ダイジョーブじゃない手術を受けた俺123

 年明けからの1ヶ月間の練習はほぼフィジカルトレーニングがメインで進められ、中々ボールに触れられない日が続いた。
 その期間の練習は正直言ってあまり楽しくはなかったけど、落合コーチはフィジカル面でのサポートに長けているので効果はちゃんとあったと思う。
 部員達の身体が一回り、もしくは二回りくらい大きくなっているのがその証拠だ。

「うがうが、うっがー! (見てくれ南雲ちゃん、この筋肉を!)」

 オフの期間では増子先輩が一番変わった。
 あれじゃ野球選手ってよりボディビルダーだが、この恵体を十分に使いこなす事が出来れば増子先輩は今よりも凄まじいパワーヒッターに進化するだろう。
 ま、あれだけ体格が変わるとプレーにも影響が出そうだから調子を崩す可能性もある。
 これから新しい身体に適応出来るかは本人の頑張りと素質次第かな。

「筋トレも良いっすけど、そろそろフィジカル中心の練習メニューから実戦向けのものに変わるそうですよ。……その身体で本当に大丈夫ですか?」

「うがっ! (大丈夫!)」

 大丈夫ならいいや。
 俺だって他の人の心配をしている余裕がある訳でもない。
 増子先輩ほどじゃないけど俺の身体にもトレーニングの成果はしっかりと現れているからな。
 あまりピッチング練習が出来ていないから何とも言えないが、この身体をちゃんと使えれば今までよりも更に力強い投球が出来るようになる筈。
 球速も遂に160キロの大台に乗るかもしれない、そう考えるとどんな辛い練習も楽しくなってくるというものだ。

「おーい、南雲。さっきから顔が死んでるぞ。投げれなくて不満なのは分かるけど、もうちょっと隠す努力しろよ」

 ……うん、楽しくなってくるというのは嘘だ。
 基本的にフィジカルトレーニングってのは地味でしんどいものであり、楽しい要素なんざひとつも無い。
 部員の中には喜んでこの練習に取り組んでいる者もいるが、少なくとも俺は3日で飽きてしまった。

 早く俺に投げさせろー! と、口に出さないだけでも随分成長したと思う。
 監督やコーチに直接交渉しに行くのは慣れている。
 最近は機会が無かったし、今回は落合コーチから身体作りの大切さみたいなのを理論的に教えられたから耐えているだけだ。

「御幸、これでも精一杯表情を殺してる。そうじゃなきゃもっと酷い顔になっていると思うぞ」

「今でも十分恐いけど?」

「フッ、このくらいで恐いなんてお前はまだ俺の本当の恐ろしさを知らないらしいな。俺はまだ二回の変身を残している」

「フリーザかよ」

「ザーボンさん、一緒に監督室へ強襲をかけますか?」

「行かねーよ。あと、誰がザーボンだ」

 そうして愚痴を言いながらも日々の練習を着実にこなし、青道はフィジカル中心だったメニューから甲子園に向けての実戦的な練習へと切り替わるのだった。

 

 ◆◆◆

 

「──ようやくマウンドに上がれたな」

 俺は久しぶりの感触を確かめながら心を落ち着けるように深呼吸をする。
 年明けからの1ヶ月間はほとんどボールに触ることすら無かったので、こうしてマウンドに上がっていることに感動さえ覚えてしまう。

「さぁ来い、南雲……!」

 バッターボックスからヒリ付くような闘志をぶつけてくるのは、すっかり本気モードとなった哲さんだった。
 この人もまた肉体改造によって圧力みたいなものが更に増したような気がする。
 リハビリ相手にはあまりにもカロリーの高い相手だが、哲さんだってまだ本調子では無いはずだ。
 それなら今の俺でも十分に相手が出来るだろう。

「──フッ!」

 指先に全ての力を乗せ、腕全体を鞭のようにしならせながら最後まで振り切る。
 すると御幸が構えていた所とは別の場所にボールは向かってしまったが、球威自体が劣っている訳ではないので、哲さんのバットを潜り抜けて空振りを奪えた。

 パワーが底上げされたからか以前までの感覚との乖離が起こってしまい、いまいちコントロールが定まらないな。
 だがその分フォーシームは力が増しているし、ストライクゾーンには入っているので、投げてみた感じでは決して悪くはなかった。
 一週間もあれば今の身体にも慣れると思う。

 あ、スイングの方も多分感覚が狂っているか。
 そっちも並行して練習しないといけないから合わせて二週間くらいだな。
 その期間で以前と同じ……いや、それ以上の強さを手に入れてみせよう。

「どうした? まだストライクひとつしか取っていないぞ?」

「ははは、安心してください。ちゃんと最後までやりますから」

 まずはこの勝負を楽しまないとな。
 せっかくこんな良いバッターが全力でぶつかって来てくれているんだ。
 今はそれに集中しないと失礼というもの。

 それに、俺との勝負を楽しみにしてくれているのは哲さんだけではない。

「おい南雲! 後ろにはまだまだオレ達が控えてんだ。哲ひとりでバテてんじゃねーぞ!」

 伊佐敷先輩だけではなく、レギュラー陣がバットを持って俺との対戦を心待ちにしている。
 これは丁重にお相手せねばなるまい。
 ここ1ヶ月間の鬱憤を晴らすように、俺はひたすらミットへとボールを投げ込んでいったのだった。

 

   

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