ダイジョーブじゃない手術を受けた俺87

 ――秋季大会予選当日。

 あれから俺たちは試合に向けて日々の練習を着実にこなしていった。
 こっちの準備はバッチリで、皆んな夏の借りを返すんだとばかりに張り切っている。
 稲実と初戦から当たると聞いて多少気後れしていた人も居たが、今となっては本当の意味でチームが一丸となる良いきっかけになったと考える選手も多い。

「南雲―、見てくれよこのメンバー表を。オレの名前が一番上に書いてあるぜ?」

「それは何回も見たっての。そもそも練習試合の時だってお前が一番バッターだったじゃねぇか」

「練習試合と公式戦じゃあ感動が段違いなんだよ」

 これから試合なのに倉持は少し浮かれ気味だ。
 ま、その気持ちはわからんでもない。
 流石にいざ試合が始まれば自分で気を引き締めるだろうからこのままでも別に良いか。

 新チームになった青道のスタメンは当然だけど結構様変わりし、見ての通りこれまでベンチだった倉持が見事にレギュラーの座を勝ち取っている。
 こいつは守備も上手いし足も速い。
 その上、夏の大会では代打で結果を残してきたのだから納得の采配だと思う。
 是非とも一番バッターとして相手チームをかき乱して欲しい所だ。

 その次の打者はセカンドの小湊先輩。
 この人は元々なぜ下位打線を打っているのか不思議なくらい出塁率と得点率が高く、新チームを機に一気に上位打線へと昇格してきた。
 青道の打撃力を陰で支えているのは間違いなくこの人である。

 三番バッターは御幸で、四番バッターは哲さんだ。
 ま、この二人に関しては妥当な打順かな。
 御幸は塁にランナーがいればボコボコヒットを連発するし、哲さんはむしろ四番以外なんてあり得ないだろう。

 五番バッターは夏の打順から一つ繰り上がった俺が務める。
 正直に言うと俺は打率自体はそこまで良くはないんだけど、長打力を期待されているのかこの打順に置いてもらえた。
 だからその期待にはしっかり応えるつもりだ。
 とりあえず一試合に一本はホームランを打つことを目標にしようと思っている。

 続いて俺の後ろにはセンターの伊佐敷先輩で、七番サードにはこの秋大からレギュラーに昇格した増子先輩、八番レフトは同じく控え選手から昇格した坂井という人がそれぞれのポジションを勝ち取った。
 そして最後に、ライトには俺たちと同じ一年の白州が上がってきている。

「白州、初めての公式戦でのスタメンだけど、緊張とかしてないか?」

「今のところ大丈夫だ。緊張よりもこんな大事な試合に出られるという楽しみの方が強い。ライトの守備は俺に任せてくれ」

「ははは、それだけ言えれば十分だ。頼んだよ」

 白州は無口なやつだけど、自分の仕事はしっかりとこなしてくれる男だから頼もしい。
 度胸と技術も十分にあるし、ライトの守備は今後しばらくは変わることはないかもしれないな。
 
 とまぁ、スタメンの面子はそんな感じだ。
 このメンバーで今度こそ勝ってみせる。
 そして全国に行き、日本一の称号をもぎ取ってやるんだ。
 
 俺がそんな風に意気込んでいると、隣で稲実のメンバー表を確認していた御幸が気の抜けた声を出した。

「あれ? 稲実のスタメンに鳴の名前無いぞ?」

「……は? 今なんて?」

 俄かには信じられない言葉が聞こえて来た。
 俺がこれだけ楽しみにしていたのに、成宮の名前がスタメン表の中に入っていないとか言うんだ。
 まったく、そんな筈ないだろうに。
 俺たちを相手に稲実がそんな余裕を見せるような舐めた真似する訳ないっての。

「だってほら、これ見てみろよ」

「……貸せ」

 御幸に差し出された紙切れを見てみる。

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 1 センター カルロス
 2 ショート 白河
 3 サード 吉沢
 4 キャッチャー 原田
 5 ファースト 山岡
 6 セカンド 平井
 7 レフト 筒香
 8 ライト 冨士川
 9 ピッチャー 井口

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「……成宮が控え、だと?」

 上から順に確認していくが、何度メンバー表を見てもそこには成宮の名前は載っていなかった。
 代わりに入っているのは井口という投手。
 甲子園で登板している時の録画を見たから、彼がどの程度の球投げるのかは知っている。
 知っているからこそ成宮が出てこないのはおかしい。

「これはあれか? ウチが舐められてるのか?」

 はっきり言おう。
 井口って人では青道打線を抑えることは絶対に出来ないと断言できる。
 自惚れとかではなく、今の青道とまともな勝負をしようと思えばエースである成宮を出してくるしかないんだ。

 それなのにエースを温存する?
 はっ、随分と舐めてくれるじゃんか。
 俺は青道の新たな柱にこの事実を伝えてやる。

「哲さん、あいつら夏の大会で俺たちに勝ったからって、こっちの事を舐めてるみたいっすよ」

「……ふむ、どうやらそのようだな。まぁ、油断してくれるのならそれでも良い。気に食わないのは間違いないが、これで俺たちの勝ちがグッと近付いたのだから」

 そんな言葉とは裏腹に哲さんはメラメラと闘志を燃やしている。
 きっと俺と同じで稲実の采配に納得がいかないのだろう。
 こっちが必死こいて今日の為に万全の状態に持って来ているのに、向こうが俺たちの事を眼中に無いみたいな態度を取っているんだから当然だ。

 あぁ、これはちょっとムカつく。
 リベンジマッチなんだから全力で来いよ。
 さっさと本気出さないと一瞬で終わっちまうぞ?

 

   

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