秋季大会はまず東西24ブロックに分かれてトーナメントを行い、各ブロックの上位2校だけが本大会へと進出する事ができる仕組みだ。
トーナメントの組み合わせは抽選なので予選から強豪校と当たる可能性もゼロではない。
だから本大会へ出場する為の予選とはいえ、決して油断は出来ないだろう。
相手がどこの高校だろうと全力で叩き潰し、コールドで試合を決めるくらいの気持ちでいる必要がある。
この辺りは夏と一緒だね。
もっとも、最近の練習試合でのウチの雰囲気を見た感じでは、よほど良い投手がいるチームでない限りは問題ないと思う。
三年生が引退して大幅に打撃力が下がったともっぱらの評判だったのだが、大会で暴れている所を見ればすぐにそんな戯言を言う人は誰も居なくなる筈だ。
そのくらい凄い打線だよ、ウチは。
そして、その予選トーナメントで勝ち抜き、本大会でも優勝したチームはセンバツへの出場権を得る事ができる。
センバツは『春の甲子園』とも呼ばれており、高校野球では夏の甲子園と並ぶ一大イベントだ。
当然だがそこで優勝すれば名実ともに青道が日本一となる。
一体それまでにどれだけ多くのチームと試合が出来るのか、今から非常に楽しみだ。
試合で思う存分投げる為にも、今から練習を頑張ろうと思う。
そろそろ予選の初日が近いらしいからな。
今から徐々に調整に入っていかないと、万全の状態で試合に臨むことが出来なくなってしまう。
あ、万全と言えばつい先日習得したばかりのスプリットだが、試合をこなしながら少しずつ完成度を高めていくことになりそうだ。
スプリットばかり練習してはいられないし、あれはそもそもそこまで多くの球数が投げられるものじゃない。
焦らずに一歩ずつ磨いていくつもりである。
「――おい南雲。ちゃんと聞いてるか?」
「んあ?」
と、俺がそうして意気込んでいると御幸がそう聞いて来た。
「だーかーらー、これからミーティングやるらしいから早く準備しろって。もたもたしてると先に行っちまうぞ」
「ミーティング?」
「おまっ、何も聞いてねーのかよ。これから監督がミーティングを開くんだ。だから一軍選手は全員食堂に集合だって、さっきクリスさんが伝えに来てくれただろうが」
「あー、そういえばそんなこと言ってたなぁ」
呆れたように言ってきた御幸の言葉でようやく思い出す。
クリス先輩が監督からの伝言だと、つい十分くらい前にそう伝えに来てくれたのだ。
秋大のことを考えていたらすっかり忘れてた。
俺は自分の世界に入り込むと結構色んなことを忘れちゃう癖があるんだよな。
「にしても、今からミーティングをするってのは何事だ? こんな急に集められるなんて初めてじゃないか? いつもなら試合の直前とかにするはずだけど」
「ああ、それは秋大の予選の組み合わせがついさっき発表されたからだと思う」
へぇ?
試合前なれば相手チームの分析を兼ねて話し合いが開かれるんだが、予選が始まるまで後10日くらいはある。
それを考えればミーティングするには少し早すぎるし、わざわざ今しなくても良さそうなものだ。
もしかすると予選の相手がかなりの強敵、とかかもしれん。
「ふーん。予選の組み合わせ、ね。だとしたらよっぽど強い高校と当たったのかもしれないな」
「……まぁな」
すると、どういうわけかそんな歯切れの悪い返事が返ってきた。
「なんだよ御幸。何か知ってるのか?」
「……俺たちのブロックに稲実がいるらしい」
「え?」
「しかも当たるのは第一試合で、これに負ければ泣いても笑ってもウチは初戦敗退っていう最悪の事態になるんだ。これから行われる緊急ミーティングも、たぶん俺たちに気合を入れさせる為のものだろう」
「マジで?」
「ああ、マジだ」
稲城実業高校。
忘れる筈もない……ついこの間の大会で俺たちが敗れた因縁に相手だ。
ちょっとしたハプニングで俺が退場してしまったが、過程はどうあれ結果的に負けていればそんな事は言い訳にしかならない。
次は勝つ、そう心に決めていたんだけど、まさかこんなに早く借りを返す機会がやって来るとはね。
こればかりは哲さんのくじ運に感謝するしかない。
だって初っ端からリベンジができるんだぜ?
幸運以外の何物でもないだろう。
普通に考えればトーナメント戦はできるだけ強豪と当たらずにどれだけ投手を温存していくかがカギになるんだけど、個人的にはこの組み合わせは最高に嬉しいものだった。
と、そう考える俺とは対照的に御幸の表情は暗い。
「150校もあるのに初戦から稲実と当たるなんて最悪だよな……。マジでついてねぇ」
「最高の間違いだろ?」
「は?」
「この間の借りを返せるんだ。今度こそ叩き潰してやろうじゃんか。もう二度と、ウチは負けない。予選だろうが決勝だろうが、稲実とはどうせどこかで当たるんだから早めに倒しても変わらねぇよ。むしろ、勢い付く前に叩けると思えば悪くない」
とまぁ、かっこつけてみたがこれは半分建前でもある。
俺は単純に強いチームと戦えることが嬉しくて仕方ないのだ。
ウチを負かすくらい強いチームとこんなにも早く再び戦える。
これ以上の幸運はない。
首を洗って待ってろよ稲実、そして成宮。
俺たちはどんどん強くなっているからな!