ダイジョーブじゃない手術を受けた俺91

 稲実との試合を終えた俺たち青道は、強豪を下した勢いのまま残りの試合もコールドで終わらせ、無事に秋大本戦への出場を決めた。
 二試合目からは登板する機会こそ無かったものの、レフトや代打として試合に出てそれなりに貢献出来たと思う。
 相変わらず実戦でスプリットの練習が出来ていないことを除けば何も問題は無い。

 そして本大会の抽選が行われるのは今から数日後。
 それまでは練習に集中したい所なんだが……どうやらそうもいかないらしい。

「え、俺にインタビューっすか?」

 練習中に監督から呼び出されると、今から急遽インタビューを受けてくれと言われた。

 うーん、インタビューか。
 校長がメディアへのアピールを意識しているらしく、たまにグラウンドへ記者の人を招き入れるんだよな。
 それで何度か取材も受けたりしている。

 インタビューを受けるのは別にそこまで嫌じゃないんだけど、問題は記者の中にタチが悪い人が混じっていること。
 ただでさえ練習を中断して受けているのにそんなしょうもないことで精神を摩耗させたくはない。
 だからインタビューと聞いてもあまり良い印象は無かった。

「すまん。俺も大会中だと断ってはいるんだが、校長がどうしてもと言って聞かないんだ。今日は長くとも三十分くらいで切り上げさせる。だから受けてくれないか?」

「別に受けるのはいいんですけど、メンドくさい質問ばっかしてくる人はどうにかなりません? いい加減、進藤さんの事ばかり聞いてくるのは正直鬱陶しいんですよね」

 進藤さんというのは元稲実のエースの人だ。
 俺にデッドボールを投げた人と言った方がわかりやすいかも。
 それでやっぱり色々と聞いてくる人はいる訳で、中には悪意を持ってその質問をしてくる記者も何人かいた。

 あの件に関してはもう完全に和解している。
 彼は俺が入院している時に死ぬほど頭を下げてくれたし、その時責任を取って野球を辞めるとも言ってきた。
 もちろんそれは止めたけどね。
 だからもうあの件については触れないで欲しいと思っている。

 ほら、騒がしいと面倒じゃん?
 こうして当事者たちが既に納得しているのだから、わざわざ火を燃え広げようとするのは大人としてどうなのかと思うよ。
 仕事なのは分かるけどさ。

「わかった。それは先方に事前に伝えておこう。それでも聞いてくるようなら途中で退席しても構わない。……どうだ?」

「あー、そこまでしてくるなら喜んで受けますよ」

 断れそうになさそうだから受けておくか。
 監督もたぶん校長に色々と言われているだろうからね。
 無難に終わらせて、さっさと練習に戻るとしよう。

 あ、その前にお菓子食べて来よっと。

 

 ◆◆◆

 

「こんにちは、南雲君」

「あ、大和田さん」

 記者さんが待っているという部室に行ってみると、そこに居たのは『野球王国』の記者である大和田さんだった。
 彼女とは関東大会の時に初めて会って以来ちょこちょことインタビューを受けている仲だ。
 むさ苦しいおっさん達の中で唯一の紅一点で、一番話しやすい相手でもある。

「今日の記者さんって大和田さんだったんですね。それならそうと早く言ってくれれば良いのに。相手が大和田さんだってわかってれば寄り道せずにもう少し早く来ましたよ」

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。でも良いのかしら? 下手なことを言うと記事にしちゃうかもしれないわよ?」

「大和田さんはそんな事しないって信じてます」

「うっ……その真っ直ぐな目が眩しい!」

 こんな気安いやり取りが出来るから大和田さんとのインタビューは結構楽しい。
 他の人だとこうはいかないからね。
 大抵の人は下手に出てくるか高圧的な態度を取るかのどちらかで、前者はともかく後者だとマジで最悪の一言に尽きる。

 そうして和やかな雰囲気で取材が始まり、いくつか質問を受けた。
 怪我から復帰した今の心境とか、稲実戦の感想、それから今大会への意気込みとかを言葉を選びながら次々と答えていく。
 どう言えば世間受けが良くなるとか大体わかるから楽だよ。

「いつも通り完璧な受け答えね。普段から取材を受ける練習でもしてるのかしら?」

「そんな練習なんてわざわざしませんよ。こうやって何度もやってれば嫌でも上手くなりますって。ただ、記事にする時はちゃんと俺が良く見えるように書いてくださいね」

 最近はアンチが増えると殺害予告とかされちゃうらしいし。

「ホントちゃっかりしてるわ。まぁ、そっちは任せて頂戴。ウチは万人受けするような記事しか基本的に書かないから。それに今の南雲君の人気を考えたら、普通はそんな真似怖くてできないわよ」

「大袈裟な」

「……これが大袈裟とも言い切れないのよね」

「え?」

 大袈裟とも言い切れないって一体どういうことなのか。
 そんな疑問を口にする前に大和田さんは次の質問に移ってしまい、結局最後までそれについては分からずじまいだった。
 ま、どうでもいっか!

 

   

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