を向ける。

「それよりも御幸はどうだったんだよ。ちゃんと赤点は回避したんだよな?」

 倉持の場合は赤点だったとしてもまだ笑えるけど、現状で俺の球を満足に捕球できる唯一のキャッチャーである御幸は洒落にならない。
 まさかとは思うがやらかしてたりしないよな?

「ああ、当然だろ。倉持と違って赤点ギリギリじゃなく、どれも平気点よりは高いな」

 ほっ、どうやら杞憂だったみたいだ。
 無事に全員乗り切れたみたいで良かった良かった。

「お、お前も敵だぁーー!!」

「俺もかよ!?」

 俺に効果が無いと分かった倉持は今度は御幸に突っかかりに行った。
 本当に騒がしい奴らである。
 俺までこいつらの同類扱いされるとかなわないから、じゃれ合っている二人は放っておいて夏川の所に避難した。

 

 ◆◆◆

 

 テストの結果が返ってきた日の放課後、俺たち野球部員は全員グラウンドに集められた。
 これから監督が背番号を渡していくらしい。
 一軍選手はみんな緊張した面持ちでその時を待っており、俺も同じように心臓がバクバクと鼓動している。

 待ち望んでいた瞬間がようやくやってきたな。
 俺は入部したときに宣言した通り、エースとして全国へ殴り込みに行くつもりだ。
 この日までに監督に出来る限りのアピールはやってきた。
 直接監督の所へ『エースナンバーを俺にください!』って直談判しに行った日もあったっけ。

「知っての通りあと数日で大会が始まる。泣いても笑っても、一度負ければそこで終わりだ。わかっているとは思うが、例え相手がどんなチームでも全力で戦え」

 ただ、関東大会やここ最近の練習試合で俺は投手の中でも一番結果を残している自信はあるが、それでも一年生にエースナンバーを渡すというのはかなり珍しい。
 俺が受け取れる可能性は半々って所だろう。

 上級生と比べて精神的に未熟な一年は、周囲からの期待によるプレッシャーで潰れてしまったりするから、チームの要となるエースを任せるには一般的に早いとされているんだ。
 特に夏の大会だと、ついこの前まで中学生だった奴にエース番号を渡す事になり、ギャンブルと言われてもおかしくはない。
 この辺りは監督やチームの状況によって違ってくるから何とも言えん。

 だが、それでも俺は背中に1番を背負って投げたいと思っている。

「ではこれより、背番号を渡していく。呼ばれた者から取りに来い」

 だってカッコいいだろ?
 エースってさ。
 マウンドで敵チームをねじ伏せ、味方チームを鼓舞していく存在。

 俺が目指す理由なんて、それで十分なんだよ。

 

 

「背番号1番――南雲 太陽」

 

   

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