ダイジョーブじゃない手術を受けた俺121

 今日で長期休みも終わりを迎える。
 青道の練習は明日から再開される予定なので、俺は荷物を纏めて寮に戻る為の準備を進めていた。
 恐らく次も年末まで実家には戻ってこられないだろう。
 だからそう思って色んな物を次々と詰め込んだ結果、帰ってきた時よりも鞄が少し重くなってしまっている。

 日用品とかお菓子とかは別に向こうでも買えるんだけど、ついつい買ってしまったから荷物が増えてしまったな。
 ま、お菓子は俺の大事なエネルギー源だから反省も後悔もしていない。
 パンパンにお菓子が詰まった鞄を見ると幸せな気持ちになるしね。

 他には新しく買って貰った練習用のシューズも鞄の中に入っていて、今からこれを使って練習するのを密かに楽しみにしていたりする。
 新しいバットとかグローブとかと同じで新品ってだけでもワクワクしてしまうから不思議だ。

「……うっし、そろそろ行くか」

 忘れ物が無いかを確認し、荷造りを終えた俺は立ち上がり一階のリビングへ降りていく。
 自分の部屋が名残惜しく思えてしまうが今日でお別れだ。
 また一年後、だな。

「父さん、母さん」

「あら、もう行くの?」

 俺の恰好を見た母さんがそう言った。

「うん。明日から練習が始まるからさ。今から行ってその準備をしておきたいんだ」

 すると、コタツで寛いでいた二人が少し寂しそうな表情を浮かべた気がした。

「まだ少し早くないか? 昼になったばかりだぞ?」

「今行けば帰宅ラッシュを回避出来ると思うし、他のチームメイトはもう家を出てるんみたいなんだ。むしろちょっと遅いくらいだよ」

 ゾノなんて朝から家を出てもう寮にいるらしい。
 多分、今も向こうで素振りでもしているんだろうな。
 本人に聞いても誤魔化していたけど、あいつがそんなに早く寮に戻って何もしていないなんて有り得ない。
 一軍に上がってやろうと一番バットを多く振っているのは俺が見た限りではゾノだからな。
 きっとこの長期休みでも自主トレは欠かさずやっていた筈だ。

「そうか。電車で戻るんだろ? なら、駅まで送るよ。外は少し雪がパラついているみたいだしね」

「え、雪?」

 言われて窓から外を覗いてみると確かに小さい雪がパラパラと降っていた。
 どうりで寒いと思うわけだ。
 リビングは暖房が効いているから快適だが、廊下や俺の部屋は気温がやけに低かったように感じていた。
 おかげで朝は中々布団から抜け出せなかったからね。

 小学生くらいの頃は雪が積もれば嬉しくて遊び回っていた記憶があるけど、今はグラウンドで練習が出来なくなってしまうから雪や雨は降らないで欲しい。
 あ、でも雪だるまはちょっと作りたいかも……。

「サンキュ、父さん。助かるよ」

「このくらい気にするな」

 車を出してもらうのも俺からすればすごく有り難いことだ。
 この荷物を持って歩くのは十数分といえども結構疲れる。
 寮に戻ったら明日の練習に備えて自主練をするつもりなので、それを考えると出来るだけ疲労は残したくなかった。

「太陽、父さん達も甲子園まで応援に行くからな」

「え、でも父さんは仕事があるんじゃ……」

「そんなの休むに決まっているじゃないか。これまでは中々都合がつかなかったけど、息子が甲子園に出場が決まったんだ。なんとしてでも応援に駆けつけるさ」

 そっか、試合を観に来てくれるのか。
 テレビで応援してくれるのも当然嬉しいけど、球場まで足を運んでくれるのはもっと嬉しいし気合いが入る。

「んじゃ、どうせなら決勝戦を観に来てよ。それまではテレビで応援してくれれば十分だからさ」

 もしも途中で負けたらどうするかって? 
 負けないから何も問題はない。
 それに、わざわざ忙しい仕事の合間を縫って試合を観に来てくれると言うんだ。
 だったら一番の舞台を見せてあげたいじゃん。
 俺一人で全試合を投げることは無いけど、流石に決勝戦は俺に先発を任せてくれるだろうしね。

「わかった。太陽がそう言うならそうする。決勝戦は母さんと二人で必ず観に行くからな。頑張れよ」

「任せて。二人に青道が全国優勝するところを見せてあげるよ」

 ちゃんと試合で勝てるように寮に戻ったら早速自主練を始めないとな。
 秋大の決勝戦では全くと言って良いほど打てなかったし、オフの間にピッチングだけじゃなくてバッティングも磨いておきたい。

 勿論ピッチング練習も必要だろう。
 実は御幸とクリス先輩監修の下いくつか新しい変化球を練習中なので、もしかすると三月のセンバツにお披露目できるかもしれない。
 実家にいる間はネットに向かって投げるくらいしか出来なかったから、早くキャッチャーミットに向かって投げ込みたいものだ。

「いってらっしゃい、太陽。私たちはいつでもあなたのことを応援してるから。身体に気を付けて頑張りなさい」

「ん、あんがと。母さん達の方こそ元気でね」

 母さんは偶にこう、小っ恥ずかしい言葉を平気で言ってくるから困る。
 ただ、昔から俺をやる気にさせるのが一番上手いのは母さんだったと、少し懐かしい気分になった。

 

   

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