「おーい、ナルトー。遊びに来たぞー」
ドンドンと扉をノックしながら、俺はナルトが住んでいるアパートの部屋の前でそう呼びかける。
しかし、すぐには返事が返って来なかった。
現在の時刻は朝の10時くらいだが、もしかすると既に外出してしまったのかもしれん。
一応、人を訪ねるのに迷惑じゃない時間を見計らって今の時間帯に来たんだが、それがかえって仇となったか?
俺がそんな心配をしていると、扉の向こうからゴソゴソと物音が響いてくる。
ほっ、良かった。
どうやら外出はしておらず、ナルトはまだ部屋の中に居るみたいだ。
「……誰だってばよ」
「俺だ、カムイだ。この前一緒に一楽のラーメン食ったカムイ。遊びに来たから早く開けてくれ」
「っ! すぐに開けるってばよ!」
扉の向こうから聞こえてきたナルトの声は、最初はいかにも警戒しているというような声色だったが、声の主が俺だと分かるとすぐに鍵を開けてくれた。
そして、そこから金髪のツンツン頭がひょっこりと顔を出す。
ナルトがあまりにも人懐っこい笑みを浮かべているもんだから、こっちも思わず笑みがこぼれてしまった。
「よっ、ナルト。暇だから遊びに来たぜ」
「オレさ、オレさ! ずっとカムイが来てくれるの待ってたんだっ。とりあえず入ってくれってばよ! ……あれ、後ろのねぇちゃんは誰だ?」
俺の後ろにもう一人いることに気づくと、ナルトは多少警戒した様子で紅さんに視線を向けた。
多少で済んでいるのは幸いと言っていいだろう。
もしも紅さんが少しでも嫌悪感を出していれば、きっとナルトはそれに気づいてもっと怯えていたはずだから。
ま、俺は紅さんがそんな人だとは思っていないからこそ、一緒に此処まで来たんだけどね。
おっと、それよりもまずは紅さんの紹介からだな。
「ふっふっふ、聞いて驚け。この美女はなんと、俺の彼女だ!」
「え!? カムイってば、もう彼女がいるのかってばよ!? スゲェ!」
ナルトが俺を尊敬の眼差しで見上げてくる。
別に嘘を言ったつもりはない。
俺のこの世界での目標は当面の間、大筒木一族の再興という事に決めたからな。
紅さんとは同棲もしているし、養ってももらっている。
それはもう付き合っていると言っても過言では――。
「いつから私がカムイの彼女になったのかしら?」
コツン、と後ろから頭を軽く小突かれた。
「え!? 昨日の熱い夜は嘘だったんですか!?」
「それは貴方のエッチな夢の話でしょ。このままだといつまで経っても話が進まないから、カムイは少し大人しくしててちょうだい」
「はーい」
これ以上ふざける本気で怒られそうなので、ここは紅さんに任せよう。
結構子供の扱いに慣れていそうだし、下手に俺が紹介するよりもそっちの方がナルトとの距離が縮まりやすそうだからな。
てか、いつのまにかナルトが俺の後ろに隠れてるんですが……幼少期のナルトって、こんなにシャイボーイだったっけ?
「はじめまして、ナルトくん。私の名前は夕日 紅。木ノ葉の里の忍で、今はこのカムイの世話役をしているわ。よろしくね」
「……オレはうずまき ナルトだってばよ。……よろしく」
差し出された手を、ナルトは恐る恐るといった感じで握り返した。
まだ完全に信用した訳ではなさそうだが、それは今までの境遇を考えれば当然だ。
俺にすぐ懐いたのは比較的に歳が近かったからだろうし、むしろ大人である紅さんに歩み寄っているだけ、その反応は上出来だろう。
「あ、そうだ。紅さんがお前に朝飯を用意してくれていたんだけど、やっぱりもう食べちゃったか?」
「え、飯!? まだまだ、全然食べてないってばよ!」
よほど腹が空いていたのか、ナルトは若干食い気味でそう言った。
こんな時間まで朝飯を食ってないってことは、さては今の今までぐーすか寝てやがったな?
俺も一人暮らししていた頃はしょっちゅう朝飯兼昼飯みたいになっていたが、さすがにナルトの歳でそれはまずい。
どうにかしてやりたいが……今の俺も居候の身だ。
あんまり紅さんに迷惑は掛けられないから、ちょくちょく様子を見に来るくらいしか出来そうにない。
すると、紅さんが右手に持ったバスケットを持ち上げながら口を開いた。
「あんまり手の込んだものじゃないけど、味はそこそこのはずよ。よかったら食べて?」
「あんがと! 紅のねぇちゃんってば、スッゲェ良い人だな!」
あらま。
ナルトのやつ、さっきまであんなに警戒してたのに、飯に釣られてすっかり懐いたみたいだ。
良いことなんだろうけど、少し将来が心配になるくらいのチョロさである。
そして上機嫌で先導するナルトの案内で部屋に入ると、まず真っ先に目に飛び込んできたのが――部屋中に散乱しているゴミの山だった。
散らかっているだろうとは思っていたが、正直これは予想以上だぜ……。
「おいおい……想像以上の汚部屋じゃねぇか。こんなところによく住めるな……」
「へへへ、照れるってばよ」
「……褒めてねぇよ。いまのどこを褒められたと思ったんだ?」
何故かニコニコしているナルトに、俺と紅さんは呆れたような視線を送る。
部屋にはカップラーメンの空がそこら中に転がっているし、ゴミ袋もそのままで放置されていた。
別に俺は潔癖症という訳ではないが、さすがにこんな部屋には居たくない。
遊ぶよりもまず先に、此処をちゃちゃっと片付けてやるか。
「――《多重・影分身の術》」
両手の指で十字の印を作り、そしてチャクラを練ってやれば俺そっくりの分身体が現れる。
俺はその分身体2体に命令した。
「よしお前たち、パパッと片付けてくれたまえ」
『おう! 任せろ!』
分身体たちはさっそく部屋の片付けに取り掛かった。
影分身ってかなり便利な術だ。
チャクラが多くなければ習得できないが、これさえマスターすればこうして雑務を任せることだってできる。
「す、すっげぇ! カムイが三人に増えたってばよ!?」
「ふっふっふ、俺に使えない術は……ない!」
「かっこいいってばよ!」
俺たちのそんな馬鹿な会話を、紅さんは微妙な顔で眺めていたのだった。