ダイジョーブじゃない手術を受けた俺134

 春の都大会は既に始まっており、センバツで優勝した青道はシード枠でこの大会に参戦する事になる。
 決勝まで残れば関東大会への出場が決まるんだが、本番は3ヶ月後の夏なのでどこまで本気でやるのかは監督にしか分からない。
 個人的には都大会でも関東大会でも優勝を狙いに行きたいけどね。
 去年の関東大会では優勝を逃しちゃったし。

 トーナメントの組み合わせでは準々決勝で市大三高、準決勝で帝東、そして決勝戦で稲実と当たりそうだ。
 正直に言えば市大三高と当たるまでウチが苦戦するような相手はいないので、実質勝負は準々決勝からになると思っている。
 クリス先輩や御幸もそう言っていたから間違いないだろう。

 そして今、初戦を明日に控えた俺達は屋内練習場に集められていた。

「南雲、丹波、川上。お前達には基本的にそれぞれ3イニングずつ投げて貰う予定だ。誰を先発にするかは明日発表する。ただ、不甲斐ないピッチングをすればすぐに変えるからな。いつでもいける準備をしておけ」

 名前を呼ばれた俺たち投手組三人の声が自然と揃って『はい!』と返事を返した。

 そういえば、俺って一年の時みたいに全部の試合で投げたいとはそこまで思わなくなったな。
 試合で投げられるのなら喜んで投げるけど、例えば西東京地区なら市大三高とか稲実くらいが相手じゃないと物足りないというか……。
 センバツの決勝戦では目標にしていた160キロにも到達したし、強くなるために試合に出て経験を積むのはひと段落した感じがある。

 うーん、これは良くない思考かもしれないなぁ。
 無論、試合で投げるのは楽しいのでマウンドに上がりたいという気持ちが無くなったわけではないし、何なら左投げでも登板したいくらいなんだけどさ。

 ……いや、両打ちのスイッチヒッターは稀にいるけど、スイッチピッチャーは聞いた事がない。
 流石に無理があるか。

「そして野手。甲子園でスタメンだったからと言って今後も安泰だと思うな。夏までの数ヶ月、調子が良い者をどんどん起用していくつもりだ。当然、今後の試合の成績は夏の大会でのメンバー選考にも反映される。皆、気を引き締めていけ!」

 今度は投手以外の野手が覇気のこもった声を上げる。
 特に、三年生にとっては次の夏の大会が最後になるから、気合いや覚悟は他の学年のものとは比較にならないくらい高まっているように見えた。
 今スタメンに選ばれている二年生も、油断していたらあっという間に追い抜かれてしまうかもな。

 まぁ、俺は絶対にエースは譲らないけどね! 

「最後に一年生。まだ入部したてで環境の違いに戸惑うこともあると思う。だが一日でも早く、お前達が青道の戦力になってくれることを期待しているぞ。この都大会では一年を起用するつもりはないが、その先の関東大会では実力のある一年を加えることも視野に入れている」

 監督のその言葉に動揺したのは、虎視眈々とベンチ入りを狙っていた二、三年生だった。
 一年生をベンチに加えるということはその分だけ自分達が出場する為の枠が削られるということ。
 当然ながら上級生からすればそんなことは到底受け入れられないし、一年に負けていられるかと焦りや闘争心が剥き出しになる。

「先輩達の動きを学びながら日々の練習をしっかりとこなして欲しい。いいな?」

「はいッッッ!!」

 誰よりも早く返事を返したのは、未だに一人でランニングを続けている沢村だった。
 先日の能力テストでやらかして以来まともな練習は出来ていない筈だが、それでも折れずに毎日朝からひたすら走っている男だ。
 さっきの返事を見れば分かる通り、とりあえず根性だけは既に一人前である。

「……うむ。ではレギュラー陣は明日からの試合備えて早目に上がるように。各自クールダウンはしっかりしておけ。以上、解散」

 そう締めくくり監督の話が終わった。
 いつもなら前日までにスタメンの発表をするんだけど、どうやら今回は当日に行うらしい。
 何か狙いがあるのか、それとも単に決めかねているだけか。

 ま、どちらにせよ俺は試合で全力を出し切るだけだ。
 軽く素振りをしたら風呂に入ってさっさと寝るとしよう。

 と、ぞろぞろと屋内練習場から部員達が出て寮の方へと移動する中、沢村が集団から離れて一人グラウンドの方へと戻って行くのが見えた。
 恐らくはこれからランニングをしに行くんだろう。

「元気だねぇ。今日も一日中走らされてたんだろうに」

 普通のやつならとっくに根を上げてもおかしくない。
 何しろ、今の沢村はひたすらにグラウンドの周りを走っているだけだからな。
 他の一年だって体力を付ける為にランニングを多くやっているけど、全くボールに触れていない訳じゃないし、それなりに練習にも参加している。
 俺が沢村の立場なら勝手にボールを使って練習をやっていたかもしれない。

「ちょっとだけ様子を見に行ってみるかな」

 少しだけ沢村の様子が気になった俺は、素振り用にバットを持って後を追った。

 

   

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