月日は流れて10月も半ばに突入した。
秋季大会は本戦の一回戦、二回戦、そして三回戦が既に終了していて、数日後に準々決勝という所まで青道はコマを進めている。
「いやー、ほんと相手に恵まれたよな。予選では初っ端から稲実と当たるブロックを引き当てるもんだから、てっきり哲さんはクジ運が無い人だと思ってたよ。おかげで難なくここまで勝ち進んで来れた。全試合コールドなんて俺たちだけだぜ?」
御幸の言う通り、ウチはここまで順調どころじゃないくらいの勢いでトーナメントを勝ち進んでいた。
この地区以外を含めても、全試合コールドで勝っているチームは他に無いからな。
もちろん強豪校と当たらないブロックを引き当てた哲さんの功績でもあるだろうけど、チームの自力が上がっているということの証明に他ならない。
「ま、簡単に勝てるのは精々ここまでだろ。次の準々決勝の相手は帝東高校。確か甲子園に何度も出場している上に、二度も優勝した経験のある高校だし」
青道がコールド試合を連発しているのは相手チームとの実力差によるものが大きい。
なので、準々決勝の帝東戦ではそう簡単にいくとは考えない方がいいだろう。
無論負けるとは全く思わないが、それでも相手投手の力量次第ではギリギリの接戦もあり得る。
「それで、本音は?」
「監督も流石に俺を先発に選んでくれるだろうし戦うのが今から楽しみだよな!」
「ははは、いつも通りで安心したよ」
相手が強豪だとワクワクする癖は変わっていない。
一体どんな強打者がいるのか、どんな凄い投手がいるのか、考えるだけでも楽しくなってくる。
全国に行けばそういう奴らがゴロゴロいるチームと戦えるのだから最高でしかないよ。
「なぁ二人とも、ちょっとアレを見てみろよ」
「ん?」
「なんだ?」
すると、倉持がグラウンドを指差しながらそう言ってきた。
視線をそちらに向けてみれば、ちょうどクリス先輩がバッティング練習をしている最中のようだ。
快音を響かせながら次々とボールを打ち返しており、あれがつい最近まで怪我をしていた選手だと誰が信じるだろうか。
「絶好調みたいだな、クリス先輩」
クリス先輩は俺との三打席勝負に勝利した事によって、本戦が始まってからは代打や外野手として復帰を果たしている。
OBの声の中には、怪我明けの選手を即ベンチ入れることに対して批判的な意見も多くあったようだが、それらも実際に試合に出た今となっては見事に消え去った。
むしろ英断だったと監督の采配を褒め称えるまであるほどだ。
まぁ、少ない打席でホームランを連発してたらそうなるよな。
「ヒャハハ! 御幸、先輩があの調子だと正捕手の座もそろそろ安泰とは程遠くなってきたみたいだな?」
「安泰だなんて最初から思ってないさ。あの人が凄いのは入学前からわかってた。俺はクリス先輩を越えたくて青道に入ったんだから、今さらあれくらいでは驚かないっての」
と、言いつつも最近の御幸は練習でも試合でも気合の入り方が違う。
内心ではかなり意識している筈だ。
すぐ後ろにまで迫ってくる強力なライバルの存在は良い刺激になるし、無理をしない範囲で実力を伸ばしていって欲しい。
「あ、そういえば俺さ、クリス先輩から大会が終わったらボールを受けさせてくれって頼まれてるんだよな」
「えっ!?」
「この大会中にレギュラーを奪うのは流石に無理だと思ったらしいぜ。だけど大会が終われば、いよいよポジションの争奪戦を本格的に始めるつもるなんだろう。負けないように頑張れよ、御幸」
「ちょっ、それは聞いてないぞ!」
もちろん俺が優先なんだよな? としつこく聞いてくる御幸を適当にあしらいながら、俺たちそれぞれ自分の練習へと戻っていった。
次の対戦相手は強豪の帝東高校。
俺も気を引き締めて臨む必要がありそうだ。
「相棒を見捨てるつもりなのかよ!」
「ヒャハハハ!」
……いくら不安だからって飯の時間まで泣きついてくるんじゃねぇよ。