大筒木一族の最後の末裔18

 ゴミが散乱している部屋を影分身であっという間に片付け、その後にナルトには遅すぎる朝食を取らせた。
 食欲旺盛な子供らしく、美味そうにものすごい勢いで口に放り込んでいる。
 紅さんの料理は絶品だからな。
 カップラーメンで済ませることが多いナルトには、さぞかし美味しく感じることだろう。

 しかし、もう少し上品に食えないものか……なんて考えていると、なぜか紅さんから『貴方と大差ないわよ?』などと言われてしまった。
 まったく、精神年齢は既に大人な俺がナルトと一緒なわけないだろうに。
 本当に解せん。

「あのさ! あのさ! 今日は何して遊ぶんだ?」

 そして食べ終えた途端、ナルトは目を輝かせてそう言った。

「んー、実はあんまり考えてなかったんだよなぁ。そもそも俺はこの里のこと全然知らないし。ナルトは何かやりたい事とか無いのか?」

「それじゃあさ、オレはさっきカムイが使ってた影分身の術?ってのを練習したいってばよ」

 影分身か。
 原作でも最序盤で難なく会得していた筈だし、もしかすると今のナルトでも意外とすんなり覚えられるかもしれない。
 なんせ意外性ナンバーワンと評される主人公様だからな。

 影分身の術はかなり危険な忍術だが、それはチャクラが少ない者に限っての話。
 元々のチャクラが多い上に、尾獣である九尾を封印されているナルトなら、チャクラ切れで死ぬなんてことにはならない……はず。

 まぁ、念のために最初は安全なチャクラコントロールから教えてやればいいか。
 俺もそっちの方が得意だし、中忍である紅さんからもアドバイスを貰えれば、それなりに実のある修行になるだろう。

 あれ? でも修行って遊びになるのか?
 ……別にいいか。
 ナルト本人がしたいって言うんだから。

「それじゃあまず、お前にはチャクラコントロールを教えよう。それが出来たら影分身の術を教えてやる」

「ちゃくら、こんとろーる?」

「ああ、そうだ。チャクラコントロールさえマスターしておけば、今後忍術を取得するのがずいぶん楽になるからな。ようは基礎トレーニングからってことだよ」

「えぇ~。オレってば、すぐに影分身の術を覚えたいってばよ?」

「そう焦るな。千里の道も一歩からって言うだろ。今のうちに基礎から練習しておけば、いずれは最強の忍になること間違いなしだぞ? そうなれば火影にだってなれるかもしれない。どうだ、やるか?」

「す、すげぇ! やる、オレやるってばよ!」

 すぐに影分身の修行に入らないと聞いて不貞腐れ気味だったが、今は目の色を変えてやる気を漲らせている。
 ナルトが単純……もとい純粋で助かった。
 変に捻くれている子供の相手なんて、人生経験がさほど多くない俺に出来るはずがないからな。

「紅さん、この近くに人気のない水場とかってありますか?」

「うーん、近くには無いわね。でも少し離れた所になら心当たりがあるわ。そこで良かったら案内するけど?」

「お願いします。ああ、それと出来れば紅さんにもナルトの修行を一緒に見てやって欲しいんですけど……」

「ええ、もちろん構わないわよ」

 うしっ、紅さんの協力を取り付けたぞ。
 俺の知識とか経験ってかなり偏ったものだから、あんまり指導とかに向いてないんだよな。
 カムイの記憶には父親から受けた虐待じみた訓練しかないし、俺がカムイとなってからは完全に独学でやってきたから、ちゃんとした訓練方法なんて知らない。
 だから紅さんが協力してくれると非常に助かる。

「その歳から修行する意欲があるなんて将来有望な忍ね。力を付けていれば任務での生存率も上がるでしょうし、私もできる限り協力するわ」

 ……そうか。
 主人公であるナルトは今後、激しくて辛い戦いに身を投じていくことになるんだ。
 俺が何か特別な事をしなくても、原作通りにいけばきっと大丈夫だとは思うが……一歩間違えれば死ぬような危険が常に付き纏うだろう。

 いま俺がいる世界は現実だ。
 見ず知らずの他人が死ぬのは別に構わない。
 でも、俺は既にナルトと関わってしまった。
 今もキラキラとした笑顔を俺に向けてくるナルトのことを、とてもじゃないが他人とは思えないのだ。

 傲慢かもしれないけど、出来ればナルトには困難に立ち向かう為の力を付けてやりたいと思っている。
 俺程度にどのくらい教えらえるかは分からないが、それでも俺が出来ることはしてやりたい。

 そんな事を考えていると、自然と言葉が口から飛び出していた。

「強くなれ、ナルト。そうすりゃお前を馬鹿にする連中を見返してやれるし、この世界を自由に生きられる。今よりもずっと、な」

 俺はナルトの頭をガシガシと撫でてやりながらそう言った。
 言葉の意味はイマイチ理解していないかもしれないけど、ナルトは『へへへ……』とはにかみ、照れ臭そうにして鼻を擦る。

「そっか、じゃあオレは強くなるってばよ! そんでさ、オレがカムイと紅のねぇちゃんを悪い奴から守ってやるんだ!」

 な、なんて眩しい笑顔なんだ……!
 守りたい、この純粋無垢な笑顔を。

 

 ◆◆◆

 

 俺たちは紅さんの案内で、里の外れに流れている川にやってきた。
 どうやらこの川の水の流れはそこまで早くない上に水深も俺の膝くらいだし、チャクラコントロールを修行するのにはもってこいだ。
 水場っていう単語だけで、紅さんは俺の意図を正確に読み取ってくれたらしい。

「さぁナルト、さっそく川に入るとしよう。でも深い所があるかもしれないから注意――」

「やっほーーい!」

「おいおい、言ってるそばから飛び込むんじゃねぇよ……」

 ナルトのやついきなり川の中に飛び込みやがった。
 一応、事前に濡れてもいい格好に着替えさせているとはいえ、いくらなんでも思い切りが良すぎるだろうに。

 俺はそんなナルトに呆れながらも、続いて川の中に足を踏み入れる。
 もちろん、足の裏にチャクラを込めてな。
 そうする事で水の表面に張り付き、沈まないように出来るのだ。
 簡単そうに聞こえるが、緻密なチャクラコントロールが要求されるので結構難しい。

 ちなみに、これの原理はまったくの不明である。

「う、浮いてるってばよ!?」

「その通り。足の裏にチャクラを集めることで、こうして水面に浮くことが出来るんだ。凄いだろ? 慣れてくれば崖や木を手を使わずに登ることもできるんだぜ? ナルトにはひとまずこれをマスターしてもらう」

「オ、オレなんかにできるのか不安だってばよ……」

「大丈夫だ。お前なら絶対にできる。それに、心配しなくてもナルトが途中で逃げ出さない限り、俺も投げ出したりしないから安心しろよ」

 ナルトはずいぶんと自信なさげだが、俺は知っている。
 いまは想像できないかもしれないけど、お前はいずれ最高の忍になる男なんだぜ?
 ナルト以上に素質がある子供なんてそうそう居ないだろうさ。

「っ! わかったってばよ、師匠!」

 俺の言葉で安心したようで、ナルトはいつもの人懐っこい笑みを浮かべる。
 こうして俺とナルトの師弟ごっこ……もとい、修行が始まったのだった。

 

   

スポンサーリンク

タイトルとURLをコピーしました