一番最初に俺の名前が呼ばれると、部員たちの間で少なくないどよめきが起こった。
無理もない。
関東大会でエースナンバーを背負っていた三年の佐藤先輩を差し置いて、一年の俺がこの番号を付けるとなれば、大なり小なり思う所があって当然だ。
それが入部してからずっと一緒にやってきた三年生であれば尚更だろうし、単純に俺で大丈夫なのかと思っている人もいるだろう。
だが、そんな事はどうでもいい。
元からすんなり認められるとは思っていないのだから、自分の実力で黙らせてやればそれで全て解決だ。
むしろその方が燃えるな。
「どうした、早く取りに来い」
「はい!」
慌てて前に出て監督から『1』と書かれた背番号を受け取ると、重さなんてほとんど無い筈なのにズッシリと腕にのし掛かって来るような感じがした。
心地良い重さだ。
これを付けていれば俺はもっと上に行ける、そんな気がする。
「その番号を託された意味、わかっているな?」
「もちろん」
「なら良い。俺はお前がこのチームのエースに相応しいと思ったからこそ、それを渡すことにした。だが、だからといって全てを一人で背負う必要はない。周りの仲間を頼ってその役目を果たせ。いいな?」
「うっす、わかりました!」
片岡監督もかつてはチームのエースとしてこの番号を背負っていた人だ。
だからこそ、その重みを理解しているのだろう。
周りを頼れと言ったのは、監督自身の経験からのアドバイスなのかもしれない。
でも安心して欲しい。
俺は一人で勝てるなんて思っていないし、ちゃんとウチのチームメイトを頼りにしているからさ。
一人で抱え込んで自滅とか、そんな事にはならない。
勝っても負けてもそれはチーム全体で受け止める結果だ。
自分のおかげで勝ったとか、自分の所為で負けたとか、そんな風に自惚れてはいないよ。
……まぁ、中学三年の時の大会前は思いっきり一人で背負い込んでいたんだけどね。
「次、背番号『2』番――御幸 一也」
「っ、はい!」
おっ、御幸もちゃんと正捕手のポジションを勝ち取ったみたいだな。
クリス先輩が万全の状態であれば、少なくともこの夏で御幸がスタメンに選ばれるのは難しかっただろうが、やはり現状では御幸が頭一つ抜けていた。
俺としてもバッテリー組んでいて一番投げやすい相手。
クリス先輩比べると……いや、今は比べる必要なんてないか。
友人がスタメンに選ばれたことを素直に喜ぼう。
そしてその後も背番号が発表されていったが、特に大番狂わせみたいなのもなく普通に終わった。
スタメンは関東大会から変わっていないし、面白かったのは倉持が『20』の番号を貰えてホッとしていたくらい。
「そんなに周りを威嚇しなくても、誰も取りゃしないから」
「後になってやっぱり返せとか言われるかもしれねぇだろ?」
「言われるかい」
赤点ギリギリだったから、土壇場でベンチから外されるかもとか考えてたのかね?
そんな握り締めなくったって誰も取りゃしないよ。
ある意味で平常運転の倉持に呆れていると、全員に背番号を配り終えた監督は一度選手たちを見渡した。
そしてゆっくりと口を開く。
「俺はこのメンバーなら全国を制することも可能だと、そう思っている」
監督がそう言うと周りからゴクリと息を呑む音が聞こえてくる。
全国、か。
甲子園という舞台から長らく離れていた青道高校にとって、それは喉から手が出るくらいに欲しい切符だ。
俺たちの中には甲子園を経験している人はいないし、ましてや並み居る強豪たちを倒して自分たちが一番になるなど誰も思っていないだろう。
俺たち以外は、な。
「やるべき事は全てやった。後は試合で全てを出し尽くすだけだ。どんな状況でも諦めらめずに戦い、そして――勝つぞ!」
『はいっっ!』
夏の日差しがジリジリと照りかかる中、おそらく今の俺たちはそれよりも熱くなっていた。
こういう熱い展開は嫌いじゃない。
自然と口角が上がってしまう。
「御幸、やっぱ青道って良いチームだな。ここを選んでよかったぜ」
「あぁ、そうだな」
隣にいる御幸も俺と同じように笑っていた。
◆◆◆
むふふ、何度見ても顔がニヤケてしまうなー。
試合用のユニフォームに縫い付けられた『1』の数字を、俺はさっきからずっと飽きもせず眺めていた。
別に他の番号を渡されたからって試合で手を抜くとかはあり得ないけど、それでもこれを託されたんだと思うと気合が入る。
「おい南雲。嬉しいのはもう十分わかったから、浮かれるのもそのへんにしておけ。明日も朝が早いんだしな」
クリス先輩に注意されてしまった。
確かにそろそろ寝る時間だ。
スポーツマンとしてはしっかり休む事だってトレーニングのひとつなのだし、今日はもうこの辺にしておくか。
ちなみに、意外と早寝早起きのクマさんはもう寝ている。
「あ、そうだ。クリス先輩に聞きたいことがあったんです。寝る前に聞いても良いですか?」
「……それを聞いたら寝るんだぞ。それでなんだ、言ってみろ」
「――俺って、全国でも通用すると思いますか?」