ダイジョーブじゃない手術を受けた俺145

 紅白戦の結果、降谷が一軍へ、そして小湊先輩の弟くんと沢村が二軍へそれぞれ昇格することになった。
 まぁ、あの試合の内容なら納得の結果ではある。
 降谷の実力は一軍で投げられるだけのものがあったし、弟くんと沢村は一年生チームの中では一番輝いていたしね。

 ただ、一軍に上がったとはいえ降谷はしばらく試合に出ることは無さそうだ。
 練習は俺たちと一緒に行うだろうけど、試合に出るのは早くても関東大会になるんじゃないかな。
 去年の俺もそうだったし。
 だから結局はしばらくの間、基礎練習で体力やら細かい技術を身につける事になる。

 あ、ちなみに前園ことゾノも今回は一軍昇格は見送りとなった。
 そもそもゾノのポジションであるファーストは哲さんの定位置であり、そこが入れ替わることは怪我でもしない限りまずあり得ないからな。
 残念ながらゾノと同じフィールドでプレーする機会はまだ先になりそうだ。

「オレも早く一軍に上がりてぇ……」

 同じ一年が先に上がったことで金丸も闘志を燃やしている。
 紅白戦では金丸も最後まで頑張ってはいたけど、中々結果には結び付かずに今回の昇格は見送りとなったんだ。
 いずれチャンスは巡ってくるだろうからその時にまた頑張って欲しい。

「焦るなよ。今はしっかりと土台を作ることに専念した方がいい。お前ならそう遠くないうちに一軍へ上がれるだろうからな」

「は、はい。ありがとうございます、クリス先輩!」

 おっと、何か声を掛けようと思っていたら先輩に先を越されてしまった。
 でもこういうのは俺が言うよりもクリス先輩が言った方が説得力があるんだよな。
 こう……人生経験の違い? 
 いや、1年しか歳は違わないんだけどさ。

「南雲、明日の相手は市大三高だ。確実にこれまでの試合より厳しくなるだろう。いつもの調子で頼んだぞ」

 俺たち青道は既に準々決勝にまで駒を進めていた。
 これまでの試合内容は大体同じで、どれもコールド勝ち決めながら王者としての強さをしっかりと見せつけている。
 最初に予想した通りここまでは特に波乱も無く、順当に強豪校が勝ち上がってくる結果となっていた。

 決勝戦にまで残れば関東大会に出場できるが、ここからこれまでみたいに簡単には進めないだろうね。
 まずは明日、真中さんがいる市大三高との試合が控えている。
 そしてそれに勝っても帝東、稲実と東京屈指の強豪との連戦だ。
 考えるだけでワクワクするようなラインナップである。

 今の成宮がどこまで強くなったのかを直接自分の目で確かめる為にも、明日の試合は負ける訳にはいかなかった。
 勿論、市大三校戦も楽しみだけどね。
 これはもう、何としても勝ち進まねばなるまい。

「もちろん大丈夫ですよ。ま、俺は先発とは言っても3イニングしか投げられないんで、やっぱりちょっと物足りない感じになりそうですけど」

 ただ、いくら相手が強くてもたった3イニングだけじゃなぁ。
 どうやら監督はこの都大会ではローテーションを崩すつもりはないようだし、仕方ないことではあるかもしれないが、強いチームを相手にもう少し長くマウンドに立っていたいと思うのは投手として当然のことだろう。

「そういえば市大三高に新しい投手が出てきたらしいぞ」

「新しい投手? それって一年ってことですか?」

「いや、お前と同じ二年生だ。この大会から見かけるようになったんだが、映像を見る限り中々良いピッチャーに見えた。潜在能力で言えば真中以上の投手かもしれない」

 真中さん以上、か。
 それはまた期待が出来る強敵だな。
 今回はまだ全力のぶつかり合いって訳にはいかないけど、そんなに凄いやつが市大三高にいるなら今まで以上に手強い相手になってそうだ。

 ただ、青道もかなり強くなっているから、市大三校がどれだけ強くなっていたとしても負ける気はしないかな。
 全国優勝したチームがそう簡単に負けてたまるかい。

「オレも明日はスタンドから全力で応援します!」

「おう! 頼んだぜ、金丸!」

 可愛い後輩の期待にも応えなくちゃいけないし、こりゃ絶対に無様な試合は出来ないよな。

 ──しかし、そんな俺の気持ちとは裏腹に試合は予想外の展開迎えることになる。

 

 ◆◆◆

 

 翌日、球場にバスで移動すると真っ先に目に付いたのが人の多さだった。
 元々そんなに世間的な注目度が高くない大会の、それも準々決勝という日にしてはかなり多くの観客が集まっているようだ。
 それだけ今日行われる試合が注目されているんだろう。

「予想以上に注目されてるな……。去年なんて地元の人ばっかでスカスカだったのに、今日は入り切らないくらい人が多い。まだ都大会なのにね」

「ま、甲子園で優勝したんだ。これくらいの変化は当然だよ」

 これまでの試合も観客が多いなとは思っていたけど、今日はそれとは比較にならない。
 やはり相手が強いとそれだけ注目度が高まるのかな。
 これだけ観客が多いと、割と緊張しやすいウチの投手陣が少し心配になるんだけど、二人とも甲子園で投げているんだし……流石に大丈夫だよね? 

 俺はチラッと丹波先輩の表情を盗み見る。

 ……ふむ、わからん。
 いつも通りムスッとしている。
 パッと見た感じでは緊張しているようには見えないけど、あの人はあまりそういうのは表に出さないからな。
 これだと試合が始まってみないことには判断出来そうにない。

 ノリの方は……あー、ありゃ明らかに緊張しているな。
 あの大舞台でのマウンドに比べたら、今日の試合なんて緊張する理由は無いだろうに。
 それに丹波先輩とノリは投手として大幅に成長しているんだ。
 もっと自信を持って良いと思うけどなぁ。
 ま、とりあえず後で声を掛けてやらないと駄目そう。

「そろそろ控え室に移動するみたいだ。行こうぜ、南雲」

「おう」

 少しだけ不安要素を感じながらも、そうして試合開始への秒読みが始まった。

 

   

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