ダイジョーブじゃない手術を受けた俺111

 青道の攻撃が終わって市大三高の攻撃がまた始まる。
 先ほど監督がクリス先輩を呼んで少し話していたのが気になったが、先輩はまだベンチに引っ込まずにそのまま試合に出場するようだ。
 残念ながらまだ無得点だし、先輩が抜けると得点力が下がってしまうので、身体に異常が無いのなら願ってもない事である。
 市大三高の攻撃を凌いだ次の回はちょうどクリス先輩から。
 ここはドカンと一発大きいのをお願いしたい所だな。

「御幸、そろそろ変化球を出す割合を上げていこう。さっきの回でヒットを打たれているし、もうフォーシームとチェンジアップだけではキツそうだ」

 これまで変化球を全く投げてこなかった訳ではなかったが、それでも球種はほとんどフォーシームで、それを主体にしたピッチングだった。
 それでも多くの三振を奪ってこれたのは、150キロを超える速球と、御幸の構えた所にドンピシャで投げ込む制球力があったからだろう。
 どんな強豪校が相手でも俺の速球はそう簡単には打てないし、数イニングならそれで抑えられる自信がある。

 ただ、5回に入って打順が二巡目も折り返しに差し掛かり、徐々に市大三高の選手たちが俺の速球にタイミングを合わせてきているような気がしていた。
 野球ってのは例え九番バッターでもホームランを打つ事がある以上、意識を散らすという意味でも変化球は重要になってくる。
 ここら辺で相手の心をへし折っておきたい。

「もう少しこのままでも良い気がするが……そうだな。んじゃ、こっからは変化球の割合を少し増やす。ただ、スタミナが危なくなりそうだったら先に言えよ? 一度レフトかライトに下がるっていう方法もあるんだから」

「スタミナにはまだまだ余裕があるから心配すんな。今日はすげぇ調子良いし、肩も軽い。このマウンドだけは絶対に譲らねぇよ」

 この場所を誰かに譲るなんて考えられないな。
 今日の試合だけは丹波先輩やノリには悪いけど俺一人で投げ切りたい。
 何となくだけど、この試合で俺はもう一回り成長出来るような気がするんだ。
 こういう予感は高確率で当たる。
 だから絶対にマウンドを譲るつもりは無かった。

 もしも点を取られたら……その時はその時に考えればいい。
 頼もしいウチのメンバーならきっと何点でも取り返してくれるさ。

「わがままなエース様だこと」

「俺の性格なんて今更だろ? 全部ひっくるめて、俺が満足できるリードを頼むぞ」

「ったく、いつも簡単に言ってくれるよな」

 言葉とは裏腹に御幸は笑いながら定位置に戻っていった。
 口ではあんな事を言ってても、何だかんだ俺が気持ち良く投げられるリードをしてくれている。
 俺の力を全部発揮する為には御幸のリードが必要不可欠だ。
 安心して任せられるのも今は御幸だけである。

「それじゃあいくぞ、っと」

 グローブの中でボールの縫い目と交差する形で指先を合わせ、全身を使って右腕を振り抜いた。

「──ストライクッ!」

 初球は真っ直ぐから。
 内角高めいっぱいに投げ込むと、相手はそれに手を出すことなく見送った。
 続けてカットボール、スライダーと変化球でバットを躱し、簡単にストライクを三つ奪い取る。

「ストライクッ! バッターアウト!」

 指先の感覚がいつもより鋭くなっている気がする。
 速球も変化球も、投げる球全てが俺のイメージ通りの軌道で御幸のミットへと吸い込まれていく。
 投げていてこんなにも楽しいことはない。
 バットが空振り、相手のバッターが悔しそうにしているが、そんな事すらも楽しく感じてしまうのだから我ながらおかしなテンションになっていると自覚する。

 まずは一人目。
 残りは、あと二人だ。

『エース南雲、市大三高のこの回の先頭打者を3球で仕留めました! 試合の折り返しに差し掛かっても全く疲れを感じさせない素晴らしいピッチングです!』

 俺がストライクを取るたびにスタンドから声援が飛び交い、そして三振を奪えば大歓声が巻き起こる。
 まるで球場全体が俺の球に一喜一憂しているようだった。
 これだからピッチャーはやめられない。
 そうして俺のテンションが天井知らずに高まっていき、次の六番バッターに対してはフォーシーム、チェンジアップ、高速スライダーで三球三振に打ち取った。

 あと、一人。
 と、ここで相手ベンチが動いた。

 『おっと。市大三高、ここで代打を送るようです。バッターは一年生、星田! これが起死回生の一手となるのか!?』

 ほぉ、代打か。
 しかもわざわざ一年を出して来るってことはよほど信頼されている選手なんだろうな。
 でも悪いね。
 そんな相手をしっかり抑えられれば市大三高の士気をガクッと削り取れるはずだし、ここは何としても打ち取らせてもらうよ。

「──ストライクッ!」

 初球に投げた球はスライダー。
 相手もバットを振ってきたが当たらずにミットへ吸い込まれていった。
 二球目にフォーシームを投げると、振り遅れながらもバットに当ててくる。
 しかしそれは後ろに飛んでファールとなった。

 これでカウントはツーストライク。
 三球目に決めるつもりで再びスライダーを投げるも、今度はこれもファールにされてしまう。
 ならばと四球目にはフォーシームを投げるが、またファール。

 ふむ、どうやらこのバッターは直球に狙いを定めているらしい。
 打つタイミングが明らかに速球を意識しているのがわかる。
 御幸もそれに気付いたようで、次に出したサインは──スプリット。
 それじゃあ俺のとっておきの球でこの回を締めくくろう。

「──ストライクッ、バッターアウト! チェンジ!」

 ちょっとだけ粘られてしまったけど、最後はこの試合では初となるスプリットで仕留めた。
 無事に三振で終わらせてやったから、少しくらいは相手チームの心をへし折れたんじゃないかな。
 個人的にも満足のいく投球だった。

 

   

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