ダイジョーブじゃない手術を受けた俺148

 3-2。
 それが青道 対 市大三高の試合の結果である。
 一時は同点にまで迫り、あわや逆転というところまで行ったのだが、天久の次にマウンドに上がった真中さんにそのチャンスを潰された。
 そして最終回に市大三高に一点を奪われて勝ち越されしまい、俺たちは追加点を挙げられずに青道の負けが決定したのだ。

 ここ最近、というか負けた試合がいつだったか思い出せないくらいの連勝続きだったから、久しぶりの敗戦はかなり精神的にくるものがある。
 今日の試合は内容自体も良くなかったので、試合後はチーム全体がすっかり暗くなっていたしな。

 普段なら点を取れるはずの場面で焦ってチャンスを逃したり、守備でも小さなミスを何度かしてしまったのだから、そうなるのも当然である。

 あれはちょっとね。
 個人の失敗というよりはチーム全体の意識があまりよろしくなかった。
 簡単に言えば俺たちは慢心していたんだと思う。
 フルメンバーでの試合は負け無しだったから、無意識のうちに青道は絶対に負けないと勘違いをしてしまっていたんだろうね。
 だから負けそうになった時に焦って何度もミスをする。

 まぁ、これは俺の予想だから違っている可能性も普通にあるんだけど。

「南雲、ここを追い出される前に早く移動しよーぜ。 もたもたしてると次の試合が始まっちまう」

「……ん。そうだな。成宮の強さもどのくらい成長しているのか確かめないといけないし」

 御幸の言葉で立ち上がった俺は妙に重たい腰を上げ、荷物をまとめてベンチから立ち去った。
 この後は稲実の試合が行われる。
 希望者は試合を観戦していっても良いらしいので、俺と御幸、そしてクリス先輩は残って稲実の状態を確認する予定だ。

 こっちが負けてしまったから稲実とはしばらく戦えないのが本当に残念でならない。
 てか、マジで市大三高との試合をやり直したいな。
 やっぱりどんな大会だろうと負けるっていうのは悔しいものだ。
 たとえ都大会でもそれは変わらないらしい。

「全員が学校に戻ったらミーティング後すぐに練習を始めるってよ。監督、かなりご立腹だったから今日の練習はたぶん長くなるぜ。ま、内容が内容だけに仕方ねーけど」

「だよなぁ……」

 今日は一体どれだけ走らされるのか分かったもんじゃない。
 ただ負けただけならそこまで厳しいものにはならないだろうが、さっきの試合みたいに不甲斐ない試合をした後は……恐ろしい地獄が俺たちを待っている。
 責任はもちろん俺たち自身にあるから文句なんて言わないが、ただでさえ負けて落ち込んでるのに、それを考えると少し憂鬱だった。

 はぁ、でもしょうがないよな。
 あんな試合をしたんだから。
 今頃、他のメンバーもバスの中で反省会でもしているんだろう。
 こうなったら学校に戻ったらとことん走って、いつも以上にバットを振るしかあるまい。

「ねね、君ら青道の南雲と御幸だよね?」

 学校に戻った後のことを考えながら球場内を移動していると、俺たちにそう声をかけてくるやつがいた。
 振り返ればそこには見覚えのある坊主頭がいる。

「んあ?  誰だ、ってお前天久じゃねーか」

 話し掛けて来たのはついさっきまで敵として戦っていた相手、天久 光聖だった。
 こいつ、一体何をしに来やがった? 
 いくら同い年とはいえ自分たちのことを負かした相手とすぐに仲良く出来る訳もなく、俺と御幸の顔も自然と険しくなっていく。

 しかし、そんな俺たちにはお構いなしに天久は曇りのない笑みを浮かべていた。

「ははっ、やっぱり合ってた。俺、実は南雲とはちょっと前に会ってるんだぜ。そん時はちゃんと挨拶出来なかったからさ、こうしてわざわざ会いに来たんだよ。あ、二人ともLINEやってる? 俺と交換しよーぜ」

「はい?」

「お、おい」

 急に現れたと思えば俺たちがいきなりなんだと困惑しているうちに、俺と御幸は急かされながら連絡先を交換してしまった。
 妙に馴れ馴れしいから調子が狂ってしまう。
 普通、さっきまで試合をしていた相手にこんな風に話し掛けられるか? 

「南雲の投げる球ってめちゃくちゃスゲェよな。俺のスライダーもお前のを少し参考にしたんだぜ?」

「へぇ、そりゃ光栄だけど……」

「でも俺のはまだまだだよ。今日は投げなかったみたいだけど、南雲のエグい方のスライダーと比べたら全然だ。あれどうやって投げんの? なぁ教えてくれよー」

「ヤダよ。つーか教える訳ないだろ」

 敵が強くなっていくのは大歓迎だが、わざわざ自分の手札を教えてやるつもりはない。
 勝手に盗むのは好きにしてくれって感じだけど。

 あ、でも高速スライダーと同じくらいの変化球を天久が持っているのなら話は別だぞ。
 それと交換で教え合うのなら考えても良い。

「やっぱダメかー。じゃあさ、普段どういうトレーニングしてんの? ちなみに俺は──」

「いや、別に聞いてないんだけど……」

 その後も天久のマシンガントークは続き、観客席に移動してからもずっと俺たちから離れようとはせず、そして何故か稲実の試合を一緒に観ることになった。
 しばらく会話していると天久の性格もだんだんわかってきて、ちゃんと話せばデリカシーが欠けているだけで悪いやつではないんだろうと思った。

 ……あれ? 
 なんで俺はこいつと仲良くしてんだ?

 

   

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