「うんうん、良いぞ。その調子だ。集中力を切らさず、自分の体内に流れるチャクラを足の裏に集中させろ」
「わ、わかったってばよ」
ナルトはまだまだチャクラ操作が不安定なので、いまは辛うじて水面に立っているという状態だ。
こっそり白眼の力を発動してナルトのチャクラの流れを見てみても、あまりスムーズに操作が出来ていないことが分かる。
少しでも波を立ててやればすぐにバランスを崩して水の中に落下してしまうだろう。
ちなみに俺たちがこうして四苦八苦している間、紅さんはひとり木陰で休んでいる。
なんでも俺の教え方が上手いから自分はしばらく必要ないとのこと。
……上手いこと言って休んでいるだけにも感じるが、ここは素直に言葉通りの意味として受け取っておく事にした。
本当に行き詰まった時はアドバイスくらいくれるだろうし。
とはいえ、一体どう教えたもんか。
俺の場合だと『カムイ』としての知識や経験があったから、チャクラ操作に関しては全く困らなかったんだよな。
その上、今の意識が憑依してから何故かそれ以前よりも緻密な操作ができるようになったし。
何か良い方法は……あ、そうだ。
体内を流れるのチャクラの動きが見れるなら、俺が直接ナルトのチャクラを操って、その感覚を身体に覚えさせればいいんじゃないか?
転生眼の力を使えばたぶんそれが可能だ。
直接相手の身体に触れてさえいれば、他人のチャクラだって操作が可能になると思う。
あんまり転生眼を誰かに見られるのは控えた方が良いんだろうけど、ここにはナルトと紅さんしか居ないし、直接瞳を見られないようにすればおそらく大丈夫だろう。
最悪、騒ぎになってもほとぼりが冷めるまで月に帰れば良いしな。
ある程度頭の中で考えをまとめた俺は、さっそく実際にそれを試してみることにした。
「おいナルト、ちょっとだけこっちに来てみな」
「え? どうしたん――おわっ!?」
俺の声に反応したナルトはチャクラ操作が乱れ、そのまま膝まで川に浸かってしまった。
あー、すまんすまん。
急に声を掛けたせいで集中が切れてしまい、あっさり川の中にドボンしたようだ。
ま、既に服は水で濡れていたからそこまで被害は大きくないだろう。
「カムイが話しかけるから落っこちちゃったってばよ……」
「悪い悪い、少し効率の良さそうな修行方法を思い付いてな。つい声を掛けてしまった」
ジト目を向けてくるナルトを宥めつつ、先ほど思い付いた方法を説明してやった。
たぶんほとんど理解は出来ていないと思うが、『やってみるってばよ!』とやる気を見せたので実践してみようと思う。
「それじゃあ右手を出して目を閉じてみろ」
「おうっ」
差し出されたその右手を、俺の手で包み込むように握る。
そして転生眼を発動させてチャクラの操作を開始した。
いきなり動かすと何が起こるか分からないから、出来るだけゆっくり慎重にナルトのチャクラを動かしていく。
正直、思っていたよりもかなり難しい。
まるで粘土を箸で捏ねているみたいな、歪な操作を強制されている感じだ。
ただ、かなり神経を使うが俺の予想通りになんとか操作はできているので、この試みは概ね成功したと言って良いだろう。
ナルトの身体を流れる膨大な量のチャクラが、少しずつ右手に集まっていくのがしっかりと見える。
「分かるか? いまお前のチャクラが右手に集まっているんだ。何かいつもとは違う感覚があったりしないか?」
「……うん。なんか右手だけポカポカするってばよ」
「その感覚を忘れるなよ。右手にチャクラが集まっていった感覚を思い出しながら、今度は自分で足にチャクラを集めるんだ。ほら、やってみな」
「わかった、やってみるってばよ!」
忘れないうちにすぐさま試し始めるナルト。
真剣な表情を浮かべながら、川の中にそっと足を置いた。
お?
ナルトのやつ、さっきまでと比べてかなりチャクラが安定している。
辛うじて水面に立っているという状態だった筈なのに、今では足下が地面の時と同じくらいしっかり踏ん張れているみたいだ。
まさか、あれだけのことでコツを掴んだのか?
だとすると恐ろしい成長の速さだぞ。
素質があるとは分かっていたが、それにしたっていくら何でも覚えるのが早すぎる。
これで影分身なんて成長チートを与えたら、俺みたいに転生眼と身体の性能だけの奴なんてあっという間に抜かされてしまいそうだ……。
「――できた! できたってばよカムイ!」
まぁいいか。
水面歩行が上手く出来るようになって喜んでいるナルトを見ていると、細かいことはどうでも良くなってくる。
今はナルトの成長を素直に喜ぼうじゃないか。
ただ、これからは毎日修行しようと思う。
決してナルトに負けるのが悔しいからではないが、何かあった時に自衛できるよう強くなっておいて損はないだろうからな。
「カムイー、オレってばもう水の上を走れるようになったってばよー!」
……大事なことだからもう一度だけ言うが、修行するのは別にナルトに負けるのが悔しいからではない。