青道がリードしてからも俺と真中さんの投げ合いは続いていた。
ホームランや連続ヒットを打たれ調子を崩すと思われた真中さんだったが、そこから驚異の回復力を見せて持ち直したのだ。
時折コントロールが甘くはなるものの、腕をしっかり振っているから中々長打が出ない。
エースとしての意地なのか6回の大量失点からは一点も入れられていないのは素直に凄いと思う。
ただ、既に限界なのだろう。
試合が始まった頃と比べると明らかに球威は落ちている。
それでもマウンドを死守し続けているのだから敵ながら天晴れ、なんて思うのは少し生意気か。
だけど俺が今そういう気持ちを抱いているのは確かだった。
「ストライクッ、バッターアウト! チェンジ!」
「──しゃあ!」
マウンド上で真中さんが吼えた。
この回のウチのバッターを三人で抑えたし、気迫のこもった良いピッチングだったと思う。
次の最後の攻撃で味方が逆転してくれると信じているらしい。
俺から4点……いや、5点も取れると、ね。
仲間を信じてあそこまで我武者羅になれるなんて、あの人こそがチームにとっての理想的なエースというやつなのかもしれないな。
「これが最後のイニングか。悔いが残らないように、出し惜しみなく全力投球でいかないとな」
勿論、そう簡単に点はやらない。
たとえ相手がどれだけ気合を入れてバットを振ったとしても、勝つのは俺たち青道だ。
悪いけど市大三高はここで散ってくれ。
俺の全力を以って、アンタらを捩じ伏せてやる。
ここまで投げてきたんだから身体の疲労は当然溜まっている筈だが、不思議とそれは全く感じない。
多分いまはアドレナリンが出まくっているから平気なんだろう。
試合が終わればいつもと同じようにドッと疲れが出てくる筈だ。
でも、逆に言えば最後のこのイニングはスタミナを気にせず全力を発揮できるということ。
なので何も問題はない。
試合が終わった後のことなんて、割とどうでも良いし。
「最後のイニング、配球はどうする?」
「御幸に任せるよ。俺はお前が構えた場所に全力でぶち込むから、難しいことを考えるのはそっちに任せる」
「了解。ここまで来たらいつも通りしっかり完封して終わろう。当然、南雲もそのつもりなんだろ?」
言うまでもない。
無言で笑い返してやると御幸も悪そうな笑みを浮かべた。
『ここまで市大三高は南雲から二本のヒットしか打てていません。スタンドからは必死の声援が飛んでいますが、果たしてこのまま終わってしまうのか、市大三高!』
奇しくもこのイニングのトップバッターは真中さん。
向こうには代打という選択肢もあった筈だが、市大三高の監督は交代させることはなく真中さんを打席に立たせた。
俺を真っ直ぐに見据え、未だに闘志を剥き出しにしている。
でもね、気持ちだけじゃ打てないんだよ、俺の球は。
闘う意思なら俺は誰よりも持っている。
勝利への執着も、さらなる高みへの渇望も、全てを原動力に変えて俺はマウンドに立っているんだ。
「ストライクッ!」
だから、負けない。
「ストライク、ツー!」
一球一球に俺の全てを乗せて腕を振る。
直球だろうが変化球だろうが、全力投球ができるこのラストイニングでは決してバットにも触れさせてやらない。
自分の力を出し切れている感覚がして思わず笑みがこぼれてしまう。
「ストライクッ、バッターアウト!」
あっという間に三振を奪った。
悔しげに去っていく真中さんの後ろ姿がとても小さく見えたが、次のバッターが打席に立った頃には頭からその光景が消え失せる。
「ストライクッ、バッターアウト!」
そして、そのバッターも三球で三振に打ち取り、とうとう試合の終わりがすぐそこまで迫ってきてしまった。
あと一人アウトにすれば青道の勝利が決まる。
センバツ……甲子園への切符を手に入れられるのだ。
そう思うと試合が終わってしまうことの寂しさと、甲子園への期待が入り混じって浮ついた気持ちになってきた。
いかんいかん。
まだ試合の途中だというのにもう勝った気でいるなんて、いつも思うが俺の悪い癖だ。
最後のアウトひとつ取るまで決して気は抜かない。
それが相手に対する最大限の礼儀だろうに。
でもまぁ──。
「──ストライクッ、バッターアウト! ゲームセット!」
楽しかったよ、市大三高。
次は夏、またやろうね。
『決まったぁ~! 秋季東京都大会を制したのは、一年生怪物エースを有する青道高校だー!』
球速156キロ
コントロールB
スタミナA
フォーシーム、ツーシーム、スライダー4、高速スライダー3、カットボール3、チェンジアップ3、スプリット2
弾道4 ミートD パワーB 走力C 肩A 守備C 捕球B
怪童、怪物球威、変幻自在、ドクターK、ド根性、鉄人、ミスターゼロ、闘魂、エースの風格、キレ◎、打たれ強さ○、勝ち運、パワーヒッター、人気者、三振