ダイジョーブじゃない手術を受けた俺140

 成宮と別れた後はバスに乗り遅れることもなく無事に学校へと帰って来れた。
 試合に出た選手は練習に自由参加と言われたが、俺は3イニングしか投げていないという事もあってさほど疲れてはおらず、野手に混じってバッティング練習に加わった。
 流石にブルペンでの投げ込みは許可が下りなかったのだ。

 今日の試合の結果は3打席2安打1ホームラン、投手としては3イニングを無失点7奪三振という成績である。
 中々悪くない成績だと思う。
 これが毎試合出来れば5番バッターとして定着することも不可能ではないだろう。
 その為にも今は一つでも多くバットを振らなければならない。

「あ、南雲先輩。これからネット打ちですよね? 良かったら俺に球出しさせてもらえませんか?」

 すると金丸がそんなことを言ってくれた。
 少し前までは俺たちが一番下だったから自分から誰かに頼まないといけなかったけど、こうやって後輩から申し出てくれるのは有り難い。

「お、それは助かるよ。ちょうど誰かに頼もうと思ってたんだ。それじゃあ早速だけどお願いしても大丈夫か?」

「ウスッ、わかりました」

 手早く準備をしてネット打ちの練習に入る。
 この練習では強い打球をネットへ打つというよりも、自分のフォームを意識しながらトスされるボールにスイングする事が大事だ。
 そうすれば自然といい当たりが多くなる。

 バッティング練習として一番良いのはやっぱり実戦形式で打席に立つことだけど、いつでもそんな練習が出来る訳じゃない。
 それこそプロにでもならない限り難しいだろう。
 夏の大会が近付けば、一軍以外の選手が好意で手伝ってはくれるけどね。

「先輩、ちょっと質問いいですか?」

 カゴに入っていた球を全部打ち終わり、ボールを回収しているタイミングで金丸が伺うように口を開いた。

「どした?」

「先輩は打席に入った時にどういうことを考えてるんですか?」

 打席に入ったら考えていることか。
 うーん、正直に言うとあんまりそういうのは無いんだよな。
 そういった質問は俺よりもクリス先輩に聞いた方が納得のいく回答が返って来ると思う。

「基本的には来た球を打ち返す事しか考えてないかな。俺は相手の配球を予測したり、左右に打ち分けたりなんて器用なことは出来ないからさ。強いて言うならいつでも思いっきりバットを振り抜く、ってことは意識してるよ」

「なるほど……」

「技術的なことならクリス先輩に聞くといい。あの人はセンスの塊みたいな人だけど、それと同じかそれ以上に努力してる人でもあるから。きっと俺よりもちゃんとしたアドバイスをくれると思うぜ」

「あ、いや。南雲先輩のアドバイスもすごく為になります! ありがとうございました!」

「そうか? それなら良いけど」

 役に立てたならそれで良いと思いながら、俺は時折飛んでくる金丸からの質問に答えながらバッティング練習を続けた。

 

 ◆◆◆

 

「明日、レギュラー陣以外の選手を対象にして紅白戦を行おうと思っている。一年生と二、三年生の試合だ。そこでの結果次第では一軍や二軍への昇格もあり得るので、各自悔いのないプレーをするように」

 本日の練習終わりに監督から選手へ向けてそう伝えられた。
 去年もやったあの紅白戦だ。
 俺は出られなかったけど、今の二年にとってはほろ苦い経験として記憶に残っている者も多いだろう。
 ノリなんか今でもたまに夢に見るとか言っていたし。

「俺たち新入生と先輩たちとの試合……今から緊張してきた」

 公式戦ではないが、青道に入学してからちゃんとした試合をするのはこれが初めてとなる金丸は拳を握りしめて喜びを露わにしていた。
 そりゃ嬉しいよな。
 試合に出られるチャンスが巡ってきたんだから。

「南雲先輩、監督が言っていた紅白戦って毎年行われているんですよね? 去年ははどっちが勝ったんですか?」

「そりゃ先輩達の圧勝だよ。二軍と言っても一軍に引けを取らない実力の人はいっぱい居たし、その時の先輩達はみんな一軍へ上がる為に必死だったからな。正直、勝負にすらなっていなかったよ」

「そ、そこまでなんスか……」

 想像以上に険しい戦いになると知って顔を青褪めさせた。
 毎年、この紅白戦で一年生は大敗するという話だ。
 去年もその例に漏れず見事なまでのボロ負けを食らった。
 もしも俺が出ていたとしても、あの時の俺では最後まで投げ抜けるだけのスタミナは無かったから結局負けていただろう。

 ただ、この紅白戦で大事なのは勝ち負けではない。
 一年以上このチームでやってきた選手がこの間まで中学生だった選手に勝てる訳ないことくらい、監督だって十分承知の上なのだから。

 監督もきっとそういう選手にはチャンスを与えてくれる。
 だけどそれは言わないでおくか。
 あんまり俺が口を出してもそれが金丸の成長に繋がるとは限らないからな。
 これからどうするかは本人次第だ。

「ま、相手は同じ高校生なんだ。だから絶対に勝てない訳じゃない。やるからには最後まで諦めんなよ?」

「ウスッ」

 実力とやる気がある後輩は大歓迎だ。
 金丸のポジションであるサードは増子先輩がレギュラーとなっていて、仮に一軍へと上がってもそこを奪うのは中々難しいものがある。
 夏までの短い期間となれば尚更にな。

「俺はもう上がるけど、金丸はどうする?」

「自分はもう少しバットを振ってから戻ります」

 紅白戦の話が出たからか、金丸はいつも以上にやる気になっているようだ。

「そっか。明日に疲れを残さないうちに切り上げろよ?」

「はいっ」

 金丸のことを応援してやりたい気持ちもあるけど、それと同じくらい先輩や同級生も頑張ってほしい。
 俺はどっちのことを応援すれば良いんだろうか。

 

   

スポンサーリンク

タイトルとURLをコピーしました