ダイジョーブじゃない手術を受けた俺117

 秋季大会が終わり、そこからさらに月日が流れて神宮大会も終わった。

「結局負けちゃったなぁ。もうちょいで逆転だったんだけど……」

 残念ながら青道は優勝できずに準決勝で敗退という結果だった。
 大会の詳細を話すと、初戦の先発は俺。
 監督から順番に登板させると言われたから真っ先に俺が立候補したんだ。
 相手チームは優勝候補のひとつだったようだが、上がり調子な俺のピッチングの前にヒットを数本打つのみしか出来なかった。

 そうして初戦を突破した青道高校。
 しかし、ウチは初戦に勝てば次にはいきなり準決勝に行ける組み合わせだったのだが、その準決勝で登板したノリが途中で小炎上してしまい、青道はそのまま逆転出来ずに負けてしまった。
 7回からは丹波先輩がマウンドに上がって打線も巻き返そうと必死の援護をしたんだが、残念ながらあと一歩届かなかったのだ。

「そう言うなって。あの敗戦のおかげでノリも一回り成長出来たんじゃねぇか。そう考えればあの負けも意味がある、そうだろ?」

「むぅ……」

 御幸にそう言われて何も言えなくなる。
 これまでのノリにはピンチになるとすぐに崩れるような危うさがあったが、あの時の試合では何とか持ち直していたからな。
 負けたことは確かに悔しいし、もう二度と負けないと誓った身としては無性にむしゃくしゃする。
 だが、チームメイトの成長を素直喜べないほど狭い心は持っていない。
 ノリを責める気持ちなんて微塵も無いしな。
 あるのは試合に負けたってことの悔しさだけだ。

「まぁまぁ、その悔しさは全部3月にあるセンバツにぶつけようぜ? オフの間にしっかりと力を付けて倍返しすれば良いだろ。ノリもあれから吹っ切れて、既に練習に励んでいるしな」

 神宮大会はセンバツの前哨戦みたいなもんだ。
 優勝校の地区には3月にあるセンバツで参加枠がひとつ追加されるという得点があるが、逆に秋季大会の優勝校であるウチにはあまり関係ないとも言える。

 ……うん。
 負けてしまった試合をいつまでも引きずっていても仕方ない。
 ノリも強くなるために頑張っているんだし、俺もこれからのオフで更に成長していかないとな。
 今回の借りはセンバツできっちり返してやるさ。
 アニメやマンガの主人公も大抵は悔しさをバネに成長していくしね。

「あ、オフと言えばさ。前に夏川たちと一緒に遊園地に行くって言ったの覚えてるか?」

「ああ。覚えてるよ」

「それ、来月の29日に決まったから。練習納めが27日で、一回実家に帰ってから現地集合するらしい」

 行き先は日本一のテーマパーク、ネズミーランドだ。
 青道のオフは28日から正月明けの3日までのちょうど一週間で、この休みは例年と比べて数日ほど多いと先輩たちが言っていた。
 ま、練習は休み中もするつもりだから休みが多くても身体が鈍ることはないだろう。

「へぇ、そうなんだ。面子は?」

「男は俺と御幸と倉持。そんで女子が夏川と梅本、それから藤原先輩だ」

「ん?  先輩も来んの?」

「ああ。先輩も一緒に行ってくれるってさ。最初は一年ばっかだから遠慮するって言ってたんだけど、俺と夏川がゴネまくったら折れてくれたんだ」

「ナイス」

「だろ?」

 俺と御幸はガシッと固い握手を交わした。
 藤原先輩を呼び込めたのは我ながら良い仕事をしたと思う。
 ただでさえ練習漬けの毎日で潤いがほとんど無い生活をしているのだから、たまにはこういうイベントがあってもバチは当たらない筈だ。
 遠出して遊びに行くなんて本当に久しぶりだから楽しみである。

「あ、当然だけど他の先輩や同級生たちには内緒な。知られれば絶対面倒なことになるから」

「勿論わかってるとも」

 ウチの野球部では部員に女の影が見えると何故か排斥したがる傾向にある。
 普段は良い先輩たちなんだけど、学校以外ではほとんど隔離されているような生活を送っている所為で、少々頭がおかしくなってしまっているに違いない。

 そして、そんな人達にマネージャーと遊びに行くなんて話してしまえば碌なことにならないのは目に見えている。
 黙っていればそれで済むんだから他に選択肢はなかった。
 こっちも抜け駆けしている自覚はあるし。

 あ、ちなみに一番隠し事が下手そうな倉持にはオフに遊びに行く事だけを伝え、誰と行くかは伝えていなかったりする。
 伊佐敷先輩あたりにポロっと溢されると大変だからね。
 俺の配慮を知れば、あいつは涙を流しながら感謝する筈だ。
 もしくは黙っていたことを怒って関節技を極めてくるかもしれないが、俺にはあまり効かないから別にいい。

「南雲、ちょっといいかな?」

 突然誰かに呼ばれてビクッと身体が反応した。
 さっきの話を誰かに聞かれたのかと思い恐る恐る振り返ると、そこにいたのはノリだった。
 俺と御幸は先輩たちじゃないことにホッと安堵する。

「どした」

「今日の練習が終わった後なんだけど、ちょっと自主練に付き合ってくれないかな?」

 おっ、ノリからそんなことを言ってくるなんて珍しい。
 やる気満々って感じだな。
 ノリは結構気が弱い所があるから自分から何かをしようと言うのは良い傾向だと思う。
 断る理由はない。

「いいぜ、付き合うよ。どうせ今日は肩の休養日だから投げられないしな。俺を呼ぶってことはピッチングか?」

「うん、そのつもり。変化球について少しアドバイスが欲しくてさ。助かるよ」

「いいって。でもそれなら御幸、お前も暇だったら来いよ。投球練習するならキャッチャーがいた方が何かと都合が良いだろ」

 流石に俺がキャッチャーの真似事をするのは無理だ。
 ネットに向かって投げるよりはやっぱりミットに向かって投げた方が実戦に近くて良い練習になるし、丁度いいから御幸も巻き込んでやろう。

「俺も構わねぇよ。好きなだけ付き合う」

「ありがとう、二人とも! それじゃあ練習が終わったらよろしくね」

 ノリが笑顔を浮かべて走っていった。
 俺たちも遊びに行くことを聞かれていなかったと安心して笑顔になっていた。

 

   

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