ダイジョーブじゃない手術を受けた俺113

 クリス先輩が打った!
 待望の先制点。
 打った瞬間にホームランだと分かる当たりで、しかもバックスクリーンに直撃する特大ホームランである。
 停滞していた試合の流れを一気にぶち壊すような衝撃の一撃だった。

「クリス先輩ナイスバッティング! さっきの打席マジでカッコ良かったです!」

 ゆっくりとダイヤモンドを回って帰ってきた先輩を笑顔で迎え入れる。
 普段はクールであまり感情を表に出さない人だが、この時ばかりは嬉しそうに味方からの激励を受けていた。

「初回のチャンスを潰してしまったからな。これでチャラ……とは言わないが少しくらいは取り戻せたか?」

「いやいや、もう十分ですって。先輩がくれたこの一点があれば、あとは俺が最後までしっかり抑えてみせますよ」

 試合に勝つ為にはこの一点あればそれで十分だ。
 あとは俺が打たれなければ良いだけだからな。
 そりゃ多いに越したことはないけど、有っても無くてもやること自体は変わらないんだからどちらでも良い。
 どうせ相手に点をやるつもりなんて無いんだから一緒である。

「フッ、頼もしいな。だが、この回でウチに入る得点が一点だとは限らんぞ?」

 と、ここでさっきの特大ホームランの時と同じくらいの快音が聞こえてきた。

「……そうみたいっすね」

 打った打者はもちろん哲さん。
 青道が誇る四番が放った打球はライナー性の当たりで、惜しくもスタンドには入らなかったが余裕でセカンドまで到達する。
 強烈な当たりはベンチを活気付かせるには十分だった。
 いや、ベンチだけじゃない。
 スタンドから聞こえてくるブラスバンドの演奏や声援の声にも、さっきまでと比べて心なしか力が入っている気がする。

 そして、球場のボルテージが良い感じに上がったところで次の打席に立つのは御幸だ。
 良いタイミングで打順が回ってきた。
 ここで打てれば大歓声間違いなしだろう。
 やはり五番には俺が立つべきだったか……これで打てなかったら本気で打順交代を監督に進言してやる!(三振率No. 1)

「次のバッターは御幸か。同じポジションのライバルとして、お手並み拝見といこうか」

「あいつはチャンスにだけは強いですから。ウチにこんな良い波が来ているのに、それを潰すなんてポカは多分しませんよ」

「まぁ、そうだろうな。本当に良いライバルだよ。倒し甲斐がある」

 こんな強力なライバルに後ろから追い掛けてもらえるなんて、御幸は幸運だ。

『初球から打ったー! 打球は左中間へ大きく飛び、その間にセカンドランナーがホームイン! バッター自身も二塁にまで進みます!』

 打つだろうとは思っていたが、これまた綺麗に打ち返したな。
 哲さんは余裕を持ってホームに生還し、御幸も二塁へスライディングセーフ。
 これまで無失点が続いていたのが嘘みたいにあっさり追加点が入った。
 ノーアウトのまま依然として得点のチャンスが続いている。

 クリス先輩が火付け役となってようやく青道打線が本調子になったのか、もしくはあの特大ホームランで真中さんの集中が切れたのか。
 どちらにせよこの回はまだまだ点が入るかもしれん。
 他の先輩方もさっきからやる気満々って感じだし。

「うっし、いくぞオラァ!」

「うがうが!」

 下位打線と侮るなかれ。
 ここからは伊佐敷先輩、増子先輩、そして俺というパワーヒッターが三人連続で続く恐怖の打順である。
 他の高校なら四番を打っていてもおかしくない面子だ。
 もちろん俺も含めてね! 

『六番バッター伊佐敷、七番バッター増子、連続ヒット! 青道の攻撃が止まりません!』

 打線爆発。
 痛烈な当たりがポンポン出て前の二人が出塁した。
 それによって御幸もホームに帰って来る。
 よぉし、俺も続くぜ! 

「──ストライクッ、バッターアウト!」

 ……ふっ、やりますね真中さん。
 この俺を二度も三振に打ち取るなんて誇ってもいいですよ。
 チャンスが続いている大事な場面で三振という大失態を犯したが、まぁ最悪のゲッツーを免れたと考えればそこまで悪くないのでは?

 うん、そうだな俺どんまい。
 切り替えていこう。
 ベンチから突き刺さる無言の圧が痛いが気にしません。

 その後、青道はランナーを一人返すも真中さんをノックアウトするには至らなかった。
 この回で一気に四点も入れたが、それでもまだまだ球に力がこもっているように感じた。
 見事に三振にされた俺が言うのだから間違いない。(確信)
 次の回からはそう簡単に点を入れられないだろう。

 とはいえ、四点もリードがあれば勝利するには十分すぎる。
 あと6、7、8、9の合計四イニングを抑えれば俺たちの勝ちが決まるんだ。
 強豪校との試合は最後まで油断できないからとても楽しい。
 オラ、ワクワクすっぞ!

 そうして気持ちを完全に切り替えた俺は、自分が三振したことなどすっかり忘れ、再びマウンドへと上がったのだった。

 

   

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