ダイジョーブじゃない手術を受けた俺153

 空いている場所に移動して俺たちもピッチング練習を始めた。
 まずは軽くキャッチボールをして肩を温め、徐々に力を入れて球を走らせていく。
 甲子園からMAX球速は変わっていないが変化球のキレは全体的に少し上がっていて、もう少し磨いたら新しい球種を増やすのもアリだ。

「よし、そろそろ座っていいぞ。もう肩は十分温まった」

「オーケー」

 だけどしばらくは新しい変化球に手を出すのは後回しになりそうかな。
 既にある球種の完成度をもっと上げておきたいし、今はバッティングの方に力を割いている途中だから。
 ここで色んなことに手を出すと中途半端になる。
 少なくともバッティングに明確な成長を感じ取れるまではお預けだ。

 ただ、出来れば夏の大会までにはそれなりに使えるものを仕上げたいとは思っているんだよね。
 そうすれば市大三高や帝東、稲実とかの強豪と戦う時に隠し球として意表を突けるし。
 一応、候補も考えてあるので動き出す時は色んな人に相談しながら徐々に決めていくとしよう。

「よっ、と」

 スパンッッ、と気持ちの良い音が響く。
 やっぱりフォーシームを投げた時が一番しっくりくるな。
 御幸のキャッチングと合わさって投げれば投げるほど調子が良くなってくる気がするから不思議だ。

 気付けば同じようにブルペンで練習していた部員たちが俺たちの方を向いていた。
 特に沢村は目を輝かせながらガン見している。
 そういえばここで一緒に練習するのは初めてだったか。
 いつもすれ違いで入れ替わっていたから、こうして隣り合わせになるのはこれが最初のはずだ。
 スタンドから見せた時とは違って間近で見るとまた見え方も違ってくるのだろう。

 ──そろそろギアを上げていくか。

 俺は渾身の一球をミットへ投げ込んだ。
 強烈なスピンをボールに掛け、空気抵抗を極限まで減らした俺の球は、御幸曰く本当に浮き上がってくるように感じるのだとか。
 今となっては変化球も多くなったが、やはり俺の一番の武器はこの直球だな。
 調子が良い日だと真っ直ぐだけでも打たれる気がしない日もあるくらいだ。

「す、すげぇ……」

 さっきからずっとこっちに意識を向けている沢村は完全に手が止まってしまっていた。
 俺は別にこのくらいで集中力が切れることは無いから構わないけど、それだと宮内先輩が手持ち無沙汰になってしまう。
 先輩だって自分の力を上げようと色々と模索しているんだ。
 流石にこのまま見学させておく訳にはいかない。

「投げねぇの? 宮内先輩、ずっと待っててくれてるぞ」

「あっ、すいません!」

 俺の言葉に慌てて自分のピッチング練習に戻り、宮内先輩からアドバイスも貰いながら真剣な表情で投げ込みを続けていった。

 悪い奴ではないんだよ。
 言われたことは意外にもちゃんとするし、クリス先輩からの助言も素直に聞き入れているみたいだしな。
 ひたむきに頑張っているのが分かるから応援したくもなる。

「今のどーっスか!?」

「左バッターなら完全にデッドボールだな」

「なにぃー!?」

 俺が気になることと言えば、ちょっと頭が悪そうな点くらいである。

 

 ◆◆◆

 

 今日の分の練習を終えた俺は一足先にブルペンを後にした。
 御幸はもうちょっと残って投手陣の状態を見ておきたい様子だったので、切り上げてきたのは俺だけだ。
 これからバットを振るって気分でも無くなったし、今は筋トレでもしようと屋内練習場に移動中である。
 さっきまで投げていたから上半身にあまり負荷がかからないトレーニングにしようかね。

「あ、あのぉ……」

「ん?」

 どんな筋トレをするか考えていると、ジャージ姿の女の子に声を掛けられた。
 この子は確か、新しく入ったマネージャーの吉川さんだ。
 今年は例年以上にマネージャー志望の女生徒が多かったらしいのだが、マネージャーと言えどもサポートする側はかなりのハードワークで、数日もすればバタバタと辞めていく人が続出した。
 そんな中でただ一人残ったのが彼女、吉川 春乃さんだった。
 だからこそ吉川さんのことはよく印象に残っている。

「落合コーチにこの資料をクリスさんって方に渡すように頼まれたんですけど、どこにいるか分かりますか? まだ顔と名前をはっきり覚えれてなくて……」

 吉川さんは両手に何かのファイルを抱えながらそう言った。

「クリス先輩なら多分まだブルペンにいると思うよ。あ、でも結構集中してたからちょっと声掛け難いかも」

 まだこの部に馴染んでいるとは言えない彼女には、みんなが練習している中を入って行くのは少し勇気がいるだろう。
 なんせあそこには顔が厳つい丹波先輩もいる。
 それにまだ顔を覚えていないんだったら誰がクリス先輩かもわからないはずだ。

「俺が代わりに渡すのも良いんだけど……どうせならこの機会にみんなのこと覚えよっか。俺が案内するよ」

「え、いいんですか?」

「いいよ。ちなみに俺は南雲 太陽。よろしくね」

「は、はい! わたしは吉川 春乃と申します。こちらこそどうぞよろしくお願いします!」

 男なら自力で何とかしろと言っていたかもしれないが、俺は女の子にはすごく優しいんだ。
 せっかく残ってくれたマネージャーだし大切にしないとね。

 

 球速160キロ
 コントロールB
 スタミナA

 フォーシーム、ツーシーム、スライダー7、高速スライダー3、カットボール3、チェンジアップ3、スプリット5、カーブ4

 弾道4 ミートD パワーA 走力C 肩A 守備C 捕球B

 真・怪童、怪物球威、変幻自在、ドクターK、ド根性、鉄人、ミスターゼロ、闘魂、エースの風格、キレ◎、打たれ強さ○、勝ち運、パワーヒッター、人気者

 

   

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