全身の血が沸騰し、身体が炎に包まれているような熱を感じる。
実際、今の俺は凄まじい熱気を周囲に撒き散らしていることだろう。
身体に残されているエネルギーを湯水のように消費しているような感覚があるが、それを止めようとも、止めたいとも思わなかった。
今はただ、俺の所有物に手を出した不細工野郎にこの怒りをぶつけたい。
俺はレベッカに何か特別な感情を抱いている訳じゃないが、一度彼女の血を飲むと決めたのだ。
これは、そう、自分の物を他人に傷つけられたような不愉快な感覚。
だから気付けば俺は、レベッカを吹き飛ばしたタイラントの首を――引き千切っていた。
「ァ……?」
「死ね」
硬い皮膚に覆われたタイラントの首。
本来なら俺の力でも引き千切るなんて真似は出来ない。
だが、不思議と今なら出来ないとは全く思わなかったし、自分でも驚くほどの力でそれをあっさりとやってのけてしまった。
どうしてなのかはわからないが、今の俺は体の奥底から力が湧き上がってくるような、一種の全能感で満たされているのだ。
そして、怒りは最高潮に達している一方で、それでも頭は冷静である。
浮かび上がってくる破壊衝動を全て残っているもう一体のタイラントへ向けた。
「グゥゥウ……!」
奴が後ろに後ずさった。
生物兵器として生まれたくせに、恐怖しているのだろうか。
だが、もう遅い。
俺の所有物に手を出したのだから、コイツらの運命はもはや決まっている。
――死、あるのみ。
今度はゆっくり、わざと恐怖を湧き立たせるように近付いてく。
「ガ、グゥゥ……!」
一歩進めば一歩下がり、二歩進めば二歩下がる。
そんなおかしな行動をするタイラントは、デカい図体をしている事も相まってひどく滑稽な光景であった。
クックック、そうだ。
お前みたいな木偶の坊はそうやって怯えている姿が相応しい。
分不相応にも俺の獲物を横取りしようとするなんて、決して許されない行為だ。
後悔しながら、そして恐怖しながら死んでいけ。
「――グゥゥゥウウァアアア!!」
いよいよ恐怖に耐えきれなくなったのか、もしくは自分が怯えているという事実に耐えきれなくなったのか、生き残っていたタイラントは雄叫びを上げながら突進してきた。
コイツの肉体はそれ自体が凶器である。
俺も悠長に構えていれば無事では済まない。
「うるせぇ」
しかし、今の俺にとって碌な知能もない肉人形など、全く脅威には映らなかった。
力任せに突っ込んで来るタイラントを右腕だけで止めてみせる。
「ゥゥウ……!?」
力にはそれ以上の力を以って対処する。
相手の心をへし折るにはそれ以上に効果的な手段はない。
もっとも、この生物兵器に心などと言う高尚なものがあるとは思えないが。
「さぁ、もっと足掻け。無様に足掻け。貴様らのような塵芥が、存在するだけでも害悪な貴様らが、よりにもよって俺の機嫌を損ねたんだ。せめて最期くらいは喜劇のように死んで行け」
「ゥァアア!?」
握っていたタイラントの拳をそのまま握り潰す。
あぁ、最高に気分が良い。
目障りなゴミを圧倒的な力で蹂躙するのは、これほどまでに高揚するものだったのか。
自分の手が握り潰されるという異様な体験をしたタイラントは、俺の希望通り滑稽なダンスを踊りながらもがいている。
だが、もうこれにも飽きてしまった。
そろそろお別れだ、出来損ない。
グチャ。
「――――」
拳と同じように、右胸に飛び出している心臓のような部位を破壊してやった。
声にもならない悲鳴を上げ、膝をついたところで先ほどのタイラントと同様に首を引き千切る。
肉の筋が引き裂かれていく感触。
ハッハッハ、これはまるで――。
「……いや待て。俺は一体何をやっているんだ?」
自分の行動にハッとする。
いつの間にか薬物を投与された時みたいに思考に靄が掛かり、吸血衝動のような逆らい難い感情の波に飲み込まれてしまっていたようだ。
自身の行動を思い返して不快感が胸に広がっていく。
あぁ、クソ。
今はこんな奴らの相手をしている余裕は無いだろうが。
そうして二体のタイラントを抹殺したことで落ち着いた俺は、右手に持っていたタイラントの首を放り投げ、後ろで倒れているレベッカの方へと駆け寄った。
「おいレベッカ! 大丈夫だよな?」
彼女から返事は返ってこなかった。
だが意識は無くとも、胸が僅かに上下しているのを見る限り死んではいないようだ。
恐らく気を失っているだけなんだろう。
彼女の無事を確認すると、頭の中を支配していた破壊衝動が徐々に収まっていく。
しかしその瞬間、身体がドッと重くなったような感覚が俺を襲い、咄嗟に床に手をついて意識が飛ぶのを気合いで踏み止まらせる。
やはり、あれだけエネルギーを消費している感覚があったのだから、その分反動も大きいか。
原理はよくわからないが、今後は気を付けないとな。
「……レイ、お前はどっちだ?」
ずいぶん緊張した声が聞こえてくる。
あー、そういえばコイツらもいたんだったな。
脳に訴えかけてくる倦怠感を無視して顔を上げると、クリスが緊張した様子で俺に銃口を向けていた。