ダイジョーブじゃない手術を受けた俺70

「……本当にもう大丈夫なのか?」

 そう言って俺の頭をこねくり回しているのはクリス先輩だ。
 練習着に着替えてグラウンドに顔を出すと、俺を見つけた先輩が真っ先にすっ飛んできた。
 そして、半ば強制的に座らされてから身体検査を受けているという状況である。

「だから大丈夫ですって。病院の検査でも何一つ異常は無かったし、見ての通りピンピンしてますよ。何なら休みすぎて元気が有り余ってるくらいです」

 本当に身体にダメージは残っていない。
 強いて言えば、運動していなかったから体力が多少落ちているくらいだ。
 このくらいならすぐに遅れを取り戻せるし、その為にも早く通常通りの練習をさせて欲しいんだけど。
 医者にも健康体だと太鼓判を押されているしね。

「にわかには信じられない回復力だな……。硬球をもろに頭に食らって、何も異常が無いのはむしろ異常だろう。そっち方面でもう一度検査した方が良いんじゃないか」

「そんな無茶苦茶な。元気なもんは元気なんだからしょうがないっすよ。 先輩もさっさと認めて、俺にピッチングさせてください。聞きましたよ? また俺にピッチング禁止令を出したって」

「それについては片岡監督に言ってくれ。今のお前を見た限り俺は大丈夫だと思うが、最終的な判断を下すのは監督だからな。俺はリハビリ用のメニューを考えただけだ。幸いというか、俺が通っているリハビリ施設のトレーナーにもいくつか助言を貰えてな。中々良い練習メニューが組めたんだぞ」

 無駄になったみたいだがな、とクリス先輩は苦笑した。

「あはは……でもまぁ、全くの無駄って訳じゃないですよ。監督のことだから少なくとも一週間くらいは普通の練習をさせてくれないでしょうし。俺としては残念ですけど」

「監督は選手のことを第一に考えてくれてるんだ。少しくらいは我慢しろ」

「はーい。ま、こればっかりは仕方ないですよね」

 せっかくクリス先輩がメニューを組んでくれたんなら、数日くらいはそれをやってみるのも悪くない。
 リハビリメニューとは言っても無駄にはならないだろうから。
 それに、勝手にボールを触ったら次の大会に出さないって脅されてもいるしね。

 先輩は夏の大会が始まる前から肘の怪我で戦線を離脱している。
 今もこうして部活に顔を出してくれているが、怪我のリハビリがあるからこっちに来れる頻度はそこまで高くない。
 今日だって俺が退院するから来てくれたみたいだし。

「俺のことよりもクリス先輩の怪我の方はどうなんです? 怪我に焦りは禁物ですけど、そろそろ経過くらいは聞いておきたいですよ」

「こっちも順調だ。まだ復帰するには早過ぎるが、それでもこのまま終わるつもりは無い。……お前はこっちに来るなよ。俺が言えたもんじゃないが、もしも身体に違和感があればすぐに言うんだぞ?」

「……うっす」

 クリス先輩のその言葉が、妙に俺の胸に刺さった。
 きっと全く関係が無いという話ではないからだろう。
 怪我で野球が出来なくなるのは俺にだって十分起こり得ることで、今回だって下手をすればそうなっていてもおかしくなかった。

 頭に気を失うくらいの威力のデッドボールを受けたら、何らかの後遺症が残ってしまうのもあり得なくはない。
 運が良かったよ、本当に。
 こうしてすぐに動けるようになったんだから。

「あ、そうだ。他の二年生の様子はどうですか?」

 話題を変えようと俺がそのことを尋ねると、クリス先輩の顔が曇った。
 それだけでもチームの状態があまり良いものじゃないという事がわかる。

「正直よくはないな。特に、お前の代わりにマウンドに上がった丹波が、な」

 うーん、やっぱり丹波さんはまだ立ち直れていないか。
 そうじゃないかとは思っていたけど、ここまで落ち込んでいるとなるとちょっと気になる。

「ま、チームの事は先輩達に任せますよ。ウチには頼りになる人達が多いですから。俺は自分のことに専念させてもらいます」

 ただ、冷たいからもしれないけど今は他の人の心配をしている余裕は、無い。
 今回の負けが悔しいのは俺も同じだし、さっさと遅れを取り戻してピッチャーとしてもっと強くなる必要があるからな。
 ここは先輩達に任せても大丈夫だろう。
 むしろ、俺が変に出張っていくよりも上手くいくまである。

 だから丹波さんのことはクリス先輩や他の先輩たちに任せるとしよう。
 きっと悪いことにはならないさ。
 少なくとも、年下の俺たちが口を出すよりも良いだろう。

「フッ、勿論だ。三年生が引退してチームが新しなるっていうのに、いつまでも俺たち二年が敗戦を引きずっている訳にもいかないからな。それに、お前たち一年には負けていられない」

「たち?」

「ああ。お前と御幸、そして倉持だよ。南雲が居ない間のあいつらは無駄に元気でな。誰よりも練習に打ち込んでいるよ。それを見て影響を受けている選手も少なくないだろう。本当に頼もしい後輩たちだ、お前らは」

 おっ、やるじゃんアイツら。
 俺のお見舞いに来た時は死人みたいな顔をしてたけど、それからはいつもの調子を取り戻したらしいな。
 流石は俺の友人達だ。
 こっちも負けていられない。

「それじゃあ、さっそく俺も始めるとしますか」

「始める? 一応聞いておくが、一体何をだ?」

「決まってるじゃないですか。クリス先輩が考えてくれたリハビリメニューですよ。ちゃちゃっとこなして、早くピッチングしたいんで」

 そして、一日でも早く稲実に借りを返してやるんだ。
 待っとけ稲実!
 今度こそ俺たちが完膚なきまでに叩き潰してやるからな!

 

   

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