ダイジョーブじゃない手術を受けた俺58

 打席に入った俺はバットを構えて相手ピッチャーを見据える。
 ポーカーフェイスで隠してはいるが、やはりさっきの打席は結構体力を削られているようで、少しだけ息が上がっているように見えた。

 そりゃそうか。
 粘ってくるバッターってのはめんどくさい。
 もしもこれで出塁でもされてれば、精神的にかなり辛かったろうさ。

 とにかく、今が狙い目だな。
 もちろん俺は疲弊しているからと言って遠慮してやるつもりは毛頭ない。
 息を整えさせてやる時間を与えずに、初球からぶっ叩いてスタンドに放り込んでやる。

 ここであのピッチャーをノックダウンして、成宮を引きずり出してやるよ。
 俺はあいつと投げ合ってみたい。
 そして、成宮 鳴を俺が成長する為の糧にする。
 あいつと競い合えばもっと強くなれるような、そんな気がするんだ。

『両チームのエース対決、果たしてどちらに軍配が上がるのでしょうか。稲白実業側としてはここでしっかりと南雲選手を打ち取り、チームに流れを呼び込みたいところです!』

 観衆が見守る中、エースからボールが放たれた。
 インコース低めの直球。
 決して甘い球ではなく、初球だから見逃すというのも悪くはない。

 だが――。

 ブォンッッッッッ!!

「チッ、思ったよりも手元で伸びるな」

 自分が出来る最高のスイングを振るったが、想定していたよりも相手の投げる球が上だったみたいだ。
 その結果、豪快な空振りを晒してしまったぜ。
 恥ずかしい。
 さっさと修正して次こそはかっ飛ばすとしよう。

『空気を切り裂くような力強いスイング! バッテリー、これは一瞬たりとも気が抜けません!』

 今ので少しくらい萎縮してくれれば最高なんだけど……まぁ、無理だろうね。
 どんな凄いスイングをしたところで、ボールに当たらなければ意味がない。

「そっちのいま投げているエースと成宮って、どっちの方が上なんですか?」

「……さぁな」

 俺が急に話しかけたからか、キャッチャーの人……原田さんは少し間を置いてからそう答えた。

「動画で見た限り、俺は成宮の方が若干上だと思ってます。将来性を考えれば断然に成宮でしょう」

「何が言いたい?」

「あはは、別に何も。ただ――」

 あんまり悠長にやってると、手遅れになっちゃうかもしれませんよ?

 放たれた硬球を金属バットの芯で捉え、そこからレフト方向へと思いっきり力強く引っ張った。
 快音が響き、高速でボールが飛んで行く。
 手応えは十分。
 はるか上空に打ち上がった打球は速度を緩めることなくそのまま――惜しくもファールゾーンへと切れていった。

『ふ、ファールです! あわやホームランという打球でしたが、僅かに左へと切れていきファールとなりました。これには稲実ベンチもヒヤリとしたことでしょう』

 うーむ、振るタイミングが少し早すぎたか。
 せっかく芯で捉えたんだけど、気が逸り過ぎてボールを待ち切れなかったみたいだな。
 もう少しでホームランだったのに惜しい事をした。
 さっきの場面でチェンジアップとかを投げられていたら、俺は先ほどと同様に無様な姿を晒していただろう。

「今の球ってスライダーですよね? 実は俺もスライダーを投げれるんですけど、さっきの回ではまだ投げていないんですよ。次の回、原田さんの打席で試してもいいですかね」

「勝手にしてくれ」

 その声の調子には焦りや緊張はなかった。
 ふむ、どうやら原田さんはこれでも慌てていないらしい。
 もう少し横にずれていればツーランホームランだったんだから、ちょっとは動揺してくれても良いのに。

 まぁいいや。
 ともかく、これでカウントはツーストライク。
 結果だけを見ればたった2球で追い込まれてしまったことになる。
 さて、稲実バッテリーが投げる次の球は外してくるのか、それとも勝負してくるか。
 一体どっちだろうな。

 個人的には早く噂のフォークが見てみたいところだ。
 決め球なんだろ?
 だったら投げてみろよ。
 フォーク来い、フォーク来いと、心の中で念じ続ける。

 そしてピリついたこの空気の中、腕をしならせて三球目の球が放たれた。
 ここで投げてきたのはやはり……決め球である手元でカクンッと鋭く落ちるフォーク。
 狙い通りの球が来たとわかった俺はニヤリと笑う。

 今度のタイミングはバッチリドンピシャだ。
 それを確信して迷いなくバットを振りぬき、心地良い快音を響かせる――ことなく、ボールはコロコロとサード方向へと転がっていった。

『打球はボテボテの当たり……いや、これは面白い所に転がったぞ!?』

 あちゃー、思いっきり打ち損じちゃったか。
 フォークが凄いって話だったから身構え過ぎて、バットの芯からだいぶ外れた箇所にボールが当たってしまったようだ。

 でもまぁ、これなら全力で走れば間に合う……かな?

「っ、セカンドはもう間に合わない! ファーストだ!」

「この当たりならそんなに慌てなくても大丈夫……って、なんでもうそんな所にいるんだよ!?」

 視界の端で慌てて捕球しようと一歩目を踏み出したサードの姿が見えた。
 もう遅いよ。
 意識的になのか無意識なのかはわからないけど、二球目の当たりを見て内野も外野も守備の定位置が通常よりも後ろ寄りになっていた。

 ははは、俺相手に警戒しすぎだって。
 そんなに打率は良くないのにね、俺。
 ただ、倉持に負けているとはいえ青道で三番目に速い足の持ち主ではある。
 そんなにチンタラしていたらアウトにされるわけない。

 ボールが前に転がった瞬間に走り出していた俺は、一塁ベースに向かって一直線に駆け抜けたのだった。

 

   

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